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ゾッコン2

2人の出会いは1週間前に遡る。


京野は商店街で、前の人のポケットから何か落としたのが見えたので声をかけた。


「あの、すいません」


東雲は突然声をかけられ、振り返った。

いつもなら、キャッチセールスやナンパとかなので無視をしているが流石に声が若すぎたので安全だと判断したのだ。


「これ、落とされましたよ」


少年の手には小銭入れが握られていた。


「あ、本当。ありがと」


すぐに受け取ろうと思ったが、面白いことを思いついた東雲は笑みを浮かべた。


「……?どうかされましたか」


「ううん、そうだ。お礼にその財布でジュース買っていいよ」


京野は少々迷いながら折角の好意ということで了承した。


「とりあえず、ジュース分だけ……」


京野は東雲に見張ってもらいながら財布を開けると、中には小銭と混じって大量にピンク色のゴムが入っていた。


「なっ!!?」


京野はそれがすぐに避妊道具だと理解し、衝撃で固まった。


「あっはは、ごめんごめん。お詫びに一枚もらってってもいいよ」


「け、結構ですぅっ!!」


すると、京野は財布の口を閉めて東雲に押し返すようにして逃げて行った。


「あら、やりすぎちゃったかな。……でも可愛いなぁ。青いねぇ青いねぇ。」


東雲は悪いと思いながらも、鼻歌交じりで職場に向かって行った。



次に2人が会ったのは、学校帰りの電車の中だった。


「あ、この間のヘタレくんじゃ。」


それを聞いて京野はムッとした。


「失礼ですね、京野です」


「そっかそっか、東雲です」


自己紹介をして、電車が動きだした時。

京野は東雲がかなり露出の激しい服を着ているのに気がついた。


「東雲さん、そんな格好じゃチカンに合っちゃいますよ」


「大丈夫大丈夫。既にされてるから」


すると、京野はすぐ後ろのサラリーマンがビクッとしたのに気がついた。


「通報しなくていいんですか?」


「うーん、別に気にしないし。チカンされても妊娠はしないからね。……エッチな本みたいに」


それを聞き、京野は顔を赤くした。


「あははは、君、そういうの見ないタイプだと思ってたけどなぁ」


「ち、違います!最近のパソコンはそういうのがバナーとかに勝手に出てきちゃうんです!」


東雲はフィルタリングのことを言おうかとしたが、面白いと思い辞めた。


「京野くんって高校生?」


「あ、はい。篠田高校です」


「へー、シノコウ!賢いんだね〜」


東雲は感心したのち、質問を続けた。


「高校生だったらさ、そういうエッチなの苦手っていうより興味あるんじゃないの?」


「でも、僕、そういうのには抵抗があって……」


すると東雲は少し考えて、京野の頭に手を乗せた。


「やっぱ、京野くん小さいね」


「えっ……じゃなくて、失礼です」


京野は再び、ムゥと顔を顰めた。

ちなみに、2人の身長差は10センチもある。


すると、東雲は真剣な顔をして「……ちょっと寄り道しない?」と言った。


「え、でも、あまり知らない人とは……」


「もう知り合いでしょ?それに、ちょっと食べて行くだけだから」


「は、はぁ……」



「か、帰りますっ!」


「まぁまぁ大丈夫だから!」


2人が来たのは、見るからに高校生の入らなさそうなパブだった。


中に入ると、やはり不釣り合いなのか2人は先客に妙な目で見られた。


しかし、そんなことに構わず東雲はカウンターに座り、カクテルとジンジャエールを注文した。


「昼間っからお酒ですか……」


「いーのいーの、それにこんな話お酒の力借りないと話せないし」


すると、さっそく東雲はグラスに口をつけた。


「ふいー、やっぱ成人するっていいね」


「……はぁ……うわっ、このジンジャエール辛い」


「はっはっは、大人の味だよ、京野くん」


「なんで五七五なんですか……」


2人は五分ほどたわいもない話を行い、東雲の顔が少し紅潮し始めたころに本題に入った。


「ねえ……エッチなの抵抗あるって言ったでしょ?」


「……はい。そうですけど」


心なしか京野も少し目が虚ろになっている。

どうやら場酔いしているらしい。


「……私ね……風俗で働いてるの。しかも、ソープ……ソープってわかる?」


「ええっ!……あ、わかります」


東雲は、豊満な胸をカウンターに乗せて、だらしなく突っ伏し質問した。


「……引く?」


「え?」


「やっぱりさ、風俗で働いてるのって体を売る訳じゃん、例えると売女的なことだしさ……ドン引きする?」


すると、京野は東雲の予想外の答えを出した。


「別に、気にならないですよ」


「え?」


「だって、普通に風俗だって職業じゃないですか。驚きましたけど、それをなんやかんや言ってもその仕事に誇りを持っている人も天職だっていう人もいるんですから、そんなこと言ってたら失礼です」


「でも、さっき抵抗があるって言ってたじゃん」


すると、京野はカウンターを向いてグラスで顔を隠した。


「僕は、エッチなことに抵抗があるって言っただけです。別に風俗がダメとは言ってないですよ」


「風俗もエッチだよ?アングラだよ?」


東雲は京野の答えにすっかり酔いが覚めてしまっていた。


「でも、仕事でしょう。東雲さんだってそれで稼いで暮らしてるんですし……それに、公私関わらせることは……いえなんでもないです」


京野は電車中のことや、コンドームのことを思い出し顔を赤らめた。


東雲はその様子をみて、つい顔をほころばせた。

つい、いじめたくなったのだ。


「じゃーさ、風俗してる人と付き合う自信ある?」


「はい」


まさかの即答に東雲は目を丸くした。


「だって、公私共にする人がいるとしても、恋愛までは一緒にしないでしょう。……えっと体で恋愛までは行かないはずです……。それは……失礼です」


「じゃ、じゃあ私と付き合える?」


東雲はぶっ飛んだ質問を注文したことに気がつき、慌てて訂正をしようとしたが……


「問題ないです。もし、僕と付き合う気があるならですけど」


「えぇっ!?私、ハタチだよ!?」


「歳の差も、僕は5歳までならセーフですし。それに僕の親なんか8歳差ですよ」


京野はそう言って、ジンジャエールを飲んで、信じられないですよ8歳ですよ……と何度も呟いていた。


東雲はその様子を呆然とみて、「ありえん」と一言だけ呟いた。


すると、京野は突然カウンターに倒れるようにして突っ伏した。


「きょ、京野くん!?ど、どうしたの!」


見ると、軽く寝息を立てているようだ。


「えっ!ちょ、ちょっとマスター!ジンジャエールにアルコール入れた!?」


「入れてないよー!?普通に場酔いじゃないかな。若いんだからパブは早かったんじゃない」


東雲は仕方なく、京野を送ることにした。



京野が目覚めたのは、車の中だった。


「ふぁっ!?……ここは…」


「あ?目覚めた?」


京野は運転席を見るとそこにいたのは東雲だった。


「あれ……僕は一体……?」


すると、京野は頭がひどく痛むことに気がついた。


「……僕、頭殴られました?」


「うーん、どちらかというとぶつけたんじゃないかな。カウンターに」


それを思い出した東雲はまた笑い出した。


「えっと、どこに行くんですか?」


「ん?京野家だよ」


あっさりとした答えに、京野は驚いた。


「どうして分かるんですか?家」


「ヒント。君、真面目だから生徒手帳持ち歩いているタイプだと思ったんだよね」


京野はそこまで聞き、理解した。


「……そういや、告白のことだけど……」


すると、京野はひどく焦った顔になった。


「ああああっ!あれはすいません!言い過ぎましたよね!全言撤回してください!」


「しなくていいよ……京野くん。下の名前は?」


「……あまり言いたくないですけど、輪朽です」


「リンクくんか〜。面白い名前だね」


京野は、キラキラネームを聞かれて恥ずかしくなった。


「リンクくんは、今好きな人いる?ゼルダ姫以外でね」


「……あまりおちょくらないでください、失礼です。……いないですよ」


「……じゃあさ……」


ーー私と付き合ってーー


「……へ?」


一瞬京野は告白されたということに気づけなかった。


「……うーんよくわからなかったかな、じゃあ私が貴方のゼルダ姫に……」


「いやいや!意味はわかってます!でも、僕ですよ!?もっとストリート系というかそんな感じの人の方が釣り合うのではっ!?」


京野は慌てて聞き返した。


「……やっぱ私となんか付き合いたくなんてない?」


「ええっ!?いえ、むしろ…そんな。つまりなんの取り柄もない僕に貴方が彼女なんて勿体無いんです!」


続けるようにして京野は話す。


「……それに、僕はまだ俗的にも人生にも青いです。彼氏としての役目はできないと思います。貴方に失礼です」


「それでもさ、知りたいんだよね。……興味で付き合うのもなんだけどさ、風俗に来る人ってたまにさ『こんなところで働いてはいけないっ!』って喝を入れてくるお客さんもいるの。私はこの仕事に誇りを持ってるし、リンクくんの言うような風俗をキチンと仕事って言ってくれた人は初めてなんだよね」


京野は焦りから真剣な眼差しに変わった。


「……体から恋愛に繋がることは、リンクくんの言うとおり、先ず物語みたいにはうまく行くことなんてない。でもね、恋愛からなら体以外にも普通にお茶をするような付き合いもできるの」


東雲は軽く息を吐いて落ち着いてから、告げた。


「私ね、貴方とそういう関係になりたいの。普通のカップルに……たまに行き過ぎちゃうかもしれないけど、リンクくんなら心配なさそうだしね。……そういう条件ならどう?」


京野の答えは全く告白の返事とは思えないものだった。


「……善処……します」


「……うん、いい方向に期待しておくね」


半分諦めた東雲はスピードを落として車を止めた。


「……送ってくださり、ありがとうございます」


「うん、大人になったらウチにも来てね」


京野は車から降りて、去って行く車に頭を下げた。

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