36話 どうにでもなれ
ざわ、ざわ、ざわ…
教室が騒がしい……
まぁ、なんでそんな騒がしいかは、まぁ…… 解っている
「ま…まどか…… 一緒にごはん…… たべよ?」
ブレイカーである美里が、一般生徒(だと思われてる)の俺の所に来て、突然昼食のお誘いを申し出て来たからだ
ああ……
どうしてこうなった?
————
昨日はあの後、夕凪と楓に美里との経緯を話し、その後家事をしたり、美里の部屋の整理をしたり、ついでにまだ完了してない夕凪と楓の部屋の整理も手伝った
三人は「円(くん)は怪我してるから手伝わなくていいよ!」なんて言って断って来たのだが俺は「さっきからお前ら全然片付け進んでないだろうがぁ!」と言って無理矢理手伝った
あいつら要領わるすぎだろう……
まぁそんなこんなで、その日はあっという間に時間が過ぎ、夜は豪勢にと思っていたのだが、引っ越しソバの意味合いもかねてラーメンにした
だが…… ただのインスタントラーメンではない
実際のラーメン店でも使われている製麺工場で作られた特製卵麺と、ちゃんと出汁をとったお湯に溶いたインスタントスープ、そこに地元で取れたシャキシャキキャベツのホイコーロを具として乗せるのだ!
まぁ…… すごくうまかったな
そしてそのまま夜は更け、翌日になり、部活で朝が早い夕凪を見送って、転寮手続きの為に早めに出ることになった美里を見送り(美里は今まで学生寮にいた)、寝ぼけた楓を起こして、朝飯と弁当を置いて先に家を出た
あ、ちなみに弁当はちゃんと全員もたせたぜ?
この時期は食べ物が傷みやすいから、具材のチョイスが面倒だよなぁ
こんどレシピ本でも買ってこようか……
んで……
今に至る訳だ(現実逃避終了)
いやいやいや……
訳わかんねぇーよ
まぁ、本当は解ってはいるんだけども……
なんでこうなったのかは今、気がついた
「ま……まどか?」
うっ…… 美里が困った様な顔でこっちを見ている
さっきまでの嬉しそうな顔はどこへやら
一転して不安げな顔をいているではありませんか……
はぁ
そうなのだ
今気がついたんだが、美里は俺がブレイカーを普段は避けてるって事を知らないのだ……
そりゃそうだ
だって、昨日始めましてだもの
なんか凄い親しくなった気がしてたけど
ぶっちゃけお互いの事情とかなんも知らないんだよなぁ
しかもそう言う話とかせずに、昨夜も今朝もバタバタしてたし
だから……
美里は、そう言う事情を知らずに俺の教室へ遊びに来たんだろう
しかも……
まぁ、知ってたんだけど美里の教室って俺の教室の隣りなんだよなぁ
昼休み始まって速攻来たから避ける暇すらなかったわ
やっべー、どうしよ………
………ん?
「あ…… ご…ごめ………ごめんなさぃ………… 迷惑だ……た?」
う………
ちょ… なんでそんな泣きそうな……
うう……
そんな顔すんなよ……
あ…ああ……
ああ!!もう!!
はぁ……あ〜〜
俺…… なんでこんなに頑にブレイカーと絡むの拒んでんだっけ?
なんで……
こんな顔させてんだ?
なんでこんな顔にさせてまで……
なんで……?
ブレイカーとして…… 生きたくないから?
ブレイカーだと…… バレたくないから?
うん……
まぁ…… その気持ちは今もある
それは別に変わってない
だけど……
それと美里をいたずらに傷つける事には関係があるのか?
本当に…… あるのか?
ブレイカーは……
ブレイカーとつるむ人間は必然的にブレイカーが多い
ブレイカーの本当の気持ちはブレイカーにしか解らないからだ
だから必然的に周りもそう見る
周りだけでなく社会もそう見る
だから、これ以上美里らとつるめば、その分俺もそういう風にみられる
ましてや、俺は実際にブレイカーなんだから尚更だ
つまり……
コイツらとつるむってことは、俺がブレイカーだって事がバレる事が時間の問題になるってことだ……
つまりはそう言う事なんだ
だから
だから俺はブレイカーを避けていた……
避けていた訳なんだが………
だが……
だけどそれが……
それが美里にこんな顔をさせる理由になるのか?
なるか……?
はぁ……………
ならねぇ…… よなぁ
だめだ…… いくら考えても出てくる答えは「保身に走るゲスやろう」だ……
「あぅぅ…………」
ああ……
もうわかったよ……
もう、そんな目で見んなよ
————
「あ……………… ごめん……ね? い……いっかい…… 戻る……ね?」
そう言って、苦笑いを浮かべ、目尻に涙を溜めて振り返ろうとする美里。
「……美里」
そんな美里を呼び止める円。
「ぅえ……」
円の呼びかけに、情けない顔のまま振り返る美里。
「ごめんな…… 悪かった…… 一緒に飯食おうぜ?」
円はそんな美里に優しく微笑みかけたのだった。
「…………ッ! ぃ……ぃいの?」
円がようやく見せてくれたいつも通りの優し気な笑顔に、美里はさっきとは別の涙を浮かべ、だけども弱々し気に呟いた。
「いいも何も、俺とお前は”仲良し”だろ?」
円はそんな美里に、少しだけ悪戯っぽい笑みを浮かべて言う。
「う………………うん!! うんっ!!」
美里は表情を途端に”ぱぁっ”と明るくし、まるで尻尾を振る子犬の様に円の近くへと寄るのであった。
「えへへ…… まどかぁ」
そして二人は微笑み合って円の席の方へと移動をする。
「よし…… じゃぁこの席で…… って美里!?」
座席に座り、隣りの席へと美里を促した円。
「え………?」
しかし、美里は当たり前の様に円の膝の上に座る。
「ちょ…… 美里さん?」
鼻先にふわりと漂うメイプルの様な甘い匂いを感じながら、円は苦笑を浮かべて言う。
「え……… だ…だめ……? だめ……だった?」
美里はふにゃっとした悲し気な表情で頭だけ振り返り、切な気に円を見上げる。
「うっ…… はぁ………………
あ〜…いいよ…… 好きにしな」
そういって、少しだけの苦笑いと少しだけの微笑みを浮かべる円。
「ほんとに…… いいの?
えへへ…… ありがとぉ」
美里はそんな円をみて本当に嬉しそうに目を細めると、自分の背中を円の体にぴったりとすり寄せ、円が作ったお弁当を幸せな顔で開くのであった。
「おい…… 伊浦の膝の上に貴崎さんが座ってんぞ!?」
「ああ…… どういうことだ? なんであの平凡な伊浦と貴崎さんが!?」
「ちょっと…… あんた少し話し聞いて来なさいよ」
「いやだよ…… でも…… どうして?」
「ハァハァ…… 貴崎さん…… 伊浦、そこ代われよぉ……!!」
辺りがそんな事を呟きながらざわつく。
「はぁ…… もう、どうにでもなれ……」
円はそれを聞きながら、そんな事を呟き、そして今後を考える。
もうこうなった以上、楓達とも堂々とつるまねばなるまい。
「はぁ………」
円は、今後の対応、夕凪と楓への謝罪、周りからのねたみや質問など…… 自身に降り掛かるであろう面倒事に対し静かにため息をつく。
しかし、そんなため息をつきつつも……
「どうだ美里? 俺のお握りは口に合うか?」
「うん…… えへへ…… おいしいよ…… まどかぁ」
微笑む美里を優しく撫で、どこか吹っ切れた様に小さく微笑むのであった。
なぜ、夕凪は告白して振られ、なぜ美里は人前でこんな事してんのに受け入れられたのか疑問の人!! はい!! そこのあなた!!
明確にお答えしましょう!!
まず夕凪!! あの子は前日円をぶっ叩いてます!!
そして、美里!! 一晩かけてイチャイチャしてました!!
そう、つまりは好感度の違いです!!
それでいいのか主人公!!
しょうがないじゃない、だって円だって男の子だもの。
次回 相原光秀が……
閉話 ある日の事
※ タイトルとGoogleで検索したら「もしかして…… 変更する?」と候補が出てきました。




