8話 お前を私は許さない!!!
西條寺夕凪は憤慨の色を激しく浮かべて通学路を行く。
その隣りには彼女とはあまりに対照的な吉名楓の姿がある。
楓は女性らしく、あでやかで美しい表情を浮かべ、軽やかな足取りで進んで行く。
女性は恋をすると、美しくなる。
それはまぎれも無い事実であると主張するかの様な楓。
ただでさ美しかった楓の更なる進化に周りは目が眩む。
楓は今、過去最高に美しいかった。
しかし、それは楓の円への恋心がさせているもの。
それが楓の親友である夕凪には良く解っていた。
しかし、それが夕凪には極めて腹ただしかった。
楓は、あの男に騙されている・・・
本当は良い奴?
自分に対する追求を防ぐため?
その為に100万?
そんなのあり得ない・・・
どこの国に自分の秘密を黙らせるだけに100万出す奴がいると言うのだ!!
それだったら、体目当てで100万の方がよっぽど理由として適当だ・・・
ましてやその相手が楓だというのなら尚更だ・・・
恐らく・・・本当にその理由なのだろう・・・
そして一度目が巧くいかなかったから方向性を変え、楓の情に訴えて丸め込もうとしているのだ!!
つまり・・・
あの円とか言うやつは、楓の優しさにつけ込んでいい奴ぶり、そこにつけ込もうとするる最低野郎だ!!
許さない・・・私の親友に危害を加える様な奴は私が許さない!!
楓が夕凪に説明した、円がブレイカーである事をかい摘んだ説明。
それが多くの矛盾を生み夕凪にあらぬ誤解を与えているのだった。
夕凪は一人、円を廃し楓を守る決意を固めるのだった。
————
夕凪は授業間の休憩時間、円のいる教室へと向う。
その手には一通の封筒が握りしめられている。
これをあの男に叩きつけてやる!!
夕凪は楓の今までの話から、円が休み時間に全く捕まらない事を熟知していた。
故に夕凪は別の手段に出る事にする。
それは書き置きである・・・
楓に知られない様に、楓や他の生徒が聞き及ばない所へと円を呼び出し、そこでもう二度と楓に近寄るなと直々に話を付けるという考えだ。
夕凪は険しい顔つきのまま、円の教室へと侵入する。
その瞬間、教室中の視線が夕凪へと集まる。
ざわつく教室、その中を見回す夕凪。
案の定この教室に円の姿は見えない。
「おい、そこの君」
夕凪は怪訝な表情のまま、近くにいた男子生徒に声をかける。
「は、はい!!」
呼ばれて直ぐに近づく男子生徒。
「伊浦円の席はどこだ!?」
語気を強くし、男子生徒に問いかける夕凪。
「こ、この席です西條寺さん」
男子生徒が指し示す座席にツカツカと歩み寄る夕凪。
そして夕凪は・・・
ダァンッッッ!!!
呼び出し状を思い切り叩きつけ教室を後にしたのだった。
————
ふぅ〜
平和っていいなぁ・・・
楓さんと和解したからこれからは休み時間の度に逃げ出したりしなくていいしなぁ・・・
さて、次の授業の準備でも・・・ってええぇ!!!
ブレイカーの気配が近づいてる!?
この気配は・・・
確か・・・楓さんの近くにいた目つき鋭い人の気配だ・・・
なんか嫌な予感がするな・・・
目的は俺じゃないかも知れないけど・・・
まあ・・・
一応逃げとくか・・・
ーーーー
・・・ふむ。
なんかすぐ出てったみたいだな。
何だったんだろうか?
まあ、行ったみたいだし・・・
教室もどろ・・・
・・・ん?
皆が俺のこと見てるぞ?
なんだ?
俺・・・なんかした!?
「お、おい・・・」
「な・・・なに?」
「さっき西條寺さんが・・・なんか手紙を置いてったぞ!?」
手紙!?
なんじゃそら!?
・・・これか。
なになに?
放課後、屋上に一人で来い・・・か
「お、おい!!なんて書いてあったんだよ!?」
・・・ふむ。
他の奴らはなんて書いてあったか見てないってことか・・・なら
「・・・くっ、どうやら俺は西條寺さんを怒らせてしまったようだ」
「なっ!!ブレイカーを怒らせたのか!?」
「ああ・・・後で謝ってくるよ・・・」
「そ・・・そうか・・・頑張れよ」
周りにはそう言う事で納得させて置いて・・・
呼び出しは・・・
すっぽかそう。
ーーーー
教室に帰る夕凪の前に一人の男が立ちふさがる。
その男の名は伊集院隼人、伊集院財閥の御曹司であり普通の人間、そして夕凪をものにしようとしている男である。
「やあ、夕凪君、今日も美しいね」
キザな台詞をなんの臆面もなく言う伊集院。
しかし夕凪はそれを無表情で一瞥する。
彼女はこの男が嫌いであった。
「お世辞は結構です伊集院先輩」
ただ、彼が同じサッカー部の先輩であることと、彼の生家である伊集院財閥がサッカー部にボールやユニホーム等の各種アイテムの支給や大型練習場の貸し出しまで多大なサポートを行っているため強くは出れないでいた。
「いや、お世辞なんかじゃないよ夕凪君、所で今度どうだい?部活の後に食事でも?」
伊集院は夕凪に微笑みかける。
「結構です、では先輩、用事があるので失礼致します」
夕凪はそれを計りにもかけず断ると、その横を通り抜け立ち去る。
そして、後には伊集院が決め顔のまま残されたのだった。
「・・・・・くそっ、あの女、ちょっと奇麗だからって調子に乗りやがって」
伊集院は先程の笑顔とはうってかわり苦々し気に夕凪の後ろ姿を見つめる。
その視線には仄かに黒いものが混じっていた・・・
————
放課後、屋上に仁王立ちで待ち構える夕凪。
その眼光は鋭く、屋上の入り口へと向けられている。
さあ、早く来い伊浦円!!
二度と私の親友に近寄らない様に、徹底的に叩きのめしてやる・・・
さあ!!こい!!
夕凪は、今か今かと円を待ち構えるのであった。
————
「い・・・伊浦君はなに頼みますか?」
楓は満面の笑みで、だけど緊張してぎこちなく円に問いかける。
「ああ、この抹茶きな粉ぜんざいパフェで・・・」
緊張する楓に対し、気楽に答えるまどか・・・
二人は今、甘味屋の個室にいる。
昨日の夜、楓が円に対し助けて貰ったお礼がしたいとメールをし、円はそれを一度は断ったものの、負けじと食い下がった楓とのその後のやり取りで、楓が甘味を奢るという形で落ち着いた。
この甘味屋、旋風堂は全室個室の落ち着いた雰囲気の甘味屋である。
まあ、個室と言っても、テーブル一つ分に毛が生えた程度の慎ましい広さではあるが・・・
しかし、個室と言う環境は彼女らにとってはとても都合がいい。
この店に時間差で集合すれば周りに見られず悟られず、つまりは円に迷惑をかける事無くお礼ができるのではないかという、楓の提案であった。
メールではいささか積極的になれる楓である。
しかし、今、この密室で二人っきりという状況において楓は、持ち前のヘタレっぷりをいかんなく発揮し、完全にテンパっているのであった。
ぬぁ〜!!も、もうなに話していいのかわかんないよぉ〜!!
楓は鼓動を高鳴らせ、そしてこのシチュエーションに顔を火照らせ、熱い瞳で円を見つめるばかりだ。
うぁぁ、円くんって髪サラサラなんだなぁ、睫毛も長くて奇麗・・・
あ、抹茶パフェ美味しそうに食べてくれてる・・・よかったぁ、嬉しいなぁ!!
ふふ、円くんって口が小さいんだなぁ、少しずつチョビチョビ食べてて・・・かわぃぃなあ・・・
っは!!
く、くくく唇がぁ!!??
「なあ」
「ふひゃいぃっっ!!!!!」
円が何気なく楓に声を掛け、それに楓が異常な反応を見せる。
「ど、どうした!?」
「な、なな何でも!!何でも無いです!!」
楓は全力で誠心誠意否定をする、自分はやましい事など何もしていません、ましてや唇を凝視してキスなどに想像を発展させたりしていませんと言わんばかりに。
「そ、そうか?」
「そ、そうですっ!!と、所でどうかしましたか?!」
話をごまかそうと別の話題を振る楓。
「いや、どうって訳じゃあ無いんだけどさ・・・」
円は少しはにかみながら答える。
「俺さ、こういう学校の帰りに友達と遊ぶとか・・・した事なくてさ・・・」
円はゆっくりと楓の方を向く。
そして・・・
「なんかさ、楽しいなって思ってさ・・・」
円はそっと静かに、目を細めて微笑んだ。
その表情に・・・
楓は、息がつまり、体全身をが火照り行く様な感覚を覚える。
ふぁぁ!!そ、そんなぁ!!
そんな顔で私を見ないでくださいいぃぃぃ!!
楓は顔面を真っ赤にして幸せに身悶えるのであった。
ーーーー
い・・・一時間も待っているのこない。
夕凪は、一人屋上で立ち尽くす。
まさかすっぽかされるなどとは露程も思ってなかった夕凪。
すっぽかされたという事に気付いたその直後はあまりのショックに何も考えられなかった。
呆然とする夕凪・・・
しかし・・・
呆然とした後に夕凪の中に生まれたのは・・・
かつて無い程の・・・
猛々しい・・・
「あ・・・あいつ!!」
怒りそのものだった
「許さない・・・」
伊浦円・・・
お前を私は許さない!!!
次回 夕凪と円、ついに衝突!?
第9話 なぜこうなるのだ!!
最近ちょっと壊れ気味のテンパり系ヒロイン楓をどうか宜しく!!




