打撃の神様
年季の入ったコンクリートのひびにはガムか何かの黒い汚れが入り込んでいる。
小学生の時から行きつけのバッティングセンターだ。
ドアをあけるとカラカラと音を立てる鈴の音がする。
コインを買うと店長が話しかけて来た。小学生のときは不良の高校生だったのに、
優しい口調を覚えた大人になった。帽子を被っているけどアフロだ。
「いらっしゃい! 今日はホームラン狙う?」
俺がホームランを当てると仕事が増えるからだ。景品を渡さないといけない。
俺は入念に、バッティンググローブにリストバンドを巻く、
こうしておくと打ち損じても痛くない。衝撃を吸収してくれるのか・・・?
有名な捕手が言っていたが、
球が重いというのは、微々たるもので、芯をくっているかどうかだ。
打ち損じると怪我をすることもある。
俺は心の中で、このバッティングセンターでは神にでもなった気でいる。
目を閉じると目の前には、有名投手。振りかぶって投げる。
150キロを超える球にバットを当てる。押すように。
有名なホームランバッターが言うように右ひじの固定を意識し、
そのバッターのようなフォームで打つ。
するとそのバッターのように伸びていくような打球が打てる。
流し方向に綺麗に弧を描く。
引っ張り方向に弧を描く。
センター返しを強烈に決める。
バットをホームランのボードに向ける。
ホームラン予告だ。
ボールは半径1メートル前後、ボードの辺りへ飛んでいく。
それもそのはずだ。
ボールは同じ所に、同じタイミングで、来るものだから・・・。
俺は目を瞑り、スター選手の気分で妄想に耽る。