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ゾッコン3

次に事件が起こったのはなんと、次の日だった。


夕刻の繁華街で東雲は堂々と制服で歩いている京野を見つけたのだ。


「きょ、京野くん!?」


「あっ、東雲さん」


東雲は京野が当たり前のように返事したことに額を抑えた。


「『あっ、東雲さん』じゃないって!とにかく、店に来て!」


そして、2人は東雲の店に訳を話して、話をすることにした。



東雲は待合室でお茶を出して京野の前に座った。


「すいません、失礼ですね。大人になる前にここに来るなんて……」


「こうもしないと、補導されちゃうでしょ優秀校なのに……もしかして、それが理由!?」


慌てる東雲に京野も全力で否定をした。


「な、なに言ってるんですか!忘れ物をしただけです!失礼です!」


そういう京野の手には何もなかった。


「?……なにも持ってないじゃん」


「そ、そうじゃないんです」


京野は緊張しながらも、ゆっくりと声を出した。


「……失礼がないように善処しました」


「……そう。」


東雲は下をみて失笑した。

結果は分かってるのに、そんなことでわざわざ来てくれたんだ。

そう思いながら。


しかし、京野の口から出たのは想像と違う答えだった。


ーー僕で良ければ付き合ってください!ーー


……

…………

ああ、京野くんも私が告白した時こんな気持ちだったのかな。

そう東雲は思った。


「ご、ごめん……ちょっと動揺しちゃった……」


「す、すいません」


東雲はこめかみを2、3回掻いてから質問した。


「……なんで?……っていうか決め手は?」


「……昨日、寝ないで考えました、だから少し頭が痛いですけど。的確な判断なはずです」


京野は理由を冷や汗混じりで答えた。


「……東雲さんは立派です、仕事に誇りを持てている上に楽しそうですから。僕のお父さんは仕事から帰るとすぐに疲れた顔になるんです。それが、当たり前だと思っていたのに、東雲さんを見て僕の中の常識が覆りました。僕は、多分。いつでも絶え間なく楽しそうにできる東雲さんに惚れていたのかもしれません。それに……ちょっと意地悪ですけど、優しくて良い人ですから」


「っ……」


東雲は最後まで聞いた後、京野の息が整うまで待った。


しばらくすると、自分が涙目になっていることに気がついた。


「……どうされました?」


「……ううん、わかんない。でもね、体以外で好意を持たれたの、初めてで……。それがこんなにも嬉しいなんて……知らなくて……」


「東雲さん……」


「……ダメ。彼氏なんだから名前で呼んでよ。それに、ここに一人で来たのならヘタレじゃないよリンくん」


「り、リンくん……!?……わかりましたよ、梨々香さん」


言葉を重ねるほどに、涙が止まらなくなる東雲に京野は「高校生に泣かされてどうするんですか」と言って制服の中からハンカチを取り出して渡した。



現在


京野は年の離れた彼女を作ったことを秘密にしていたが、東雲の方は逆だった。


「こんにちわーっ!彼、連れて来ちゃいましたー!」


「ひいっ……」


店はまだ開いていないにと関わらず、水着の女性がフロントに座っていた。


その中の髪を短くした一人が京野の方へ歩いて行った。

彼女もまたモデルのような身長で前のめりになるため、胸を見せつける形になる。


「へー、そっかー。君が香の言ってたリンくんだね」


「……あ、あの……ひえ……」


「あらー、これはまた。話以上のヘタレっぷりだね。この店にサービスを受けには来そうにないかな」


サービスと言う言葉につい赤くなる京野。


京野は後ろで楽観視している東雲に目で救いを求めた。


「もう、桃。虐めていいのは私だけなのにダメよ」


「そっか、ごめんね。お姉さん、怖くないからね」


「だ、大丈夫です!」


挨拶を済ます2人は控え室に向かった。


「……えっと、あの方が言ってた『香』って源氏名ってやつですか?」


「うん、そう。ちなみに、さっきの『桃』って源氏名の人は穂先(ほさき) 桃華(ももか)っていうから覚えてあげてね。……

サービス受けるかもしれないしね」


サービスの意味を理解しているからこそ、また顔が紅潮してしまった。


「や、やめてください!失礼です!」


「あははピュアだなぁ」


京野は出された煎茶をすすりながら呟いた。


「……それにしても、口外していたんですね」


「んー、まあね。私は問題ないし…あっ!リンくんはしない方がいいよ!風俗嬢と付き合ってるとかなんか広がっちゃったら……」


珍しく慌てふためく東雲を見て、つい京野も笑ってしまう。


「言ってませんよ。……でも、本当問題ないのですか?……いわゆる売春ですよね?年の差関係なく恋愛ってだけでも……」


東雲はそれを聞くと「それはちょっと勘違いかな?」と言いながら京野に指を差した。


「そういうの禁止にするのはアイドルとかでしょ?私たちが売ってるのは恋愛や羨望じゃなくて春、つまり快楽なの。お客さんは彼氏がいるかどうかなんて気にする人はあまりいないわよ」


「……そういうものですか」


「それよりも……」


東雲は突然、ズイッと顔を京野に近づけた。

手入れされた髪と汗の匂いが鼻をくすぐり、艶やかな唇や健康的な肌がよく見えるため京野は恥ずかしくなる。


「リンくんは平気なの?他の男に裸を見られてるんだよ?」


「それは仕事です。前も言ったでしょう、でもそれがプライベートなら僕も流石に怒りますけどね」


東雲は怒った京野を見てみたいと思ったが、嫌われるのは流石にいやなので考えを無に返した。


「さて、もうそろそろシフトっぽいし送ってあげるね」


「えっ!でも……」


「……でも?」


東雲は外を指差した。

既に繁華街の色んな店が動き始めていた。


「えっ!8時からじゃ……」


「一応はね、でも準備とかボルテージ上げとかもあるし実質は6時くらいからだよ」


それを聞き、京野は結局東雲に頭を下げた。



「……梨々香さん。失礼ですけど、前乗った時は気がつかなかったですけど、この車……変な匂いがします」


「……えっ、あ。そか、車で変なことしちゃったからかな?エッチな匂い……する?」


京野はそれを聞くと赤くなり追求するのをやめた。


「あっはは、ごめんごめん。こういうのって芳香剤より消臭剤のほうがいいんだよねー?」


「し、知りませんよ!」


東雲は笑いながら、車を走らせ始めた。


「……。」


「……。」


「……このままホテル行こっか?」


「ど、どうしてそうなるんですかぁっ!」


すると、東雲は拗ねた声で言った。


「だって、何も話してくれないじゃん」


「……えー?じゃ、じゃああの、昨日のテレビ見ました?」


「見てない、仕事です」


「あ」


京野は東雲と生活リズムが違うことを思い出した。


「ふふふ困ってる。可愛いなぁ」


「えっ!?からかってたんですか!?」


東雲は笑って誤魔化した。


「そういうわけじゃないけど……そうだ。学校ってどんな感じ?」


「別に普通ですよ?今度、文化祭があるくらいで……」


「文化祭っ!?」


突然東雲はブレーキを強く踏み、叫んだ。


「あ、危ないですよ!それに周りに失礼で……」


「文化祭って一般開放してる!?」


京野の言葉を遮って東雲は聞いた。

その迫力につい京野は乗せられてしまった


「……はぁ、ありますけど。でも物騒なのでチケット制です……」


そういうと、東雲は京野に手のひらを見せるように突きつけた。


「……はぁ、わかりましたよ。彼女ですもんね」


京野は学生カバンから一枚の紙を取り出して手のひらに乗せた。


「やったー!フランクフルトー!アメリカンドッグー!お稲荷さーん!」


「狙って言ってます?」


東雲は嬉しそうにしながら、自分の胸の中にチケットをしまい込んだ。

その様子を見た京野はつい顔を赤くしてしまった。


「……で、でも秘密ですよ彼女ってことは!」


東雲はアクセルを踏んで、聞き返した。


「じゃあどうするの?」


「……普通に姉でいいんじゃないですか?それか薄い血の繋がった親戚とか」


そう言うと、東雲は右手で頭を掻いた。


「姉か〜あいつと被るからなぁ」


「えっ?弟さんいるんですか?」


京野は少し驚いた声を出した。


「うん、大学生のね」


「……彼女の弟より年下ってなんか、複雑ですね。」


京野の言葉に東雲も苦笑を漏らした


「んー、じゃあまた考えとくね」


車はちょうど京野の家の前100m程で止まった。


「ありがとうございます。それじゃあお仕事頑張ってくださいね!」


「ありがと。じゃね」


そして、京野が頭を下げる中、東雲は車を走らせて去った。

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