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33話 ごめんなさい

「………美里、どうした? 気分でも悪いのか?」


円は突如「なんでも…… ない」と言って押し黙り、俯いてしまった美里を見て心配そうに声を掛け、そしてその頬に触れる。


「ひゃッ……!」


しかし先程、円を異性として意識したばかりの美里はその突然のスキンシップに過剰に反応してしまい、思わず頬に触れた円の手を弾いてしまう。


「えっ……」


手を弾かれた円は思わず呆然とした表情浮かべて停止する。


大分美里と打ち解けたと思っていた円…… 

ましてや「母を亡くした物同士」と言うことから感情移入までしていた彼は、突然の美里の拒否反応に少なからずショックを受けていた。

その瞬間の彼の表情をあえて表現するとしたら「まさか…… 反抗期!?」と、言うのとは少し違うがそんな感じである。


「あ…… ご……ごめんなさい」


美里は複雑そうな顔で驚いている円を見て、いたたまれない様な気持ちになり、小さな声で謝罪をする。


「あ… いや…… いいんだ…… ごめんな? イヤだった……よな?」


円はそんな、美里の申し訳ない様で尚かつ悲し気な表情をみて、同じく申し訳なさそうに小さく苦笑した。


「え…… ち… ちがう……! い……いやなんかじゃ…… ない!」


美里は少し泣きそうな顔で円を見つめその言葉を否定する。


「いや…… 無理はしなくていいぞ……な?」


しかし円は美里の様子を見て、優しくそう呟いた。

唇を少しだけわなわなとさせ、ジャージの裾を握りしめ、その瞳にはわずかに涙を蓄えた美里。

円は美里のそんな様子から「彼女は何か無理をしている」と判断し、少しだけ間をおこうと考えたのだ。


「ちが……!? 無理じゃ……無理とかじゃなくて!!」


しかし美里は円のそんな呟きに思わずカッとなり、手を振り上げてそれを否定しようとした。


「いっ……!?」


しかし、彼女が手を振り上げたその時……


「え……? まどか……!?」


偶然にも彼女の肘が円のふくらはぎに直撃し、彼は苦痛の表情を浮かべたのであった。




————




「こ… これ…… ひどい…… ご…ごめんなさい…… わ……わたしのせいで…… ごめんなさいぃ……」


美里は、円のふくらはぎにある痛々しく大きな傷を見つめ、顔を青くし、泣きそうな顔で円を見つめていた。




美里の肘が、円のふくらはぎに直撃した直後……

美里は苦痛に顔を歪めた円に驚き、そしてその際に円が反射的に伸ばした手の、その先にあったふくらはぎに目をやる。


そこにはジャージの下にタオルがまかれ、不自然に膨らんだふくらはぎがあった。

美里は狼狽えながら円に「え…… どうしたの!? これ…… 怪我でもしてるの……!?」と問いかけた。


円はその問いに正直に伝えるかどうか悩んだ物の、「教訓になりそうなことは下手に同情しないでズバッと伝えてやんのが本当の優しさってもんだ!」と言う母の教えに則り、美里を助ける際に足を木の枝に引っ掛けたのだと大雑把に経緯を説明した。


そして、その話を聞いた美里が青ざめた顔をし「き…… 傷口…… 見ても…… いい?」と言うので、円は「これも教訓のうちか……」と思い、見せてやることにしたのだった。




「ご…ごめんなさい…… ごめんなさいぃ…… わ…わたしのせいで…… まどかに…… こんなひどい傷を」


美里は青ざめた顔のまま、ふるふると震え円にそう呟く。


「い… いや…… そんな謝らなくてもいいよ…… 確かに反省はした方が良いけど…… 

そんなに謝らなくても大丈夫だから…… 別に深刻な怪我とかじゃないからさ」


円は「この世の終わり」みたいな顔をして謝り続ける美里をみて、凄まじい罪悪感に苛まれる。


確かに母の教えの通り、「勝手な行動をするとこういった怪我をしかねない」と言う教訓を美里に解らせる為には、こうして酷い傷を見せるのが一番効果的だとは思うが、実際のところ戦場仕様のブレイカーである円はこの程度の怪我は問題にならない……とまではいかないが深刻な怪我には入らない。


勿論、一般人であれば立派な大怪我であるが、ある程度の意識的な血流のコントロールや、高い免疫力を持つ高位のブレイカーである円にとっては大したことではないのだ。


確かに、痛いことには痛いが、多少無理すれば歩く分には問題ないし、怪我自体は2日で(見た目的には)塞がるだろう。


故に、そんな大した怪我ではないのにそれを糧に美里を責めているようで、円はいい気持ちがしないのであった。


「だからさ…… 反省だけしてくれれば、あとはそんなに気にやむことじゃ………… って美里!?」


円は話の途中で美里を見やり、そして美里の表情に驚きを見せる。


そこには……


「ごめぇ……ごめ……ゔぅ……ごめんなさっ…… ま… ひっ…… まどかぁ……! ごめんなさぃ……!!」


円の服の袖を掴み、大粒の涙を流し、すがりつく様にして見つめる美里がいたのだった。


「ぅえ!? ちょっ! なに!? そ、そんなに泣かないで!! ちょ! まじ泣かないで!?」


円は慌てながら、服の袖で美里の顔を優しく拭う。


「ゔぇぇ…だってぇ… わたし……まどか…こんな…… ひっ… こんなきずおわせてぇ…… ごめんなさいぃ……! 

ぅぁぁ…… わたし…まどかにぃ…… きらわれちゃゔぅ…… いやだぁ……やだよぉ…… ごめんなさぃぃ…」


ぐしゅぐしゅと泣き、潤みきった目ですがる様に見つめる美里。

美里はそんな自分の顔を拭う円の腕を力なく掴んだ。


まるで添える様に触れた美里の手は「おねがいだからきらわないでぇ」とでも言っているかの様にか細く震えていた。


「うぇ!? ちょ…… なんで嫌う嫌わないの話になるんだよぉ……」


円は頭を掻きながらため息をつく。


「あ〜…… 泣く女の子は本当に苦手だよ……」


「ふぇ……!?」


円はそう言って美里を抱きしめる。

円は泣く娘を慰める術をこれ以外に知らない。


「あ〜…… 嫌わないから……な? 反省してさえくれればそれでいいから……」


円は抱きしめた美里の頭を撫でながらそう言う。


「ほ……ほんとう……? 嫌いに…… ほんとぉ……?」


美里は頭を撫でなれながら、無理矢理に頭を起こして円の目を見やる。

抱きしめられた状態から顔を上げたので、美里の顔はまるでキスをするかの様に近い。


「ちょ…… ああ…… ほんと、ほんと……」


円は自分の前顔に迫る、うるうるとした美里の瞳に苦笑を浮かべながら、彼女の頭を撫で続ける。


「あうぅ…………ぁぁ」


眉をハの字に下げ、瞳を潤ませ、安心した様に頬を緩ませる美里。

美里は「本当」といってくれた円の目を間近で見つめ、より涙を流しながら、声にならない喜びの声をあげた。


「わ…… わたし…… ま……まどかの…… まどかのいうことなんでもきく……」


「は?」


美里は止まらない涙をまどかの胸元に滴らせ、まどかに口づけをする様にせまりつつ、懇願する様にそんな事をいう。


「なんでも……するからぁ……」


その目は本当に真剣で、彼女が犬であったら「くぅ〜ん」と言う切ない泣き声でも聞こえてきそうな感じであった。


「えぇ〜……」


円は自分の口元にかかる熱と湿り気を帯びた美里の吐息に戸惑いつつ、その言葉の意味を考える。




これは……

恐らく「許してくれる代わりに何か自分に出来ることがあったら言って?」って言う意味だよなぁ……

まぁ、確かに人に怪我させといて何のペナルティも無いんじゃ、逆に気が引けちゃうからなぁ


う〜ん……

ほんと、別に気にしなくてもいいんだけどなぁ


でもまぁそれで美里の気が晴れるならいいか……




円はそう考えをまとめるとウンと軽く頷き、前顔で自分を熱く見つめる美里に語りかける。


「じゃあ俺の身の回りの世話をしてもらおうかな」


「みの……まわりの…… せわ?」


円は美里に軽く微笑み、美里はそれを確と見つめる。


そして……


「うん…… (怪我が治るまで)俺の身の回りの世話してよ、ちょっとしたことを手伝ってくれるだけでいいからさ」


円はよしよしとあやす様に美里の頬に触れ、その涙を拭き取りながら呟く。


「わかった…… (責任をとって一生)円の身の回りの世話する…… なんでもする……」


そして美里はうっすらと頬を朱に染めて、真剣な眼差しのままこくりと頷いたのであった。



美里は別に円の怪我の心配をしてない訳じゃないんです。

ただ、それより先に嫌われる事への恐怖が先走っただけなのです。




次回 雨が降って来て二人は……


34話 眠たくないのに……


※タイトルは変わらなきにしもあらず

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