表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
37/42

35話 だめ………?

ザァァァァァァァァァァ…………


「はぁ…… 止まねーなぁ」


円は雨が降り頻る空を見上げてぽつりと呟く。


ひっそりと呟きを漏らした円は、軽いため息をついて視線を戻し、おもむろに辺りを見渡す。

しかし、いくら見回せど辺りには暗闇しか見えない。

雨雲で月明かりすら届かない山の夜は本当に真っ暗で辺りには何も見えず、遥か遠くに微かな街の明かりが見るだけだ。


円はその何も無い光景にもう一度退屈そうにため息をつくと、最後に自分の胸元へと視線を移す。


「ぅ………にゃ………む……」


少し寒かったのだろうか……… そこには寝ながらにもぞもぞと動き、円の胸元へと頬をすり寄せる美里がいた。


「む………ぅ………」


美里は寝たままに円へぴっとりと寄り添うと、彼のジャージの中で彼の胸へ手を回し、彼にギュッと抱きついた。


「あっ…た………かぃ…」


円の暖かい体温を感じながら、まるで子犬が親に甘える様に頬をすり寄せる美里。

その体制になってようやく落ち着いたのか、彼女は寝たままに満足そうな寝言と笑みを浮かべ、再び幸せそうな寝息を立てるのであった。


「くく…… 平和だなぁ」


円はそんな美里を見て、軽く微笑むと、伸びきった自身のジャージの中に居る美里をギュッと優しく抱きしめ、彼女の上に被せた薄手の雨合羽を掛け直す。


「さぁ……… 夜明けまで後五時間ってとこかな?」


円はそう小さく呟き、再び虚空を見やる。

恐らく日の出が昇であろうその方向を見つめ、円は引き続き美里を雨風から守り続けるのであった。








————



「まどかぁ…… だいす……きぃ……」











「……………ぇ………………………………………………………………… ね……寝言、寝言!!」



————




「あふ…… 朝焼けって綺麗だねぇ……」


円はあくびによる涙を目尻に蓄え、若干眠た気な声をあげる。


円は目に映る景色を目を細めながら見つめ、やがてその視線を自らの胸元へと下げる。


「む……にゃ……む………」


円はそこで幸せな顔をして寝息を立てる美里を見やり、静かに微笑む。


「ほれ…… 美里…… 見てみろよ、すげぇぞ」


円はぷにぷにとつついた美里の頬の感触に、少し楽し気な笑みを浮かべながら彼女を起こす。


「う……みゅ…ぅ………ん…………… まど…かぁ………?」


美里はショボショボとした瞳で、円を胡乱気に見つめる。


「おう…… おはよ」


「うん…………… おはよぉ………」


そして円がそんな美里に笑顔で挨拶を交わすと、彼女は嬉しそうに微笑み返し、ぽやりとしたまま、甘える様にして円の頬に自らの頬をすり寄せる。


どうやら彼女は寝ぼけている様だ。


「お、おい…… 美里?」


「うぇ……………………………………………ぇ………… え………………えぇ……!!」


円の頬に五度ほど頬をすりすりした辺りで、美里はびくりとしながらようやく覚醒する。


「ぅえ……………… う…… ぉ……おはよう…ございますぅ…………」


状況を何となく理解し、顔を紅くしたまま恥ずかし気に目を閉じ、ぷるぷるとする美里。

しかし時既に遅し、状況は彼女にとって最高にハッピーである。


「あぅ……」


なので美里は恥ずかしがりながらもそのままに、円に甘える事としたのだった。


————


「いや、美里…… あの…… ちょっと景色見てみ?」


「けしき………?」


美里は名残惜しそうに円から身を離し、彼の顔を見る。


「……よだれの後ついてるぞ?」


そんな彼女と顔を合わせ、クッと楽し気な苦笑を浮かべながら彼女の口元をジャージの袖で拭いてあげる円。


「ふぇ!? ぇ………ぁうう」


それに少しだけ慌てながらもなすがままに、そして顔を赤くしながらも少し嬉しそうに口元を拭かれる美里。


「……よし、じゃあ改めて後を向いてみろ」


「後……?」


小さく二カッと微笑んで美里の背後を指差す円と、それに従順に従いゆっくりと後を見やる美里。


二人の視線の先。


そこには……






「………………ぅわあ」


茜色に輝く朝焼けと、それに彩られた大自然の壮大な風景が広がっていた。








高い高度と早朝と言う事も有り、はく息が少しだけ白い。


冷たい空気が、鼻を通り抜け、少しだけつんとする。





しかし……


そんな冷たさを、「心地よく」「清々しい」と感じさせる様な爽やかで荘厳な風景。


広い、広い、清い、澄んでる……… 美しい。


目にしみる朝焼けが、瞳の奥に、そして心にまで焼き付く。


そんな…… 風景。








「たぶん…… この景色…… 一生わすれないと…おもう」


「そうだな……」


そう思わせる様な風景であった。









「登山学習…… 結構良かったかもな」


少しだけ満足げにそう言ってみる円。


「ありがとう…… ごめんね……?







ありがとう……… まどか」


美里は再び円を見やり、朝焼けを映すその銀色の瞳を「はぅ…」と小さく息を吐いて幸せに見つめるのであった。



————



バタバタバタバタバタ!!


「お…… 来たな」


朝焼けが完全に登りきった頃、ようやく救助用のヘリが遠くに見える。

円はそれを視界に納めると、雨合羽を取り出して、それを大きく振る。

「こういうことも有ろうかと」用意した赤色のハデな色の雨合羽だ、恐らく灰色をした崖がバックにあるこの状況では良く栄える事であろう。


そして、その合図が通じたようで、救助用のヘリは此方へと向きを変え、少しずつ迫って来る。




バババババババババババババババババババババッッッ!!!!!!


けたたましい羽音を立て崖ギリギリにまで近づく救助用ヘリ。


そして、そのヘリのスライドドアが「バン!!」と勢い良く開け放たれると、中から貫禄ある大男が顔を出す。


「おう、学生、良好な交遊関係は作れたかよ?」


ニヤリと快活な笑みを浮かべる理事長、柳葉縁。


「見てわかんねぇのかよ理事長…… 超仲良しだろうが」


それに楽しそうな笑みを浮かべ、笑い返す円。


「そいつぁ結構だ! 登山学習大成功じゃねえか!」


縁もまた「カカッ」と更に笑み返す。




そして……


「まどかぁ……!」


円の「仲良し」という言葉にてれてれとする美里であった。


————


「おう、嬢ちゃん、今回は散々だったなぁ、怪我はねぇかい?」


縁は美里に向い、豪快な笑みを浮かべて尋ねる。


「あ……… はい」


美里はそんな縁の隣りで、救助用ヘリに揺られ山の麓へと向う。



ヘリが二人の元へ到着した後、二人は直ぐにヘリの中へ乗り込んだ。


最も、成規の手段であれば、プロペラの問題で余り崖には近寄れず、色々と面倒な手段をとらなければならなかったのだが、そこはさすがブレイカー「じゃあそっち移るわ」の一言で円は無事な方の足で大ジャンプ。

「きゃぁ!!」と言う美里の悲鳴を響かせながら、速やかにヘリへと乗り込んだ。


そしてそこからは、「ごめ…… さすがにちょっと眠いから寝るわ」と言って円はヘリの座席に寝転がってしまった。


こうして、二席使って眠る円を見ながら、その向いの席に美里は縁と腰掛け、搬送されるのであった。


「まどか……」


美里は円を見つめながらぽつりと呟く。

彼女の瞳は心配の色が滲んでいた。


「大丈夫だ嬢ちゃん、コイツはそんな柔じゃねぇ、足怪我したくらいじゃどうにもなんねぇさ…… それに、麓についたらすぐ病院にも行かせる、何の心配もいらないさ」


「そう…… ですか……」


美里はそんな縁の話に「ほう……」と心底安心した様な笑みを浮かべつつ、再び円を見やる。

その瞳はやはり心配の色が滲んでいる。


「あう……」


美里の心配事は円の怪我だけでは無かった。


「まどか……」


美里は、少し寂しそうに円と自分の距離を見つめる。


その距離は2メートル程。


決して遠い距離ではない。


しかし……


「まどかぁ……」


今の美里が持つ、恋焦がれた心には、とてつもなく遠い距離に感じられた。



今の今まで、常に体温の感じる距離にいた円。

美里はつい先程まで感じていた円の体温に思いを馳せる。


触れ合い、ぬくもり、やさしく包んでくれた円の体温。

暖かくて、ふわふわした気持ちにさせてくれた円の優しい手。

いつも少しだけ、だけどとても優しく、それが胸の奥をドキドキとさせてくれる円の笑顔。


それが…… あんなに・・・・遠くにある。


だが……


これが本来の距離だと美里はそれを見て思う。


少し泣きそうになりながら、そう思う。


恋人でもなんでも無い、自分と円の距離は…… 本来はこれなのだと、美里は思った。



そして……


思って、美里は「それじゃいやだ……」と、泣きそうな表情を浮かべたのだった。






「ほう……」


そんな美里の表情をみた縁はニヤリとした笑みを浮かべる。


その時の縁の表情を一言で表すとしたらそれは「おせっかいおじさん」と言うのがぴったりであろう。


「嬢ちゃん…… 名前は?」


「え…… み、美里……です」


「よし、じゃあ美里に学園長が取って置きの情報を教えてやろう…… 耳かしな」


「え…………?」


「…………でな? …………コイツの家がだな」


「え? …………ほ、ほんと?」


驚きと喜びの表情を浮かべる美里。


「ああ…… 手続きしといてやるぜ?」


それに二カッと微笑み美里の頭を撫でる縁。


「理事長…… 尊敬する……」


美里は目を輝かせてそう言ったのだった。



————



「ふぁぁ……」


「円くん、わたし鞄持ちますよぅ!」


「いや楓…… もう家まで10メートルもないから」


「家ついたら私がすぐお風呂入れてあげるからね!!」


「ああ…… ありがとな夕凪」


夕暮れの中、三人の男女がゆっくりと歩き帰路につく。


円は足を怪我している素振りすら見せず、淡々と歩き続ける。


それは、長い戦いの生活の中で身に付いてしまった怪我を悟らせない為の技だ。



円は、それでも多少は感じる、ふくらはぎの鈍い痛みを感じながら夕日に目を細めて今日を振り返った。




目が覚めたら、美里は居なかった。


ヘリで麓についた時、俺が目にしたのは、全力で走り去る美里の後姿だけだ。


俺はその姿をポカンと見送りながら、おっさんに「なにがあったんだ?」


と、聞いたんだが……


おっさんは、ニヤニヤしながら「お前のせいだ」と言うだけだった


……くそ、訳わからん


まぁ、ともかく俺はそのあと病院でそれなりの処置を受け


理事長と「災難だったなぁ!」「そんなでもなかったぜ……?」見たいな会話をしつつ飯を食いに行き


そのあとグダグダした後、なぜか迎えにきた夕凪と楓に連れて帰路についてるって訳だ



……夕凪と楓は、そりゃあもう心配してくれたみたいで


昨日は寝ないで待ってたんだとかで


も、申し訳ねぇなぁ……


今日は、美味しいご飯を作ってあげよう…… うん








…………………はぁぁ


解ってるよ


俺…… ちょっとヘコんでるわ……


美里……


あんな…… 逃げて帰る程、俺の事嫌いだったのかなぁ


ああ…… 打ち解けたと思ってたのは俺の…… あぁ……


やべぇ、地味にショックだわコレ……




「はぁ……」


円は小さくため息を吐いて夕日から目を背けた。


「円くん…… やっぱ疲れてるよね?

お家帰ったら、私がマッサージとかしてあげようか?」


「ま、円! マッサージなら運動部の私の方が得意だよ!?」


「ああ…… いや、お前達も疲れてるだろ?

俺がマッサージしてやろうか?」


「え!?」


「う……円が!?」


固まる二人にそれを見てきょとんとする円。


円は「肩揉み位でどうした?」と言う表情を浮かべながらそのまま歩き続ける。


どうやら、円はショックで何時もの様に頭が回っていないようである。


「ん……?」


そんな円が、ようやくたどり着いた自宅の入り口を見やり、顔を訝し気に顰める。


円の視線の先。


そこには……


「あ……… まどかぁ……!」


ぱぁっとした笑顔を浮かべ此方を見やる美里の姿があった。


「え…… 美里!?」


「ミサ!?」


「みーちゃん!?」


驚く三人と微笑む美里。


「まどか………!!」


パタパタと駆け寄り円の胸に抱きつく美里。

円の胸に顔を埋めた美里は「やっぱりここがいい!」と言った表情でにこやかに微笑む。


「ちょ…… ど、どうした」


円は美里を見やり、自宅の玄関を見やる。

学園専用下宿所伊浦荘、その軒先には……


「私も…… 住む…… 良いでしょ……? おねがぃ」


美里の家財道具一式と思われる物が積み上げられていたのであった。


「うちに…… 下宿するってことか?」


「だめ…………?」


不安そうな「くぅ〜ん」と言う顔を浮かべる美里。


円はそんな美里に……


「ぁ…………… はぁ… いいよ」


呆れつつ、だけど少しだけはにかんで、彼女の頭を優しく撫でた。


「へへ…… ありがとぉ…… まどかぁ」


美里は円に抱きつき、そして優しく頭を撫でられ「うれしぃ……」と目を細めながら微笑む。


「どういたしまして」


その笑顔は夕日に染まり、明るく暖かく幸せそうに輝いたのであった。












「え、なに…… この親密な雰囲気?」


「え? ミーちゃん? 円くん?」







てなわけでね!


そう言う事です!


次回 学校で美里が!?


36話 円に甘えたい


※ タイトルは変わるものと辞書をひいたらのっていました(参考 我が輩の辞書)

  あと不可能ものっていました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ