表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/42

11話 やめて!!

「はぁ〜……しゃあない……いくか」


そう、一つため息をついた円は真剣な表情に切り替わる。

そしてその直後、すぐ近くにあった民家の塀を踏み台に、その民家の屋根へと駆け上がる。


高い場所に登り、周囲を見渡す円。


「……あの車だな」


一言呟いた円は、そのまま車を補足しながら屋根から屋根へと駆け抜け追尾する。

車の出すウインカーや街の状況を見ながらおよその車の進路方向を推察し、その目的方向への最短距離をひた走る。


「確かこの方向で人を拉致して監禁できる様な場所は……東街の倉庫か?」


円はこの街における、隠れる場所や戦える場所、人を殺せる場所や取引に使えそうな場所など……犯罪の起きそうな場所は全て頭に入れていた。

それは円が目的を持って記憶した物ではなく、彼の今までの生活から培われた一種の習慣の様な物であった。


そして彼が今、極めて迅速にこの車の追跡に入ったのも、彼の今までの生活により培われた物である。


もし……

一般人が先程の光景を目にしていたら、どうしただろうか……

気を失った美少女、それを囲む黒服と悪役面の少年。

それを見た一般人も「もしかして拉致されているのかも……」とは考えるかもしれない。

だがそこから具体的に何かしようとまでは思わない。

「自分がいった所で何も出来ない……警察に連絡くらいは出来るかもしれないけど、こんな話きっと信じてもらえない……それにもしこれが本当に拉致だったら警察に色々聞かれて大変な事になるかも……」などと色々考えたのち、きっと大丈夫であろうと信じてその場を後にする者がほとんどであろう。


しかし、彼は違う。

それは単に助けるだけの力があるからではない。


そういった一瞬の躊躇や自己完結による諦めが……

消極的なその行動が……

事態を取り返しのつかない状態へすぐさま導く事を……

彼は良く知っているからだった……


故に……

伊浦円は目の前の危機に躊躇をしない。


走る……

屋根から屋根へと……

凄まじいスピードで、円は車を追跡するのであった。


————


街の東にある倉庫街。

その一角である伊集院家の専用の倉庫。


そこに三人の黒服と一人の少年、そして黒服に抱えられた少女……西條時夕凪の姿があった。


ドサッ!!

「うぅッ……!?」


倉庫の中のコンクリートの固い床……

その床へ投げ捨てる様に落とされる夕凪。

落下の衝撃と共に意識が戻る。

うっすらと目を開ける濃紺の瞳。

まだ意識が朦朧としているのか目の焦点が定まっていない。


ここは……どこ?

たしか……

さっきまで……

校舎裏で……それで……

伊集院が……


「おはよう夕凪君……」

その一声で……


……ッ!!

「……伊集院!?」

夕凪の意識は完全に覚醒する。

今なお後頭部にはしる痛みと、全身の痺れ……そして強烈な危機感と共に……


「どうしたんだい?夕凪くん?地面に這いつくばって、随分と惨めな格好じゃないかい!!」

伊集院は歪な笑みを浮かべて夕凪を見下す。


夕凪はそれを仰向けのまま見上げる。

意識はハッキリしている、そして強い危機感を感じる、だが……何故こんな状況なのか解らない。

夕凪は混乱しながらも、とりあえず上体を起こそうとするが……


ドシャッ!


その途中で上体を起こす事に失敗をする。

その事実に夕凪はあっけにとられた様な表情を浮かべていた。


な……に……?

どうしたんだ……?

体が……うまく動かない!?


力を入れようとするも入らない。

体中がしびれているようで立つことはおろか、起き上がることすらままならない。


「く……くふっ……くはは!!ふははははは!!」

起き上がる事すらままならない夕凪をみて、伊集院がたまらず笑い出す。

「無様だぁ!!実に無様だねぇ!!夕凪君!!」

その顔は歪な笑顔を造り出す。

その笑顔に若干怯える夕凪。

しかし怯える素振りを見せまいと気丈に夕凪は問いかける。

「わ、私に……何をしたッ!!」

表情をこわばらせて、気力をしぼり声を出す夕凪。

「くふひっ!良い質問だよ夕凪くん!!君はね!!スタンガンを食らって倒れたんだよ!!」

実に、実に楽しそうに答える伊集院。

「君の様な運動系のブレイカーでも十分に効果がある様に調整した特製スタンガンさ!!君の為に作ったんだよ!?これで君はあと5時間はまともに動けないはずさぁ!!」

饒舌に、そして心から楽しそうに語る伊集院。

この異常な状況と伊集院のテンションの高さに言葉を失う夕凪。

「ふひひ!!いつものあの気丈な振る舞いはどうしたんだい!?見る影もないじゃないか!!くひゃはははっはははは!!!」

その異常な笑い声に夕凪はふと怯えた表情を見せる。

「ああ……いいね、いいねぇその顔!!君の怯えた顔は今まで僕が犯した女子の中でも一番だよぉ!!」

その伊集院の発言に、夕凪は一気に表情を引きつらせる。

そして、そんな夕凪と対する様に実に生き生きとした表情を見せる伊集院。

「あははははは!!今どんな気持ちなんだい!?夕凪君!!君は今から僕に陵辱されるんだよ!?今まで!僕が!ここで!犯した!五人の様に!!」

伊集院の口角が最高潮にあがり、醜悪な表情を浮かべる。

「絶望的に、屈辱的に、徹底的に、お前はここで犯されるんだよぉ!!ふひゃはっはははははっ!!!!!!」

完全に言葉を失う夕凪……


倉庫には、甲高い伊集院の笑い声だけが響いていた……


————


くっそおおおおおおおおおお!!!


見失ったわあああああぁぁぁぁぁ!!!!!!!


車とか早いわあぁぁぁぁぁ!!!


少しは信号で止まれよおおおおおお!!!


なんでこんな時に限って全信号青なんだよおお!!!!


ああやだもう!!


なんで俺ってこういう時ついてないの!?


畜生ぉっ!!





とっ、とりあえず!!


ここからはあれだ!!


今までの経験と、進路方向からの推察と、戦争で培った直感と……


心意気の勝負だ!!


————


ある平日の午後。

とある街の東の倉庫街にある、伊集院家の専用倉庫の中……


伊集院隼人は西條寺夕凪との距離をつめる。

「ひゃはは!!さあ!!始めようか!?夕凪くんっ!!僕が君を躾けてあげるよぉ!!」

迫りくる伊集院に夕凪は逃げようとする、しかし、体の自由は利かない……

夕凪は這う様に、少しずつ移動をする。

「ふははっははは!!本当に君は可愛いねぇ!!そんなふうに虫みたいに逃げて!!こうやってすぐ追いつけるのにねぇ!!」

そんな夕凪にツカツカと追いつき彼女の肩に後ろから手を掛ける。

「夕凪君!!君の奇麗な顔を見せてよぉ!!隠さないでくれよ!!さぁ!!君は今どんな素敵な表情を浮かべているんだい!?」


西條寺夕凪。

プライドが高く、短気で、勝ち気、そして正義感が強く、思い込んだら突っ走る。

そんな彼女が……

サッカー部では誰よりも輝き、誰よりも強い彼女が……

こういった危機的状況では、はたしてどんな表情を見せるのか?


不適に笑う?強気を繕う?怒りを露にする?憎しみを浮かべる?


彼女が浮かべた表情は、そのどれでもなかった……

彼女は、西條寺夕凪は今……


「ふぅひゃはははは!!やっぱり君は最高だよ夕凪くぅん!!」


西条寺夕凪は今、大粒の涙を流し……怯えていた……


————


怖い、怖いよ……

やだ、嫌だよ……

なんで、こんな目に遭うの?

私は……楓を守ろうとしてただけなのに……

いやだ……いやだよ……


誰か……お願い……

助けてよぉ……


夕凪は伊集院に肩を掴まれ身動きが取れずにいる。

全身を恐怖で振るわせ、怯えた目をし、大粒の涙を流しながら伊集院を見上げる……

そんな夕凪に伊集院は最高に興奮をしていた。


「はぁっはぁあああ!!本当に最高だよ夕凪君!!このギャップがいいねぇ!!たまらないよぉ!!さあ!!さあ!!ふひひ!!今から沢山酷いことしてあげるよぉ!!!!」

夕凪は力の入らない、そして恐怖で震える体を精一杯うごかし逃げようとする。

しかし、それは伊集院に肩を掴まれているだけで……実にあっけなく無力化されている。

夕凪の何時もの威勢の良い姿は見る影もなく、ただただ無力であった……



西條寺夕凪は……実は脆い。

彼女の様に普段は強気で勝ち気な人間は、実はこういった突然の危機に脆い事がある。

自分をプライドや威厳で強く固めている者ほど、実は簡単に砕ける事があるのだ。

ガラスやダイヤモンドの様に硬度の高い物が実は簡単に砕けてしまうように……


ましてや彼女は今、親友という自身の中の大きな存在との関係性が揺らいでいる。


夕凪の中で楓の存在は大きい。

そして、だからこそ彼女を騙そうとする円が許せなかったのだ……


そんな楓に敵意を向けられる……

それは夕凪にとってある意味絶望的な状況……


そして、それと同時にもたらされた犯される直前という異常な状況。


伊集院の心底楽しそうな言動、冷静にこちらの様子を伺っている黒服、それらがこれから行われるであろう惨劇が……

何度も行われて来た当たり前の事であると夕凪に伝えている。


夕凪の心は今、恐怖と不安で一杯であった。


————


伊集院は夕凪の胸元に手をかけそれを思い切り引きちぎる。


ビリィッ!!

胸元がはだける夕凪……

その濃紺の瞳は涙であふれ、悲しみと絶望に顔を歪める。


「もう……おねがい……やめてぇ……」

かすれる様な声で、涙で溢れた瞳で、夕凪は懇願をする。


しかし……

「はぁぁ!?やめる!?ある訳ないだろぉ!!夕凪くん!!」

伊集院は嬉々として夕凪を床に組み伏せる。

そして……

その右手が夕凪の乳房へと伸びてゆく……

夕凪はその右手に絶望を覚えた……




その時……





バリィィィィィィンッ!!!


ズダアァァァァァァァァァァンンッッ!!


突如何者かが倉庫上部にある換気用の窓を突き破って飛び降り、地面へと着地する。

10メートルはあろう所から突然飛び降りた一人の男……


突き破った際に粉々に砕けたガラスが乱反射してキラキラと輝く……

その、非常識でありながらも美しい光景にその場に居る人間の全てが一瞬目を奪われる。


そして……

その男は着地から間を置かず、まるで弾丸の様に夕凪の元へと走り出す。


「倉庫12棟も巡っちまったじゃねえかぁぁぁぁぁぁぁぁあぁ!!!!!」


そして凄まじいスピードで走り出したそれは……

そのまま勢いを殺さず、飛び蹴りで、伊集院の頭部へと……

「ふざけんなぁぁぁぁぁぁ!!!」

ドゴォォオオッ!!!


飛び蹴りをくらわせたのであった。


————


涙で溢れる夕凪の瞳に……

今、一人の人物が映し出される……


「あ、やべっ!!今のでコンタクト外れた!!」


その人物は……


「う……そ……」


灰色の頭髪に銀色の眼光を放つ、伊浦円という少年であった。




次回 助けに現れた円に……夕凪が……


12話 助けて……

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ