19話 私も一緒に!!
先日の夜、突然楓の自宅の玄関に夕凪が訪れる。
「ゆなちゃん!!どうしたの!?今までどこいってたの!?」
昼の円を叩いた事件以来、その消息の掴めなかった夕凪が突然現れた事に驚く楓。
「楓!!」
そんな楓の言う事等一切聞かずに、彼女の瞳を真剣に見つめる夕凪。
「な、なに!?」
そのあまりに真剣な瞳に戸惑う楓。
「私は、楓に言っておかなきゃならない事がある」
夕凪は熱く、そして大真面目な視線で楓を見る。
「う、うん」
息を飲み、その瞳を見つめ返す楓。
「私も伊浦円が好きだ!!」
堂々と、気高く、はっきりと言い放つ夕凪。
「はっ?」
それに全くついていけなかった楓……
無理も無い……
なぜ先程、自ら叩くほど嫌いだった男を……
今度は一転して好きだと言っているのか……
全く以て意味不明である……
が……
同時に一つの考えが頭をよぎる……
もしかして……
ゆなちゃんも「本当の」円くんを……
見たのかな……
そう考えた楓はそれを夕凪へと聞いてみる。
「もしかして……ゆなちゃん……円くんのブレイカーのこと?」
そう問いかける楓……
それに夕凪は……
「うん……みた……」
と、少し頬を染めて嬉しそうに答えた。
「……そう」
その夕凪の幸せそうな表情に何となくジェラシーを感じながら呟く楓。
「楓……」
「なに……ゆなちゃん……」
「私は楓が円を好きなのを知ってる……それを知ってて円を好きになった……」
「うん……」
「だけど……だけど私は悪いなんて思ってないよ……」
「うん……」
「だって……今のこの気持ちに悪いものなんて一つもないんだから……だって……この気持ちの中には円への思いしかないんだから!!」
「うん……わかるよ……」
「だから……」
「うん……」
「負けないよ……」
「うん……私だって……」
そう……
言い合って別れたあの夜……
さも……
清々堂々戦うかの様に……
————
「いきなりこんな抜け駆けするとは思わなかったよ!!」
テンパリ気味に怒る楓。
「だって、こういう気持ちって初めてで……もっと一緒にいたいって思ったらこの方法しか思いつかなかったんだもん!!」
それに真っすぐな瞳で答える夕凪……
「うっ……」
その迫力に若干押される楓……
うう……
そうなんだ……
ゆなちゃんは中学の時からそうだ……
一度決めた事や信じた事は……
どこまでも突っ走っちゃう子なんだ……
「わ……わかったわよ!!で……でも勝手にするのはだめぇ!!とりあえず放課後に話あうのぉ!!」
楓はその夕凪の行動力に……逆切れ気味に叫ぶのだった……
————
放課後、楓がメールで話し合いの場に指定した場所……
それは、以前楓と円が二人で利用した事もある個室甘味屋、旋風堂であった。
今、その一室に楓、円、夕凪が一堂に会している。
「あ、あのね!!やっぱりね!!若い男女がね!!一緒に一つ屋根の下ってのは問題だと思うの!!」
その中で楓は必死に訴える。
「いや……俺もそれには同意見だ……いくら友達とは言っても、さすがに問題があるだろ……」
それに応じる様に頷く円……
そして……
そんな円の反応に夕凪は……
「えぇ……でも……だって……」
途端に夕凪は顔色を悪くし……狼狽える……
「ど……どうした……夕凪……」
その夕凪のただならぬ雰囲気に声を掛ける円……
「う……うん……」
夕凪はそれにどこか申し訳なさそうに答える……
「わ……私……断られた時の事とか考えてなくて……」
夕凪は本当に困った様な表情を浮かべて続ける……
「本当にマンション引き払っちゃって……親は海外だから……私だけじゃ新しいとこ契約出来ないし……」
本当に何も考えてなかったようで、その表情は少し泣きそうである……
「ゆ……夕凪……」
「ゆなちゃん……」
何やら可哀想に見えて来た二人。
思い込んだら突っ走るゆなちゃんのことだ……きっと本当に何も考えて無かったんだわ……
ゆなちゃんてたまに私より馬鹿だから……
若干失礼な事を考えるも、恐らく夕凪の言っている事が真実であると確信する楓。
「ね、ねえ円、お願い!私を円の家に住まわせて!!邪魔しないから!!」
すがる様な目で円を見つめる夕凪……
それは女子としての策略……
などでは無く切実な視線だ……
「私、今夜行くとこもないの……それに……」
夕凪は目尻に少し涙を溜めて、切実に訴える……
「私は円の側にいたいの……」
夕凪はただ正直に打ち明けるのであった……
「うっ……」
その真っすぐで情けない瞳に、たじろぐ円……
顔をしかめ考える……
「……………はぁ、わかった」
やがて……諦めた様に小さく答える円。
「えっ!!」
その声を聞き逃さず、途端に明るい声を出す夕凪。
「いいよ……しゃあないだろ……友達を外にほっぽり出す訳にも行かないしな」
少しだけ照れくさそうに答える円……
彼は仲間や友達と認めた者には基本甘いようである……
「ほ……ほんと!!」
今度は歓喜の涙を目尻にためる夕凪。
「ああ……ほんと、ほんと」
それに少しだけ無愛想に答える円。
「うう……」
身をかがめる夕凪……
「……?」
その様子を伺う円……
「ありがとうぅーー!!円ぁ!!」
そこから思い切り円に飛びつき歓喜する夕凪。
その表情は喜びで満ちあふれている。
「うおお!!や、やめっ!!」
それに狼狽える円。
喜びはしゃぐ夕凪に……
やれやれとそれを優し気に見つめる円……
こうして二人の共同生活は確定したのだった……
そしてその様子を……
プルプルとしながら見つめる美少女が一人……
いたのだった……
そのオレンジ色の髪をした美少女は、もう我慢出来ないとばかりに立ち上がり……
もう許せないとばかりに二人を睨みつけこう言い放ったのだった……
「わたしもいっしょにすむぅーーーーー!!!!!」
彼女のその泣き声は店中に大きく響き渡ったのだった……
次回 私説得してきます!!
20話 頑張れ楓さん!!
次回!!夕凪編ラスト!!予定!!未定!!




