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23話 寝ぼける

「おーい楓?」

縁側前の廊下、光さす障子戸の前に立たずみ声を掛ける円。

「…………」

しかし、返事は全くない。

「はぁ……」

円は軽くため息をつく。

「楓、はいるよ?」

声を掛けてゆっくりと障子を開ける円。

障子を開けて中を見た先には、すやすやと気持ち良さそうに寝息を立て、よだれを垂らしながら眠る楓の姿があった。

「はぁ…… 楓さん?」

円は再び楓に声をかける。

「むにゃ……」

しかし返事はない、ただのお眠のようだ。

「はぁ、もう」

円はそんな楓をお姫様だっこで持ち上げる。

「ふえ?」

そんな円を寝ぼけながら見上げる楓。

ようやく反応を示す彼女であるが、それは覚醒とは程遠い状態である事が一目でわかる。

「はいはい、起きましょーね」

楓を待って飯が冷めるのが嫌な円は、そのまま楓を食堂まで連れて行くのであった。


————


「いただきます」

「いただきまーす!」

「いただき…… まふ」

それぞれに食事を開始する三人。

しかし一人はまだ半分夢うつつである。


「うんっ、あっさりしてて美味しいねっ、凄く美味しい!!」

夕凪は朝日にきらめく元気な笑顔を円に向け答える。

「そ、そうか?よかった」

円はそれに嬉しそうにはにかむ。

「おいしぃー」

そんな中楓はゆっくりと寝ぼけたまま食事を進める。

彼女の口の周りにはトマトソースが若干ついてしまっている。

「楓、口の周りがよごれてるぞ」

そんな楓の様子を見かねて彼女の口の周りを拭いてあげる、お母さんな円。

「むう…… 自分で拭けるよぉ円くん……… ん? 円くん!?」

始めは煩わしそんな仕草をしながらもどこか嬉しそうな表情を浮かべていた楓。

しかし、彼女の表情は次第に少しずつ焦りの混じる物へと変わっていく。

「どうした?楓」

そんな楓の様子を不思議そうに見つめる円。

彼の顔は楓の口元を拭く為に、楓の近くへと寄っていた。

「まっ!!円くん!?」

途端に悲鳴に似た声をあげ赤面をする。

「か、楓?」

そんな楓に驚く円。

「え、ええっ!? か、楓って…… 円くんいつの間に呼び捨てに!?」

楓はそれにあわあわと動揺をしながら答えるのだった。


「え?いや、昨日楓がそう呼べって言ったんだけど」

「わ、私が!?」

「そう、嫌か?」

「え!? い、嫌じゃないよ!! むしろ嬉しいよ!?」

「そっか、なら楓も俺の事円って呼んでくれ」

「ええッ!! そ、それは」

「まあ、それはそれとして、とりあえず口元は綺麗にしような」

「んっ!むぅっ!?」


赤面したままわたわたと話す楓に、そんな楓の口元をきれいに拭き取り席へと戻る円。

夕凪はそれをどこか羨ましそうに見つめ。

楓はそんな円の、唇を布越しに触られると言う攻撃に顔を真っ赤にしたままシュンとして黙ってしまうのであった。


————


「ふああああっ、円くんごめんなさいい!!」

「いいから、早く準備しなよ、楓」

「はいい!!」

騒がしい伊浦邸の朝。

現在台所では楓が、今日の登山学習の準備を慌てながらしている。

そして、円はその楓の後ろでやれやれと言った顔でその楓の髪をドライヤーで乾かしてあげている。


実は、朝食を食べた後、楓は自分以外の二人がジャージに着替えていた事を不思議に思い質問をした。


「あの、何で二人はジャージなんですか?」

「え?」

「まさか…… 楓さん」

「え? えっ?」

「カエ…… 今日は登山学習だよ?」

「え…… エエエェーー!!」


楓は先日、円と夕凪の下宿の件が気になり過ぎて、完全に登山学習の事を聞き逃していたのだった。


そして、そこからはてんやわんやであった。


素早く食事をすませ、楓は先日入っていなかったからとお風呂に入りたいと、円に赤面しながら困った様に伝える。

円はそれに、小さくため息をつきながら、「俺が荷物準備しとく」と言ったのだった。


その後、円は家の中を探して軍手やらタオルやら水筒やら飴までも用紙し、その後、三人分のお握りを握って用意すると言うお母さんぶりを発揮する。

そんななか楓はなんとかシャワーをすませ、ジャージに着替えると、もたもたと自分の髪を乾かし始めたのだった。

そして、そんな基本的に手際が悪い楓を見かねた円が、彼女の代わりに彼女の髪を乾かし始めたと言う経緯なのであった。


「なにから何まですみません円くん」

「いいよ、別に」


赤面して俯く楓と、それに軽く微笑みながら答える円。

楓は基本的に不器用であり、対して円は基本的に何でも器用。

加えて円は本人が思っている以上におせっかい焼きなのであった。


「さ、終わったよ楓さん」

「は、はい!ありがとうございますっ」

「さーて」、7時5分か、急げば余裕で間に合うな」

「はい!」


二人は急いで玄関のをでて行く。

玄関の前には円の荷物をもった夕凪が待機をしていた。


「はい、円!」

夕凪はにこやかに円に荷物を渡す。

「ありがと…… 夕凪は手のかからない子だな」

円は夕凪と楓を見ながら、少しだけ悪戯っぽく言う。

「えへへー」

それに何となく照れながら嬉しそうに微笑む夕凪。

「はうっ!?」

それにがーんとショックな表情をうかべる楓。

「はは、冗談だよ楓さん、半分はね」

その楓のショック顔に思わず少しだけ笑ってしまう円。

「そんなぁ、あと半分はなんですか!?」

チョッビリ涙を浮かべて円に尋ねようとする楓

「あははははは」

円はそれに軽く笑ってごまかすのであった。








まぁ、手のかかる子は嫌いじゃないけどね……… 








次回 登山学習開始!!


24話 美里の奇行

※タイトルは変わる事があります。



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