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25話 貴崎美里の奇行

登山学習。

それは自然に触れる事で、心を清らかにするとともに、きつい山道を登る事で生徒の心と体を鍛える事を目的としている。

そのため、この登山学習の場として選ばれるのは、心に刻まれる程の美しい景色と、不可能でない程度に厳しい山道がふさわしい。


今回、円達が訪れた山は正にその条件通りの山。

円達の学園から高速を使ってバスで三時間ほど走った場所にあるその山。

美しい緑と、清廉な川が流れ、小さいながらも滝や池なども見られ、切り立った崖や峰が荘厳にそびえ立つ。

正に風光明媚と読んで相応しい景観でありながら、同時にそれなりの斜度と長さを誇る登山道が設けられた山。

筑ヶつくがたけと呼ばれる、登山学習において、毎年使われる山である。


そんな山の中、一人の少年が黙々と歩いていた。

灰色の髪に、茶色のコンタクトレンズをはめたその少年の名は伊浦円と言う。

円は視線を前方に向けながら歩いている。

そんな少年の目線の先には、10人程のグループが列をなして登山道を進んでおり、少年はその最後尾を歩いていた。



いやぁ

すげぇいい天気だなぁ

天気も凄い晴れたし

最高の登山日和だろコレ

風景もめちゃくちゃ綺麗だし

この山をチョイスした学園長のセンスはさすがといえるなぁ

あ〜

空気うめぇなあ


しかし

うん…… 皆まじでキツそうだなぁ



円は目の前をゆっくり進んで行く同じグループの生徒達の様子を見る。

その生徒達はまだ六合目だというのに疲労困憊といった表情を浮かべ俯きながら歩いていた。


登山学習では10人単位でグループ分けされ、各々が無数にある登山コースを選び登って行くという方針である。

しかし、登山コースはどれをとってもなかなか簡単には行かない代物である。

具体的には文化部の女子等は体力的にかなりぎりぎりの所を攻めるコースとなっていた。

正直、そういった者が一人でその登山道を制覇するのは難しい。

しかし、そこは10人のグループ。

その10人の中には当然、運動部等の体力豊富な人間もいるはずである。

そして、普段交流のないそう言った者達が互いに助けられ、頼られ、交流をする事でより豊かな人間関係を育む、それこそが登山学習の真の目的なのだが……


「全員文化部のメンバーって……」


円は目の前を歩くゾンビの様な生徒達を見ながら小さく呟いた。


円が割り振られたグループ。

それは偶然にもメンバーの全員が文化部(プラス帰宅部の円)で構成されたグループであった。

そのため全員に体力が無く、本当にキツそうに地面を見ながら歩いている。

ふらふらとしながら、無言で歩き続けるその様は正に死の群行と言う言葉が似合いそうだ。


勿論、実際は体力の塊である円は平気だが、それとあともう一人……

円のすぐ前を歩く、赤茶色のショートヘアに同じく赤茶色の瞳を持つ美少女、貴崎美里きさきみさとも平気そうであった。



んーと

確か、この子は良く夕凪や楓と一緒にいる子だったよな?

名前は……

え〜と、あ、ダメだわ、思い出せない

てかそもそもちゃんと聞いた記憶ないわ


しかし、この子は結構体力あるんだなぁ

たしか楓が絵を描いてるブレイカーだとか言ってた気がするけど……

全然キツそうじゃねぇな


しかし、なんかやたらと辺りをキョロキョロしてるなぁ

いい絵のモチーフでもあったのかな?

まぁ、あれだな、経験上芸術家のブレイカーはちょっと変なのが多いからな

その例に漏れないんだろうな

なんか、子犬みたいでかわいいからいいけどな



円はそんな事を思いながら、目の前をうろちょろする少女に目をやる。

少女は道ばたに咲いた花を、興味深気にふむふむと見つめたり、珍しい形をした葉っぱをへえと眺めたり、遠くに見える山を見ながらうんうんと頷いたりしていた。


円は何となく保護欲をそそられる彼女の様子を見ながら少しだけ微笑む。

基本お母さん気質の円はそんな美里の様子を、邪魔しない様に少しだけ離れて見守るのであった。


————


それから更にいくらか歩いた頃の事。

山の8合目まで行った頃であろうか。

歩いても歩いても頂上が近づかない事に絶望の色を浮かべながら歩き続ける円達のグループ。


そんな中を歩く貴崎美里の前を1羽の蝶が優雅に横切る。

その蝶は、きらめく様な青色に黒色の美しい模様が入った蝶で、とても優美で荘厳な雰囲気があった。

その蝶が、美里の目の前をヒラリヒラリと横切ったとき、彼女の赤茶の瞳はその蝶に釘付けになった。


蝶が目の前を横切って右側の方へと進んで行けば、それに合わせて立ち止まった美里の顔が右を向き、そして、そのまま蝶が美里から離れようとすると、その距離をつかず離れず、美里は追従した。


そして、美里はそのままふらふらと誘われる様に、無言で登山道から離れ森へと入って行ったのだった。

その森への入り方は余りにも自然であり、まるで「始めから進行方向はこっちでした」と言わんばかりの自然さであった。

そのため彼女は、彼女の前を俯いて歩く他のメンバーに全く気付かれる事無く森の中へと進んで行く。

こうして彼女は先生から「登山道以外は以外と危険が多いから絶対に道から外れるなよ」と言われていた道の外へと誰にも気付かれず出てしまうのであった。


「えぇー………」


唯一、彼女の後ろを歩いていた灰色の髪の少年以外の人間に気付かれずに。



次回、美里を追った円に……


26話 何してんの?


※タイトルは高確立で変わります。

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