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20話 説得してくる!!

「わたしもいっしょにすむぅーーーーー!!!!!」


そう、大声で叫ぶ楓……

その突然の叫び声に唖然として見つめる夕凪と円……


「お客さまどうされました!?」

そこに突然飛び込んでくる店の店員。

「ひゃうぁッ!!い、いえ何でもないですぅ!!すみませんでしたぁ!!」

それに驚き、涙目のまま、ごまかそうと取り繕う楓。

「そう……ですか?なにかありましたらおっしゃって下さいね……」

その、明らかにテンパった様子の夕凪を訝し気に見つめて立ち去る店員。

「は……はい!!すみません!!」


店員が立ち去ったあと、個室の中に微妙な沈黙が流れる……

その沈黙の中、楓は涙目のまま、ゆっくりと二人を見つめる。

その瞳は、のけ者にされた子供の様に、おいてかれた子犬の様に、二人を見つめる……

楓は無言のまま席に座り、そのまま手元にあった緑茶を手に取り、それに口を付ける。

「ふぁッ!!あついぃ!!」

口に付けた途端に叫び声をあげる楓……

どうやら猫舌のようである彼女は、泣きそうな顔をしながら、逆恨み気味に二人を更に睨みつける。

だだ、睨みつけると言ってもその顔は泣く寸前であり、迫力等は微塵もないが……


「ゆなちゃんばっかりズルい!!私も、伊浦くんの家に下宿する!!」

楓は二人を睨みつけたままにそう言い切る。

「だから伊浦くん!!私も下宿させて!!お願い!!それに男女二人っきりなんてやっぱりダメよぉ!!」

そのまま円に必死で訴える楓、その目は真剣そのものである。

「あ……ああ」

何となくその勢いに押されてしまう円。

「ほんとぉ!!!」

途端に輝く笑顔を見せる楓。

「……で、でも楓はご両親と暮らしてるんだから無理でしょ!?」

しかし夕凪はそんな円をたしなめる様に言う。

「でもぉっ!!やなのぉ!!私も一緒に住むの!!」

最早、だだっ子状態へと移行した楓。

「いや……でも……説得できないでしょ?」

困った様な顔を浮かべる夕凪。

「する!!これから!!」

再び立ち上がる楓。

二人はそれを見上げる。

「だから……」

決意めいた表情をみせる楓。

「お父さんを……説得してくる!!」

楓はウンと頷き、個室を出ようと走り出す……

自分はやる、やってみせると力の漲る表情で部屋を飛び出して行く楓。


しかし……

「きゃっ!?」

楓は出だしから個室のテーブルの足につまずき地面に転ぶのだった……

「い……いたい……」

地面に倒れたまま、泣きそうな顔で振り返る楓……

先程の意気込みはどこにいってしまったのか……

やはり彼女は泣きそうな顔を浮かべている……


「楓さん……」

ああ、これはダメそうだという表情を浮かべる円……

「かえ……」

ああ、これはダメそうだという表情をうかべる夕凪……

「うう……」

そんな二人の表情を察する楓……


「だ……大丈夫だもん!!」

楓はそう捨て台詞を吐いてその場を立ち去ったのであった……


————


「じゃあ、この部屋使っていいから……」

円はそう言って自宅の一室を案内する。

「ここ、私が昨日寝てた部屋だね!」

嬉しそうにその部屋を見回す夕凪。

そこは先日、夕凪が事件のあと寝かされていた客間であった。

「そうだよ、ここは元々使ってない部屋だったから自由に使っていい」

それに優し気な表情で答える円。

「ありがとう、円!!」

夕凪は顔をほころばせて喜ぶ……

彼女は本当に嬉しそうにしている……

「え……えっと、あっちにトイレがあって、あそこの小屋が風呂になってて台所はあっちだから……後で見ておくといいよ……」

夕凪の眩しい笑顔に少しだけ戸惑いながら簡単に家の説明をする円……

「お風呂が家と一緒じゃないの!?」

そんな説明の中、夕凪は母屋から踏み石で繋がる離れの風呂が気になったようだ……

「なんかそういう造りみたいでな……風呂のつくりで結構豪勢だぞ?まぁさすがに温泉ではないけどな……」

それに、少しだけ自慢げに答える円。

どうやら、彼にとっては自慢の風呂であるようだ。

「へぇ!!ちょっと見に行こうよ!!」

はしゃぎながら縁側を飛び出し、サンダルを履いて踏み石を飛んで行く夕凪。

「ああ」

そんな夕凪を何となく微笑ましく見ながら、円はそれにゆっくりついて行くのだった。


「うわぁぁあああああ!!すごぉぉい!!」

風呂の小屋に入るなり声をあげる夕凪……


小屋の扉を開けてまず目に入ったのは、脱衣所……

まるでひなびた温泉宿を思わせる何とも雰囲気のある脱衣所で、木製のラックと竹製のベンチと姿見があり、お約束の体重計もある……

そしてその奥には、何とも期待させる曇りガラスの引き戸……

その引き戸も貧乏臭い物ではなく木の格子戸であり何とも旅館的である。


「すごい!すごい!本当に旅館みたい!!」

テンションの上がった夕凪はそのまま、勢い良くその引き戸を開ける。


「……うわぁぁぁぁああ!!温泉だぁ!!」

夕凪が扉を開くと、そこには大きな造りではない物の石造の露天風呂があった……

露天風呂の周りには竹製の囲いがあり、天井は無く空を仰ぐ造りとなっている。

「いや、温泉はでてないよ……普通に沸かす風呂だ」

それに一応訂正をいれる円。

「でも凄いね!!これから毎日こんなお風呂に入れるんだね!!」

興奮気味に喜ぶ夕凪。

「まあな、ちなみに家の中にも小さいけど檜の風呂があるよ、寒い時期になったらそっちを使う」

自慢の風呂を褒められて少し嬉しかったのか、少し上機嫌な円であった。


「楽しみだなぁ!!」

「それじゃあ……早速準備しといてやるよ……」

「ほんと!?」

「ああ……その後飯の準備もしとくから、その間に荷物の整理でもしておけ……」

「うん、本当にありがとう円!!」

「いいよ……別に」


「本当にありがとうね……円は本当に優しい……」

目を細め、優しそうに口を結ぶ……

夕凪は本当に幸せそうな表情を浮かべる……

「いいって……あ、あと入り用な物があったらさっき教えたスーパーで買い物しとけよ?あそこ8時には閉まるからな」

その表情に何となく照れてしまう円であった……


「うん!!わかった!!」

「おう……」


返事を交わし、早速風呂の支度を始める円と浴室を出て行こうとする夕凪……

夕凪が再び引き戸に手をかけたその時……

彼女は、突然その動きを止めてゆっくりと振り返る……


夕凪は、どこか恥ずかしそうに頬を少しだけ朱に染めている……

右手を胸にあてて、モジモジとしながら彼女は、円をチラリ見てこう言った……


「あ、あの……後で円の背中……流してあげよっか?」

そう言ったあとより一層に顔を赤くする夕凪……

円の返答を待つ様に、口をへの字に曲げて見つめている……

「なぁ!アホか!!いらん!!」

まるで赤面が映ったかの様に顔を赤くし、素が出てそれを否定する円。

「そ!そうだよね!!あはは!!ご、ゴメン!!」

それに、安心した様ながっかりした様な……でも結果残念なのが勝っているといった顔をする夕凪。


「そ、それじゃあ、まず買い物に言って来るね!!」

そういって夕凪はダッシュでその場を後にしたのだった……


「はぁ……」

円はその夕凪を見送りながら小さくため息をつく。

「ったく……」

彼は若干顔を赤くしたまま、風呂の掃除を始めるのであった……


————


純和風の伊浦家の中で、唯一近代的な様相の部屋である台所……

そこで、その家の主である伊浦円が調理を行っていた……


彼は風呂掃除のあとで着替えたお気に入りの甚平に黒い三角巾を頭につけ、そして腰に前掛けをまいて料理をしていた。

一見居酒屋の店員の様な格好ではあるが、それが妙に似合っている円……

彼は手際良く野菜と肉を切り分け、それを熱々に熱した中華鍋に歩織り込む。


ジュワァァァッ!!


「やっぱ、夏は辛いもの食べたいよなぁ……」


円はそう楽しそうに呟きながら、中華鍋を振り、塩こしょうで軽く下味を付ける。

豚肉のやける匂いが台所に広がり、とても食欲を刺激する……このまま食べても十分美味しそうだ……

そして肉が良い色に焼けて来た頃合いに刻んだキムチを投下し再び鍋をふる………

刻んだキムチはすぐに炒めた野菜と混ざりあい、全体を赤く染めて行く……

「よし……」

円は仕上げにごま油を一匙たらし香りをつける……

キムチ、豚、ごま油、何とも食欲をそそる香りの組み合わせ……

円は熱々のそれをそのまま、湯気の立つ白い米の入った丼に豪快にのせる。

「最後に目玉焼きを乗せて……と」

そこには食べ盛りの若者にはたまらない……

何とも食欲をそそる豚キムチ丼があった……


「さて……夕凪を呼びに行くか……」

円は前掛けと三角巾を外し夕凪の部屋へと向う……

円が台所を出ようとしたその時……


ガラガラッ!!

「あのぉ、すみません……」


玄関から聞き覚えのある声が聞こえる。


「え……この声……楓さん?」

円は玄関へと足を運ぶ……

「あぁ……円くん……」

そこには……

「楓さん……それ」

大きなキャリーバックを引きずり……

「ご……ごめんなさい……私……」

眉を下げ、口を結んで、泣きそうな顔を浮かべた……


「家出してきちゃった……」


楓の姿があったのだっだ……



「ここに、私もおいて下さい……」






次回!! 夜更けに円と夕凪が語りあう……


21話 円は優しいね……

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