12話 ゾクゾクする
クリスマスですね!!
僕は今日は仕事も休みなんで家で小説書いてましたけどなにか?
「う……そ……」
信じられないとばかりに目を見開き円を凝視する夕凪。
それもそのはずである……
なぜなら、西條寺夕凪にとって伊浦円と言う存在は今目の前にいる破天荒な存在ではないのだから……
夕凪にとってのそれは、親友を騙そうとする様な姑息な男で、なおかつ面と向って話そうとすれば逃げ出したり、やっと呼び出せたかと思えばオドオドとして目も合わせない様な軟弱な男である。
間違っても、今目の前にいる様な鋭い銀色の眼光を放つ威風堂々たる男ではない。
しかし、その背格好、容姿、声は全て間違いなくあの伊浦円である。
その事実に夕凪は激しく混乱する。
な……なに!?
なんで!?
なんで伊浦円が!?
どうして?なんで!?
一つもわからない??
で……でも……
もしかして助けに……来てくれたの……かな?
夕凪は表情を硬直させたまま、ただ混乱をするのであった。
————
よーし、とりあえず間に合ったな……
ふう……よかった……
さて、とりあえず悪役面は葬ったが……
「ぼ、ぼっちゃま!!?」
「き……キサマぁ!!」
「何者だぁ!!」
ひい、ふう、みい……
他に気配は無いみたいだから、さっきも見たこの三人で全部みたいだな……
うーん……
正々堂々、正面からの戦いってのはあんまり得意じゃないんだけどなぁ……
まあとりあえず右と中央のやつを先に倒そう
左の奴は……多分あれだな……
はぁ、しんどそうだなぁ……
まぁ……さっさと終わらして帰ろう……
————
夕凪の無事を確認し軽く安堵の笑みを浮かべる円。
夕凪を一瞥した円は次に怒濤の勢いで迫りくる黒服達に目をやる。
迫りくる黒服達を睨む様にして堂々と立つ円。
その、研ぎすまされた刃の様な鋭い存在感を放つ円に夕凪は思わず目を奪われる。
こ……これは……本当に……伊浦円なの……
円を見つめる夕凪。
その夕凪の目の前で円は突如その姿を消す。
「消えっ……!?」
ドコォォォォォッッ!!!
「ええっ!?」
円が消えた瞬間に、吹き抜ける風、そして右斜め後方から突如響く打撃音。
音の方向へと、振り返り驚く夕凪。
そこには掌底で黒服の一人を打ち倒した円の姿があった。
円は先程、黒服達を見つめ計っていた。
一番先頭を走る背の高い黒服と、その3歩後ろを追いかけるガタイの良い黒服、そして飛び蹴りで吹っ飛ばされた伊集院の元へと駆け寄る中肉中背の黒服。
その三人の黒服の中で先頭を走る背の高い黒服との距離を計っていた。
5歩の圏内。
およそ4メートル半。
それは円がブレイカーの能力を最大限に発揮して出せる、最高移動速度を維持できる限界距離。
円はその距離を冷静に測っていた。
そして……
黒服がその圏内に入った瞬間。
円はリラックスした状態から一気に限界まで体に力を込める。
いや、限界を破壊した遥か向こうまでその力を爆発させる。
そして爆発させた力をそのまま余す事無く地面へと伝える。
凄まじい踏み込みの音、そこから間を置かず響く打撃音、巻き起こる風。
そして、瞬間で夕凪の後方へと移動していた円。
そのスピードに反応する間もなく、その凶悪なまでの勢いをそのまま乗せた掌底を叩き付けられた黒服。
文字通の瞬殺。
これが伊浦円の、リミットブレイカーの本気のスピードである。
先程まで円が居た筈の場所に突如現れた地面のひび割れ。
それをあっけにとられた様な表情で見つめる夕凪。
そのひび割れは……何故か靴底の形に陥没していた。
移…動……したんだ……
あの……瞬間で……私にも少ししか捉えられない様なスピードで……
夕凪はその事実に驚愕する。
灰色の髪、髪と同系統の色の瞳、そしてレベル7+の自分ですら捉えきれない高速の移動……
伊浦円は……ブレイカーだ……
それも……私より……高位の!!
夕凪の円を見る目が少しずつ変わっていく。
知らぬ間に……西條寺夕凪は、伊浦円を目で追っていたのだった。
————
長身の黒服を撃破した円。
その異常な身のこなしに、ガタイのいい黒服がその動きを止める。
遠くにいる中肉中背の黒服もその表情を変える。
対して円はそのまま動きを止める事無く、素早く迅速に、撃破した長身の黒服の懐に手を入れる。
あらかじめ場所に目星を付けていたのだろう……
円は黒服の懐から素早く拳銃を取り出す。
そして、引き抜くと同時に弾倉の確認、安全装置の解除、そこから流れる様に銃口をガタイのいい黒服にへと向ける。
次の瞬間、円の目の鋭さが増す。
呼吸を薄く吐きながら、引き金を絞る。
パァンッパァァァンッッ!!
そのまま間髪入れず、動きを止めていたガタイの良い黒服の両足を打ち抜く。
「ぐわぁぁぁぁぁぁ!!!」
両膝を打ち抜かれ、叫び声を上げて地面に向って崩れる黒服……
その黒服が地面に倒れきる直前……
スパァァッン!!
円は地面へと向う黒服の顔面を蹴り飛ばす。
「がっ!!??」
ズシャァ!!
両足から血を流し地面へと転がる黒服。
そしてそのまま最後の黒服へと銃口を向け一呼吸おく円。
その銀色の眼光が、薄暗い倉庫の中で鋭く輝いた。
円が一人目の黒服を掌底で瞬殺した直後、1.5秒間の一連であった。
————
「う……あぁ」
円の方を見つめて口を半開きにして惚ける夕凪。
す……ごい……
本当に凄い……
こんな動き……私にはきっと一生できない……
夕凪は只々、驚愕していた。
運動系のブレイカーである彼女には、その円の一連の動きがいかに洗練された物であるか……全てではないが理解できたのだ……
ブレイカーの能力は、誤解されやすいのだが、単にいきなり凄まじい能力に目覚める訳ではない。
勿論、レベル7−、ブレイカーの認定区域に入るかどうかは才能に強く依存するところが大きい。
が、しかし……
そこからのランクアップには凄まじい努力が必要である事は実は余り知られていない。
全てのブレイカーはレベル7−から始まる。
それは完全に例外が無く、過去それ以上のランクからスタートしたブレイカーは確認されていない。
そして、そのレベル7−からのランクアップは当然才能が必要であるが、それ以上に努力に依存するところが大きいのだ。
もとより全てのブレイカーが既に天才であるのだ。
そこからの上達は全て、鍛錬と経験の成果なのである。
実際にブレイカーになってからも熱心にサッカーの練習を続けてきた夕凪は7+であり、そこそこに楽しく絵を描いている美里は7、そして特に何もしていない楓は7−のままだ。
つまり、ブレイカーのレベルはその経験値や鍛錬に大きく左右されるのである。
そして……
その上での円の極めて洗練された動きである……
熱心に練習を、毎日、繰り返して来た夕凪……
その夕凪が捉えきれない動きをする円……
それはレベルの明確な違いであり……
それはすなわち……
努力と経験の明確な違いなのであった。
私と……同い年なのに……
凄い……
本当に凄い……
それに……
あの……目が……見た事無い程鋭くて……
今、夕凪の彼を見る目の色が……
完全に変わった……
その濃紺の二つの瞳が……涙で潤んだその瞳が……
すがる様に円を見つめる……
あの……怖いくらいの視線に…
ゾ……ゾクゾクする……
夕凪は、自分で自分を抱きしめぶるりと一つ体を震わせた。
次回 最後の黒服……その正体は!?
13話 伊集院の末路
お楽しみに!!




