28話 落下中!!
ヒュゴオオオオォオオオォオォオッッッ!!!
「はぁ…… さて、どうすっかなぁ」
凄まじい勢いで風を切り裂き、地上へ向けて真っ逆さまに落ちて行く円。
彼はそんな絶望的な状況の中で何とも暢気に、ため息まじりの言葉を吐く。
「さてと……」
そんな声が一瞬で掻き消える激しい風の中で、眼球を執拗に責め立てる向かい風に目を細めたまま、円は周囲を確認する。
目を細めて落下方向を見ると、その先には歪に飛び出た見るからに堅そうな岩と、そのいくらか手前に見える、崖から垂直に生えたそこそこ太目の木があった。
ふむ……
このまま落ちると、あの岩の出っ張りにぐしゃりだ
やべぇな
そうしないためには……
うん、あの木になんとか引っ掛かって落下の勢いを弱めてからあの出っ張りに着地するしかないか
見た所、そこそこの太さはあるみたいだしな
まぁ、いけるだろう
さて、どうしたもんか
あの木に引っ掛かるにはとりあえず
片手で掴むか
胴体でうけるか
足で引っ掛かるか
だよなぁ……
手でつかむのは一番理想的だ
まぁ……
俺一人で助かる場合ならな
うん
俺の腕力は脚力と違って特化はしてない……
腕力はぶっちゃけそこらの運動やってる奴とそこまで大差ないだろう
だからこの勢いで落下してる中で、片手で枝を掴みつつ片手で人一人分の慣性エネルギーを受けきるのは
正直難しいだろうなぁ
はっきり言えば、この女の子だけ支えきれずに取りこぼす危険がある
しかもこの娘……
いつのまにか気絶しちゃってるしなぁ……
取りこぼして、うまい事岩の出っ張りに落とせたとしても
そのまま転がって出っ張りから落ちて行く可能性は十二分にある
人の命がかかってるのにそんな賭けみたいな事はやめといた方がいいだろう
だから、手は却下
次に胴体で受けるのは……
無理だな
うん
だって、うつぶせで落ちたら、この前で抱えてるこの娘を潰しちゃうし
かといって背中で受けたら腰をやる可能性がある……
てか衝突時に、臓器に影響があるかもしれないからどのみち胴体は却下
内蔵やられたら命に直接関わる
後は足だけど……
まあ、これが一番現実的かもな
いくら空中と言っても全く身動きが取れない訳じゃない
体を捻りや風の受け方の調整で、多少は体の向きや落下の位置を調整出来る
それを利用して、うまく膝裏にあの枝が来る様にすれば……
うん
凄く痛いだろうけど何とかあの木に引っ掛かる事が出来るだろう
それなら両手でこの子を支えられるから、さすがに落とさないだろうしな
うん……
このスピードだから絶対痛いけどな
膝裏直接だからクッションかけられないしなぁ
痛いだろうなぁ
はぁ……
いやだなぁ
だけどまぁ、そうと決まれば……
円はそんな思考を数秒のうちに巡らせると、腰を捻り、空中で回転し、体の向きや位置を変えておよそ膝裏の落下地点が木の真上に行くよう調整をする。
猛スピードで落下する二人。
迫り来る太い木の枝。
失敗してはならない。
失敗すれば岩に激突する。
このスピードで岩に衝突すれば、いくら円とて無事ではすまない。
そしてたとえ岩にぶつかり、生きながらえたとしてもあの岩の幅では着地時の勢いを殺しきる事はできない。
そうなれば岩場から落ちてまた転落だ。
かといってこの岩場をやり過ごして、そのあとに理想的な着地のシチュエーションがある可能性はない。
つまり、ここで決めるしかない。
生き残るには何時だって出来る時に出来る事をやるしか無いのだ。
失敗は許されない。
失敗すれば死ぬかもしれないのだから。
そんなプレッシャーの中、円は集中して木の枝に注目する。
冷や汗一つかかずに、冷静に、落ち着いて木と膝裏の距離を測り、微調整をする。
集中し目を見開いて木を注視する円の瞳は、恐らく風圧で外れたのだろう、茶色のコンタクトが外れていた。
円は仰向けで落下し、首を捻って下を向き、銀色の眼光を走らせる。
その瞳は淀みなく、目の前の危険に対する怯えも無い。
いくつもの修羅場を超えてきた……
そんな強者だけが放つ、力強い輝がそこにはあった。
「よしッ!! ドンピシャだ…… ってぁあああっ!!!!」
ただ……
そんな強者も
「ちっくしょっおぁッ!! 横風ぇッ!!!」
迫り来る自然の力には勝てないのだった。
ーーーー
まずいっ!!
最後の最後で横風にあおられたッ!!
くっそぉ!!
……っつ、落ち着け!!
あおられたっつても、そんなに流された訳じゃない!
ちょっと横にずれただけだ
だが、この距離から膝うらへの調整はもう無理だ
つまり、膝裏で受けて木を足で挟み込んで引っ掛かる作戦は不可能だ
唯一この木に届きそうなのはふくらはぎの辺り……
そして…… ん?
あつらえ向きの様に…… 尖った枝の先か……
くっそぉっ!!
マジか!!
最悪だっ!!
「痛いのはいやなんだよぉっ!!」
————
円が木の枝に足を引っかけようとしたその時。
円は横風にあおられわずかに木の枝からそれてしまう。
しかし円はその瞬間、大きく腰を捻り体を回転させる。
円の体は人を一人抱えてるとは思えない程、素早くそして鋭く横回転をし、そこから足を振り上げる。
まるで胴回し回転蹴りの様に放たれたその足は……
「痛いのはいやなんだよぉっ!!!」
という、円の怒鳴り声とともに尖った木の枝先へと向って行くのであった。
まるで
ふくらはぎを木の先端へと勢い良く突き刺す様に……
グシャァ!!
次回 痛いっ!!
29話 ………だいじょうぶ?
※次回予告って最早違って当たり前なとこあるよね?




