幕間① 最後の下宿生
初夏、通学路にて、4人の男女が会話を楽しみつつ通学をする。
その四人は頭髪が、オレンジ、紺色、赤茶、金色で、名前を色の順で楓、夕凪、美里、光秀と言った。
「うわぁ…… 見てみて! 噂の一年生のブレイカーよ!」
「ほんとだぁ!! ああ……! やっぱり存在感がちがうねぇ」
「うん、あそこだけ別世界だねぇ」
在校生徒数2000人を超えるマンモス高である、私立柳泉高校に通学する5人のブレイカー。
その内の四人にして、学園の華とされる、一年生の仲良し4人……
そんな、在校生すべてが振り返る美しきブレイカーのグループ。
それがこの4人であった。
そして、その4人がいつもどおりに颯爽と通学する中。
「あ……」
いつもとは少し違う反応を、4人の中の一人の美少女が見せる。
その少女の名は吉名楓。
4人の中で一番の美人にして、オレンジ色の髪と目をした癒しのブレイカーである。
「ん?」
そんな彼女の反応に気付いて彼女を見やる美青年も一人。
4人の中の唯一の男性、金髪金目の理科系ブレイカーたる相原光秀だ。
彼はどこか呆けたように一点を見つめる彼女を見て、それを訝しげに思い、そして彼女の視線が向く方向を見やる。
「……………っ」
そこには、明らかに周りと馴染んでいるのに、明らかに周りと何かが違う。
そう思わせるような……
灰色の髪に、茶色の瞳をした少年がいたのであった。
「ねえユナちゃん、あの子知ってる?」
「は?なにどの子?」
「あの灰色の髪の…… ああ行っちゃった……」
「なに?かえの好きなタイプの子でもいたの?」
「そ、そんなんじゃないよぉ〜」
楓が視線を送り始めてから、不自然なほどに、自然に消えていた、その灰色の少年について、楓と夕凪がそんな言葉を交わす。
「ふむ」
光秀は、そんな会話をしながらもどこか気にするように少年がいた場所を、もう一度だけチラリと見やる楓を見た。
光秀は、そんな楓の視線に、どこか甘酸っぱいものが少しだけ含まれていることを何となく察する。
「気になりますね……」
そう呟きながら、光秀もまた、灰色の少年がいた場所に、チラリと目配せをするのであった。
――――
数日後。
光秀は、自分の教室で、携帯をニヤニヤしながら見つめる楓の姿を見つけた。
余りにも長い時間同じ画面ばかりを見つめている楓を不振に思い、光秀は楓に「何をみているんですか?」と、いつもの爽やかな笑顔で聞いてみる。
すると楓は……
「あ! ミッちゃん!! ねぇ! 聞いて、聞いて!!」
「いやです」
「聞いて!!」
「いやです」
と、自分で聞いておきながら笑顔で断る光秀に、笑顔のまま怒涛のように説明を始めるのであった。
曰く、いつか見た灰色の彼と、コンタクトをとったらしい。
曰く、彼は大変強く、不良から自分を守ってくれたらしい。
曰く、彼は凄くカッコよくて、優しくて、どきどきらしい。
曰く…… 彼の名前は伊浦円と言うらしい。
「伊浦…… 円……」
光秀は散々と、楓の自慢話に近い雑談を聞き流したあと、不敵な笑みで一人呟く。
「ふふ…… ようやく彼の名前が掴めました」
加えて光秀は、将棋のブレイカーたる抜群の記憶力も発していた。
「携帯番号も…… 覚えましたよ…… ふふ」
――――
それから更に数日後。
「おはよう円!!」
と、言いながら、大荷物を背負い伊浦円のいる教室の扉を開ける夕凪の姿を、光秀は偶然にも目にする。
「おまえ……なんだそれ?」
「あはは!!マンション引き払っちゃった!!今日から円の家に下宿させて!!」
「はああああぁぁぁっぁ!!」
「私たち友達でしょ!!」
そこで、光秀はそんな驚くべき一幕を目にする。
「な……!?」
それを目にして思わず絶句をする。
「夕凪さんて……… 本当にアホの申し子だったのですね」
夕凪のあまりに子供じみた行動を目にして、光秀は哀れの目を向けたまま、ただただ驚く。
そして、それと同時に、先日まであんなに険悪な態度を示していた夕凪が、今日いきなりここまで態度を軟化させていることに驚く。
いや…… 軟化どころの話ではない。
光秀から見る夕凪の瞳…… それは紛れも無く、恋する乙女のそれであった。
「ふふ…… おもしろい…… なかなかのスケこましの様ですね、伊浦円くん」
光秀が円をまるで獲物を捕らえるかのように見やる。
「ん?」
一瞬目配せしただけなのにそれに瞬時に気が付く円。
「!?」
それにドキリとしながらも、不自然に顔を背けたりはせず、落ち着いて何事も無かったかのように歩き出す光秀。
「ふふ…… 自意識過剰ですね彼は」
彼は楽しそうに微笑むのであった。
――――
更にそこから二日後。
光秀は、学生寮の入り口でトラックに荷物を積み込む小さな少女を見つける。
「み、美里さん!? 無事だったのですか?」
それは先日行われた登山学習で行方不明になったと思われていたブレイカー、貴崎美里であった。
「む…… 光秀か……」
「しかし、これだけ心配をかけておいて友達である私に一報も入れないとは、どうやら頭のほうは無事ではないようですね?」
「ご…… ごめん」
「ごめんですんだら、警察とオトシマエは必要ないんですよ? いっときますか? オトシマエ?」
「ごめんなさい……」
そう言ってニコニコしながらいつも道理の会話をする光秀と、ちょっとだけ冷や汗を流しながらそれに対応する美里。
光秀はそのやり取りの後に、いったい何をしているのかを彼女に聞くと、彼女は興奮気味に「円の家に…… 下宿するんだ……!」と言いながら、ふんと息を立てて、自慢するように言ってきたのだった。
「円の家…… 下宿!?」
光秀は驚いたような顔を浮かべながら、顎に手を当て、真面目な顔を浮かべる。
そして、彼はすぐさまその内容を大体察し、そこで速やかに美里と別れ、すぐさま学園のホームページにアクセスする。
「伊浦荘か…… ふふ、まさか伊浦円と無関係と言うわけではないですよねぇ」
光秀はニヤリと微笑んだ後、すぐさま、学生生活科へと赴き、転寮手続きを開始するのであった。
――――
翌日の夕方。
ガラガラ……!!
「ただいまー」
「ただいまぁ……」
円と美里が仲良く伊浦荘へと到着し、誰もいない家屋へと帰宅の声をあげる。
「おかえりなさい」
「ぅえ!! 誰だ!?」
「光秀……!?」
しかし、そんな彼らを迎えたのは、ここにいるはずの無い人物、相原光秀であった。
「あんた…… 美里達とつるんでる人…… ですよね」
そんな光秀に、一瞬だけ戸惑いを見せたものの、すぐに落ち着きを取り戻し、対応をする円。
「はい、お久しぶりです伊浦円さん」
そして、そんな円に整った微笑を浮かべ、携帯を突然操作しながら対応をする光秀。
「え? 俺ら前に会ったことあったっけ?」
「いえ? 初対面ですが?」
戸惑いの顔を見せる円に、ニコリと良い顔をして答える光秀。
「………………ぇ?」
「円…… だめ…… こういう奴だから」
若干呆ける円に、美里は彼の服の袖を引きながらやれやれ顔でそういった。
「はい、円君、理事長におつなぎしておきましたよ?」
「は?」
光秀は、そんな円とのやり取りの間に。いつのまにか理事長へと電話をかけており、それをそのまま円へと渡す。
『おう! 円か!』
「………そうだけど?」
電話越しに、理事長、柳葉縁の豪気な声が響く。
『そいつは、伊浦荘最後の下宿生だ、なんかブレイカー専用の下宿所になっちまったなぁ!! おもしれぇぜ!! まぁ、そんな訳で後は頼む!! ブツン!!』
「………………………まぁ、いいけどさぁ」
何となく納得のいかない表情を一瞬だけ浮かべた後、すぐに光秀へと向き直る円。
「まぁ、そんな訳でよろしく?」
「はい、改めまして、相原光秀と言います、気軽にミッチーと呼びましょう(強制)
ちなみに、今日は縁側の窓が開いていたので勝手に入り荷物を運ばせてもらいました、気をつけて下さいね? それと、円君の事情については、大体のことは察しているので、これからもブレイカー同士仲良くしましょうね? あと、好きです、僕と付き合ってください」
「…………………………………お断りします」
にこやかな笑顔のまま、流れるように告白をした光秀と、それに無表情のまま断る円。
「いやぁ…… 振られてしましましたねぇ…… ショックです、まあでもとりあえずお友達からよろしくお願いしますね? 円君」
「あはははは…… はい…… よろしく相原君」
「ミッチーです」
「へ?」
「ミッチーですよ? 親しみを込めてお願いします」
「………………ミッチー」
「はい! ははは、いやぁ楽しい生活になりそうですねぇ」
そんな会話の中、円は苦笑いを浮かべ、光秀は楽しそうで爽やかな笑みを浮かべ部屋の片付けへと立ち去って行く。
「こういう…… 人、なんだな?」
去り行く光秀を見ながら、円は美里にポツリと呟く。
「円……」
そんな円に、美里は彼をきゅっと抱きしめるように触れ、真剣な顔でこう言った。
「光秀は…… バイセクシャルだから…… 気をつけて……!!」
「………………………………はい?」
さすがの円も動揺を隠せなかったと言う。
――――
私には今、気になる人がいます
その人は灰色の髪をした、どこか雰囲気のある人で…
なんと言うか、一目見て「この人は違う」と言う直感じみた痺れる様な物を感じました
そして、彼の事を色々と調べているうちに、気が付いたらこのざまです
まぁ、振られてはしまいましたが、高校生活及び人生はまだまだ長い
気長に篭絡すると致しましょう
○月○日 相原光秀
次回も幕間 楓偏
幕間② 夕方と楓
※タイトルは…… ふふ! どうかな!!
円逃げて! 超逃げて!!




