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ゾッコン7

「遺憾です。」


「ごめんってば、ほら!フランクフルト!」


「…下ネタですか?」


「…違うってば。」


結局京野は東雲に弄られたことにより機嫌を損ねた。


だから、東雲は望月の言うとおり阿ることにしたのだが、どうも上手く行かない。


「うーん、どうしたものかな。」


「…これは梨々香の問題なんだから、私に振らないでよね。」


「分かってますよ、ケチ。」


ケチと言っているあたり、助けを求めようとしていたのだろう。


「でも、確かによく出来ていたよね。洋風エリアくらいからは生腕が転がってたりとかして私もつい悲鳴上がったし。」


「…梨々香さん、スプラッターとかは苦手なんですか?」


「うん、R18は行けるけどR18Gはちょっと…ね。」


すると京野は東雲の手からフランクフルトを取って「…覚えておきますね。」と言った。


東雲は涙目になって望月の方を見たが首を横に振って諦めろとサインを送られた。


「…よし!リンくん!ここにね、フランクフルトがもう一本あります!」


「…ですね。」


「見ててよ。」


すると、東雲は何もかかっていないフランクフルトに軽くキスをした後、長いストロークで咥え始めた。


「なっ!!?り、梨々香さん!ここでそんなことしちゃダメですって!」


京野の悲鳴を無視し、東雲はフランクフルトの裏筋(・・)を下からゆっくりと舐めーー上から肉を噛みちぎった。


「ひえやあああああっ!」


京野は叫んでお茶をこぼした。


「やだー、リンくんってば!何想像してたの?」


「酷いです!僕、怒ってたんですよ!」


「あははスプラッター返しだよ。」


望月はそれはスプラッターなのかと言わんばかりに呆れ顔になった。


「じゃ、口直しにまたリンくんとこ行こっかな?」


「ええっ!困ります!」


「え?どうして?」


答えたのは望月の方だった。


「当たり前でしょ、京野くんは風俗嬢以前に彼女がいるということを隠したがっているようだし。自分よクラスに一緒に行けば広がるでしょ?」


「うーん…じゃあ何らかの設定作ろっか。」


「設定って…でも、梨々香さん姉弟設定は嫌だって言ってましたよね?」


東雲は少し考えて、考えを告げた。


「…じゃあ、従姉妹ならいいんじゃない?」


「い、従姉妹ですか…」


「うん。遠くから帰ってきた久々に会った従姉妹が友達も連れて遊びに来たという丁で。」


東雲は長々と設定を告げた後、したり顔になった。


「…うん、まあ、細かい部分はいいとして、それならいいです。」


「やった!前はメイドさんだったから今度は執事がいいな〜。あ、そう言えばさリンくんって裏方だったんでしょ?どんな言い訳をしたの?」


不意に話を振られた京野は動揺しながらも答えた。


「あ、知ってたんですか…えっと、実はですね、普通にシチューを煮込む腕力が無くなったからと言っておきました。」


「へえ、つまんないな。女装趣味に走ったとかそれくらいの言い訳の方が良かったのに。」


すると、京野は東雲を白い目で見た。


「…梨々香さん。僕をなんだと思ってるんですか?」


「ん?勿論彼氏だよ、面白くて可愛くて優しい彼氏さん。」


「そんな、卑怯です!照れちゃうじゃないですか…」


望月は何だかんだで仲良いんだと納得し、ひっそりと微笑んだ。



「らっしゃーせー…って京野か。」


出迎えてくれたのはやる気のなさそうな津田の声だった。


「今回は、客としてか?」


「うん。空いてるかな。」


津田は一つ頷いた。


「ああ、3人だな。東雲さんも来てください。」


「あはは、特別待遇みたいだね。」


「津田君、あくまで一般客として扱ってね。」


「ん?ああ、分かりましたよ、ご主人様。」


津田は別に忙しいわけでもないのに疲れたような声で返事した。



「私、アイスコーヒーで!」


「じゃ、僕もそれで。」


「私も、それで。」


「アイス3つですね〜。」


津田は聞き返しもせず、ふらっと厨房に入って行った。


すると、予想通り京野はクラスメイトに質問責めにあった。


「京野くん!その人誰?凄い美人さんだけど。」

「もしかして、彼女!?」

「いやいや、京野はこんな女性と相愛しないって。」

「えーと、じゃあ何だ?」

「お姉さんなら、あり得るんじゃない?」

「えー?似てないぞ。」


タイミングを探すがなかなか見つからない京野に東雲自身が無理やり口を挟んだ。


「やだなー、私は彼のお父さんの弟の子だよ、だから従姉妹。」


それを聞き落胆するクラスメイトだったが…


「じゃあ、あの、彼氏いますか?」


「うん、いるよ。」


「だよな〜、こんな美人だしスタイルもいいし、背も高いし。彼氏ぐらいいるよな…」

「どんな人なんすか!?」


「え、えっと…年下で優しくて、真面目な人だよ?」


今度は東雲が質問責めにあってしまった。


京野はその様子をみて、なんとか彼氏として助けようとしたその時だった。


「あ、京野。東雲さんと来たんだな。」


羽場が教室に入って来た。


「え!?羽場!彼女のこと知っているのか!?」


「ん?あぁ、京野の彼女。」


「「「あ。」」」


客として来た3人は羽場のあっさりした答えに衝撃を受けた。

そして、クラスメイトたちはさらに衝撃を受けたことだろう。

質問の的は羽場になった。


「は、羽場!それってどういうことだ!?」


「どうもこうも、東雲さんと…あ、東雲さんってのはこの人のことなんだけど、彼女と京野が付き合ってるってだけだぞ?いいよな、しかも彼女繁華ーー」


羽場が口を滑らしかけた瞬間、突然液体のかかる音が聞こえた。

音の主は下にこぼれたアイスコーヒーだった。


「…悪いな羽場。手が滑った。」


「な、何する…げほっ!」


津田は次に脇腹に強く拳を食い込ませたらしい。


「…悪いな、また手が滑った。今日は緊張するな、手汗で滑りやすくなってる。」


「…つ、津田…な、何か悪いことしたか?」


「悪い。少しシフト代ってもらえるか?あと、羽場が言ったことは忘れてくれ。」


津田はそう言うと羽場を引きずって廊下へ出て行った。


「…きょ、京野。」


もちろん、クラスメイトはそんなことで忘れるなんてことはしなかった。

羽場が冗談無しの顔で口にしたのだからこそ、全員の耳にしっかりと焼き付いてしまっているのだ。


「し、東雲さんって…?」


京野は助けを求めたが、東雲も望月も横に首を振るだけだった。


「…ごめん、実は彼女…です。」


「ごめんねー、彼氏はリンくんのことだったんだけど。分からなかったかな。」


一瞬の間。

それだけだったのだが、京野は冷汗が信じられないほどに吹き出した。

そして…


「京野!なんで黙ってたんだよ!」

「確かに、私たちには関係ないけどさ、噂ぐらい立ててもいいじゃん!」

「ってか、どうやって付き合ってもらったんだよ!」

「そうだ!東雲さんもなんでこいつみたいなヘタレと!」


嫉妬や興味、羨望の声が入り混じるなか


東雲は聞き捨てならない言葉が聞こえた。


ーーどうせ、京野のことだし東雲さんに遊ばれてるだけだろーー


東雲は突然ぐっと京野を抱き寄せた。


それだけでも、女子の方から歓声が聞こえるが東雲は至って真面目に答えた。


「言っとくけど私とリンくんは本気で付き合ってるから。なんなら今からキスでも性交でもして証明しても構わないけど?」


「ちょ、ちょっと梨々香さん!!?ちょっと何をーー」


京野が言葉を言い終わらないうちに東雲は、京野を押し倒した。

望月や他の客も含め、教室は椅子の倒れる音で注目が上がり騒然となる。

しかし、東雲は気にするどころか、観衆の前で京野にーー接吻をした。


歓声や、どよめきが教室に響き渡るが、2人には全く聞こえてはいなかった。


「ムグッ!?…」


しかし、東雲はそれ以上求めることはなく唇を重ねただけで直ぐに顔を離した。


「…リンくんごめんね。でも、遊びって言われるのが嫌だったの。」


東雲は懺悔の念を含めて涙目になった顔を京野から背けた。


「…り、梨々香さん。」


「あーもう。梨々香、高校で泣くなんて情けないなぁ。ほらほら、見世物じゃないんだからあっち行った。」


望月は東雲のことを思い、そのまま東雲を引っ張るようにして京野と共に教室を出て行った。



「…ご、ごめん…リンくん。本当にごめん。」


3人はとりあえず展示物がなく目立つことのないと思われる4階へ来た。


「…きらいに…ならないで。」


「き、嫌いにはなりません。東雲さんが嫌だったのなら仕方ないですし。」


京野も顔を下げると、望月は溜息をついて東雲の顔をハンカチで拭った。


「梨々香、京野君も心配で泣いちゃうじゃん。顔上げて。」


「ん…んん…先輩…見せつけてたんですよ…」


「『見世物』ってのは物の例えよ。それにしても、あんなことしなくたって良かったんじゃない?」


すると、東雲の代わりに京野が声を上げた。


「…梨々香さんは、多分僕と同じで分からなかったんだと思います。どうすれば、本当に恋人だって証明出来るのか…愛してるということを他人に伝えられるのか。風俗で働く彼女はそれで最初にキス…が出てきたんだと思いますよ…」


京野は自分でキスという言葉を発すると口を押さえて顔を赤くした。


「…それに、梨々香さんは僕を想って、本気で僕と交わろうとはしませんでしたし。」


「えっ!?なんで分かるの?」


望月は京野の言葉に驚き、東雲も体をビクつかせた。


「…だって梨々香さん、フレンチキスじゃなかったんです。僕が言うのもなんですけど、梨々香さんは恋愛を身体の関係で繋がる気は無いと思いますし。」


京野の答えに望月はあり得ないといった表情をした。


「…なんで?」


「…身体と恋愛の付き合いは別だって付き合う際に言ってましたから。」

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