29話 着地!!
横風により、わずかに木の枝から外れてしまった円。
目前にあった助かる為の手段が失敗してしまう。
絶対絶命の状況、そしてそこでの失敗はすなわち死を意味する。
そんな絶望的な状況。
しかし、円は落ち着いていた。
少し取り乱したものの極めて冷静だった。
円はそこから思考を高速回転させ次の一手を無理矢理はじき出すと、それとほぼ同時に自身の体も高速回転させたのであった。
「痛いのはいやなんだよぉッ!!」
そうして叫びながら放つ、円の鋭い回転蹴り。
円は極限に集中した中で訪れる、スローな世界の中で、自身の足の行方を見つめる。
落ち着け……
銃で狙いを定めるときの様に
引き金を引くときの様に
冷たく
頭の芯を冷たくして、狙いを定めろ
目に映る世界と
そこに描いた”動き”のイメージ
そのイメージに完全に体を適合させろ
そして、木の枝に俺のふくらはぎを突き刺す瞬間の
衝突の瞬間を思い描け
より精細なイメージを作り上げろ
木の枝が肉に突き刺さる角度
足の腱を傷つけない様にするための位置
どこまで突き刺せば体を支えられるのか
そして、肉がちぎれない様に筋肉を引き締めて硬直させるタイミング
その全てだ
その全てを微細にイメージしろ
そしてそれを……
寸分違わず実行しろ!!
「おぁあああっッ!!」
円はうなり声をあげ、自分のふくらはぎと、尖った木の先端の間を注視する。
極限に集中された一瞬。
最高潮に高まる緊張感。
そして次の瞬間。
グシャァ!!
「ぐがぁっッ!!」
肉を貫く鈍い音を響かせ、勢い良く、そして鋭く円の足を穿つ木の枝先。
円はその瞬間に生じる脚部の激痛に、声を漏らしながら、歯を食いしばる。
「ぐぁぉおおおおおおおお!!!」
そして、ふくらはぎに木が貫通した直後、円は雄叫びをあげながら、自らの筋肉を極限に収縮し、木の枝を締め上げる。
鍛え抜かれ、そして限界すら突破された円の脚部の筋肉は、まるで岩の様に緊張し木の枝をしっかりと絡めとる。
バキィッッ!!べきべきべきィッッ!!!!!!!!!
そして、グンとなる強烈な落下の反動が彼の体を襲ったあと、円の落下のスピードが急激に緩和される。
しかし、先端部に強烈な負荷がかけられた木の枝は、その反動に耐えきれず円共々折れ始める。
「っはぁあああ!」
しかし、そこで円はふくらはぎの筋肉を堅くしたまま体を捻り、横回転をする。
そして、その回転のまま自身に刺さる木の枝をねじ切ると共に、折れ行く木の枝を思い切り蹴り上げた。
バキィッ!!
激しく蹴り上げられる太い木の枝。
円は折れる寸前の木を蹴り上げた反動を利用し、自身と美里を岩の出っ張りへと弾き飛ばす。
ズダァンッ!!
「ぐぁっ…… っつはぁ……」
弾き飛んだ円は、そのまま空中で受け身をとって回転し、しっかりと両の足で岩場へと着地する。
着地した時に、「ブシュゥッ」と音を立てて吹き出した血に顔を歪め、そして辛そうなため息を一つ。
「ふぅ」
円はこうして何とか岩場へと着地する事に成功したのであった。
「っはぁぁぁ…………… しんど」
彼は自分たちの代わりに落ちて行った木の枝を見送りながら、疲れた様に深いため息を吐き、心底けだる気にそう呟くのであった。
————
さて
何とか岩にたどり着けたっちゃあつけた……
が
これからどうするかねぇ
さすがの俺もこの足じゃあな……
この子つれて帰るのは不可能だ
……てか足イテぇ
あー、畜生、まじイテェな
何とかイメージ通り、アキレス腱とかは外したけど
うーん
こりゃ俺でも一週間はかかるぞ?
戦場使用のブレイカーじゃなかったらもっとかかんだろうけどな
はぁ
とりあえずタオルで止血しとくか
ふむ
ともかく、自力での生還は無理だ
捜索を期待するにも黙って出て来ちゃった以上本格的な捜索開始には時間が掛かるだろう
まぁ幸いにして、ここは大分目だつ場所だ
ヘリの捜索さえ始まれば直ぐに見つけてもらえるだろう
ただ、あと数時間もすればもう夜だ
加えてさっきから天気も悪くなって来てやがる……
もしかしたら今日中の発見は無理かもな
はぁ……
まぁ最悪明日には発見してもらえるだろうし
何とかならない事はない…… か
しかしなぁ……… はぁ
こんな狭い崖で、下手したら女子と一晩とか
しかも……
後から女子を抱きかかえて何とか収まるくらいの崖幅とか……
難易度高過ぎだろコレ
あぁ
崖から落ちるし
足はイテェし
見知らぬ女子と大ピンチだし
なんだ?
今日は厄日かよ?
はぁ……
家帰りてぇ
次回 目が覚めたらそこは……
30話 戸惑いと
※次回予告?何それあてになるの?




