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僕と親友のよしなしごと

巻き添えの原稿用紙

作者: 神近由恵

「今から特訓を始めようと思う」

「はぁ?」

 突拍子のない友人の言葉に、僕は思わず変な声を上げる。

「特訓って、何のさ」

「もちろん小説のだ」

「あぁそう、頑張ってね」

「お前もやるに決まってるだろ」

「え?」

 いや、何を当然のように言ってるのかな君は。僕は文芸部じゃないっての。

「なんだ、間抜けな顔をして」

「いや……うん、返す言葉が見つからなくて」

「まぁいい、とりあえず、書こうぜ」

「書かないよ」

「は?」

 彼が驚きだけを顔に映す。わざとなのか、それとも本当に驚いてるのか、判断に困るところだ。

「僕は君と違って文芸部じゃないんだけど」

「部活なんか関係ないだろ」

「えぇ……」

 困惑する僕をよそに、友人は鞄から原稿用紙を取り出す。見慣れた400字詰めの原稿用紙は、夏休みの課題を思い出させる。これを5枚……合計2000字分を読んだ本の感想で埋めるのは、小学生の頃からやらされているものの、一向に上手くならない。気づいたら話題がそれているんだよな。そこに駄目出しを喰らって、酷い時には減点すらされる。うぅ、思い出しただけで悔し涙が……というのはさすがに冗談だけど。そういう……言ってしまえば文章を書くのがド下手な僕に何を言ってるんだろうかこいつは。そう思いながら友人の顔を睨みつける。彼はといえば、原稿用紙をお互いの机に10枚ずつ置いて、先に4000字埋めたほうが勝ちな、なんて、何が特訓だとツッコミたくなるようなことを言っていた。……いや、ツッコミは一旦置いといて。

「どうしてこんなに原稿用紙持ってるのさ……」

「買い溜めてるからな。あと30枚くらいストックあるぞ。もし10枚で足りなかったら言ってくれ」

「足りなくなることなんてあるの……? というかそもそも書かないってば」

「書けよ」

「無理だよ」

「諦めんなよ」

「拒否権」

「あると思うか」

 ああ言えばこう言うといった風に、前進も後退もしない会話を繰り広げる。生産性がないにも程があるな、これ。どこで切り上げればいいんだろう。タイミングが見当たらない。だんだん彼の表情にも、疲れが見え始めている。疲れてるならそろそろ黙れよと思ったけど、それは僕にも言えることだからお互い様というものだ。僕も彼も、結構負けず嫌いなんだな……。

 その時ちょうど、半分閉まっていた教室のドアが音を立てて開く。見ると、クラスメイトの一人が全開になったドアから顔を覗かせていた。……確か、映画研究会唯一の部員だったかな。この間先輩が引退して一人になった、という嘆きを聞いた記憶がある。そんな彼が僕たちを見つけ、何をしているのかと訊いてくる。

「……」

「……」

 その問いに答えるまでの一瞬で、アイコンタクト。そして二人同時に笑う。彼は純粋に面白がって、僕は好奇心にひとさじの悪戯心を加えて、口を開く。

「これから勝負しようとしてたんだ」

「君も、一緒にどう?」

 僕も友人も、獲物を狩る目をしていたと思う。

諸事情で一日遅れた投稿になってしまいました。申し訳ありません。

来週からは日曜日更新に戻します……!

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