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24話 理事長のおはなし

「で、あるからして、今日の登山学習では仲間との絆を深めると共に………」

ギラギラと輝く太陽、まだ朝の涼しい段階であるにも関わらず、この照りつけるような日射し。

そんな夏の日射しの中、校庭に所狭しと並べられた生徒たち。

ゆうに500人はいようかという数の、1年ジャージを着た生徒たちは、和服で朝礼台の上に立ちメガホンをもって語り続ける壮年の男の話を聞いていた。


その壮年の男は、長身にして筋骨隆々、彫りの深い威厳ある顔立ちに、白髪をオールバックでまとめた容姿で、風格ある渋目の雰囲気がなんとも和服に合う男であった。


男の名は柳葉縁やなぎばえにし、この学園の理事長を勤める男である。


「………では、以上だ、気を付けて行ってきなさい」


縁は生徒たちに三分ほど、所謂「校長のお話」をすると最後に快活な笑顔を生徒に向け、朝礼台を後にした。


ーーーー


縁が一人、校舎へと続く並木道を歩く。

なんとも広いこの学校の敷地の中にある、桜並木だ。

春になれば、ため息がでるほどに見事な桜が拝めるこの桜並木も、今は青々とした葉が生い茂る、ただの並木道だ。

縁はそんな並木道から降り注ぐ木漏れ日に、どこか嬉しそうに目を細めながら歩く。


「何時も思うけど、ずいぶん話が短いんだな」


すると、そんな縁にの背後から不意に声がかけられる。

縁は聞き覚えのあるその声に微笑みながら振り返ると、その声の主へと声をかける。


「まぁ、理事長の話なんて誰も聞いてたく無いだろう? ところで、どうした円?」


縁が振り向くと、そこには縁と同じ様に微笑んで佇む灰色の髪の少年がいた。


「うん、昨日話した学校指定の下宿所の件なんだけどさ」

「ああ、アレならもう認定しておいたぞ」

「えッ、早ッ!?」

「俺を誰だと思ってる、この学校の最高権力者だぞ?」

「う、うん、まぁ早い分には良いけどさ……」

「まあ、とにかくこれでお前の家は理事長様直々認定の学園指定の下宿所、伊浦荘だ、好きなだけ女を連れ込むと良い」

「は、はぁ!! 何言ってんだあんた!?」

「しかし、お前が女子高生を連れ込みたいから家を学園指定の下宿所にしてくれと頼みに来るとはな、成長したな円よ」

「ば、俺そんな事言って無いだろぉ!?」

「まぁ、女子高生を合法的に連れ込むのは良いが、避妊はちゃんとしろよ?あと無理矢理はだめだからな?」

「だ、だから何言ってんだよあんたは!!」


狼狽える、円とニヤリとしながらウンウンと頷く縁。

縁は特にやましいことも無いのに慌てている円の動揺っぷりを堪能すると、静かにまた語り出す。


「まあ、冗談はさておき」

「こ、こいつ……」

「下宿の件は滞りなく完了した、ただ下宿指定の最低人数が5人下宿出来る家である事が条件だからな、お前自身も下宿生扱いにするとしても最悪後二人は下宿生が増える可能性があるがそれは良いか?」

「うん? ああ、隠せば問題ない、あと二人なら部屋も空いてる」

「そうか、ならば一応形として学園のホームページに伊浦荘の名前と住所をのせるが、まあ余り目立つのせ方はしないし、お前の家は辺鄙な所だから希望者も居ないだろうから心配するな」

「ああ、わかった」

「しかし…… いったいどういう心境の変化なんだ?」

「うん?」

「ブレイカーのことだ、お前はブレイカーだって事を隠しながら生活したいんじゃなかったのか?」

「ああ…… そうだよ」

「なら、なんでブレイカーと同居なんて始めるのだ? しかも問題にならない様自分の家を下宿所にまでして」

「仕様がないだろ…… 住まわしてくれって無理矢理頼まれたんだよ……」

「そんなの、嫌ならきっぱり断れば良かっただろう、わざわざ下宿先なんて面倒な言い訳まで用意して、なんで引き受けたのだ?」


縁はそう言うと、円へと怪訝な視線を投げ掛ける。

円はその視線をうけると、少しだけバツが悪そうに目線を反らし呟いた。


「……………嫌じゃねぇから困ってんだろうが」


そっぽを向いて、少しだけ赤面しながら小さな声で呟く円。

そんな円を、縁はぽかんとしながら見つめ、そしてしばらく惚ける。


そして……


「く…………くくっ」

「あ?」

「くぁあっはっはっはっはっはぁッ!!!!」

「なっ!?」


盛大に笑い出す縁。

円はそんな縁を赤面したまま睨みつける。


「ッ………はは、悪い悪い」

「なに笑ってんだよおっさん!!」

「いや…… あのガキが成長したもんだと思ってな」

「……それと笑ったことの関係はあるのか?」

「……細かい奴だな、まぁ、笑ったのはアレだ、お前が女子高生に振り回されてるってのが可笑しかっただけだ」

「うるせぇ」

「いや…… 良い事だと思うぞ」


笑われた事に少しだけ剥れる円。

そんな円に縁は優し気に微笑む。


「人は人と結びつき、縁の中で成長して行く物だ、そして縁ってのは何時も突然結ばれる」

「たとえ押し掛けだろうが一目惚れだろうが、縁は縁、そして縁を大事にする心がありぁ、それは良縁だ」

「おっさん……」

「だから、お前は間違っちゃいねえ…… 迷え、そして考えろ…… 良い縁を作れ」

「なんだかあんた…… まるで教育者みたいだな」

「おお、実はこの学園で理事長やってんだよ俺」

「っぷ…… なに言ってんだあんた」

「ははは…… じゃあまあ好きにやれ、お前は俺の息子みたいなもんだ、いくらでも協力してやる」


縁は、そう円に語りかけると、彼の頭をポンと叩き、並木道をのしのしと進んで行くのであった。


「ああ…… ありがと」


円はそんな縁の後ろ姿に、少しだけ微笑んで呟くとくるりと振り返り、移動バスの待つ大型駐車場へと急ぎ足を進めるのであった。





「あの円がねぇ……」

並木道に降り注ぐ陽光をあおぎ見ながら、縁はそっと呟く。


あいつは、母親そっくりのきっぱりした奴だ……

ちょっと動揺したからって適当なことする奴じゃない

そんなあいつがこんな非効率な事やってるって事は

結構、あのブレイカーの嬢ちゃん達を気に入ってるって事か

まあ、楽しいんだろうな

それに、寂しいのかもな……


ふむ

実に学生然として良いな

青春は良い事だ

エロい事でも清い事でも何でもするが良い

アイツの忘れ形見だ

わがままくらいいくらでも聞いてやるさ


「心配すんなよタマ、円は俺がちゃんと面倒見てやっかんな」


縁は、きっと「そっちの方が心配だよ」と言いながら屈託ない笑顔を見せるであろう、今は亡き女性の顔を思い浮かべ、少しだけ寂し気に、そして小さく微笑んだのであった。



次回 今度こそ登山学習!!


25話 貴崎美里の奇行


※タイトルは変わる事があります

てかむしろ変わります

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