ゾッコン1
暫く梅雨だったが、ようやく晴れ始めて夏らしくなって来たと思う。
少年、京野 輪朽は乾いた雨の匂いを楽しみながら学校から外を眺めながら、そんなことを考えていた。
「なーなー京野ー。帰ろうぜー」
「えっ?…あ、もう下校か…そうだね、帰ろうか」
何かを悟れそうになっていたが、数少ない友人の言葉だ、仕方が無い。
京野は軽く伸びをしてから席を立った。
「ったく、3回目でようやく気付いたのか」
そう言いつつも相変わらず、もう一人の友人こと津田 雨は待っていてくれていた。
「ほら、今日は一日中晴れてたから夕立降りそうだし、さっさと帰ろうぜ」
「そっかー、そんな季節かー」
津田の言葉に、吉彦が目を細めて感慨深い表情になる。
京野は俺もあんな顔をしていたのかなと思ってみたりした。
……
学校から出てから暫くして、シャッターの降りた店が並ぶ場所に来た。
ここは、8時以降は18歳未満は立ち入り禁止となる。
理由は……お察しの通りだ……。
「……勿体無いよなー、折角こんな裏繁華街みたいなのが表立ってあるのに通えないなんて」
「……吉彦ってこういうところ、堂々と入りそうだよね」
京野の呟きに津田が苦笑する。
それを見た吉彦は反発した。
「で、でもな!今は今で大人しく高校生してるんだぜ?行動だって温水プールで水着姿を見る程度だ!」
「それ、言い訳のつもりか?」
津田のツッコミに吉彦は目を逸らした。
「そ、それにしても梅雨明けだな。……梅雨明けといえば……水着だな!!」
「それ、またループじゃん」
京野は呆れてため息をついた
「そ、そんなこと……あっ!ほら、あの人とかセパレート似合いそうだぜ!」
吉彦が指した方向に居たのは、小麦色の肌で髪を薄く茶色に染めた、如何にもイヤらしい体つきをした女性だった。
「他人に評価をつけるんじゃないぞ。失礼だ」
津田は吉彦の発言に喝を入れた。
しかし、すぐそばで京野が冷や汗を垂らしていることに気がついた。
「……どうしたんだ?京野」
「えっ?いや?ねぇ、ほら。こんなとこに居てたら変な目で見られるし、さっさと行こーー」
「あっ!リンくーん!」
黄色い声を聞き、京野は項垂れた。
「……や、やめてくださいよ。僕が人といる時に声かけるの」
「いーじゃない、別に。私の彼氏なんだから♪」
「そ、そうですけど……お仕事はどうしたんです?」
「ん?こんな昼間からしないって!夜の方は激しいけどね……」
吉彦はあからさまに驚いていたが、長く友人をしていた津田の方が反応が薄いながらもより驚いていた。
まず、京野は下の名前で呼ばれるのが嫌なはずなのにケロッとしていること。
気の弱い京野が彼女を持つはずがないと言うこと。
さらに、その彼女との間にかなりの年の差がある様に見えたこと。
そして極めつけは、彼女が風俗嬢だと思われるということだった。
「おや?こちらのお二人さんはお友達?」
彼女は気がついたかの様に2人に声をかけた。
「はい、津田っていいます」
「え、えっとは、羽場吉彦ですっ!」
彼女は自己紹介をする二人をそれぞれジッと見た。
吉彦は緊張であからさまに顔を赤らめている。
「ふふ、可愛いね」
彼女は顔を上げ、名刺を渡しながら自己紹介した。
「私は東雲 梨々香!そこに見えるお店で働いてるの」
そこには、ピンクの派手な看板に「ソープ坂又」と書いてあった。
吉彦はあからさまに動揺していたが、東雲は目もくれず京野を抱き寄せた。
「んで、リンくんの彼女でーす!」
津田はそれを聞き、京野を睨みつけた。
「おい京野、どんな付き合いをしている。もし問題があれば友人とはいえ、処することになるぞ」
「あ、もしかして生徒会の子?」
「はい」
津田は眈々と応える。
東雲は腕の中でビビっている京野を見て、優しく呟いた。
「別に、公私共にしてなんかいないわ。そもそも、行為をしようとしてもリンくんから断るんだもん」
「うぅ……すぃません」
それを聞き津田は安堵の息を漏らした。
「なら良かった、京野。するときは病院に行ってからだからな」
「そこかよっ!」
吉彦のツッコミも元に戻ったようなので、京野は東雲に声をかけた。
「あ、えっと梨々香さん。そろそろ離して……」
「んー?」
東雲は笑顔だったが、どこからか帰さないとオーラを発していた。
「……津田くん、吉彦。先帰っててくれない?帰してくれなさそう。大丈夫、変なことはしないから」
京野は白い目で2人に呟き、東雲に繁華街へ連れて行かれた。
逆に置いて行かれた2人は呆然としながら帰路についた。
「……なあ、津田よ」
「なんだ」
「東雲さん、胸大きかったな、京野の腕に食い込んでたぞ。少なくとも……D……いやEか?」
「残念だが、あのサイズはIだ」
「…デカイな」
「あぁ」