―地獄の事故―
さて、今回は過去の地獄の事故の話です。紀於瑠が、ずっと気にしている過去でもあります。話の筋からは少し離れますがご了承下さい。
あの頃の俺、 なんて…。
滅茶苦茶だったんだろう?
「こらっ!またやったな〜妃於瑠!!」
「えへへ、だって…。」
「退屈なのは分かる、けど…駄目だろ?母さんのペンダント、勝手に持ちだしたりしたら…」
「だってさ、一年ぶりの!一年ぶりの外へのお出かけなんだよ?母さんに今から聞きに行くから、ね?」
「分かったよ…。電車旅、一泊二日、気を付けて。」
「うん!ねぇ、母さん〜」
大丈夫かな、代信乃もいるから。
……なんて。油断してた。油断しなければ、妃於瑠の左耳は聴こえなくなるはずなかったのに。母さんが、ついていた。代信乃が、ついていた。だから、俺は、油断してた。
台風が接近しているところだと、知っていた、知っていた癖に!
俺が止めなかったせいで、母さんと代信乃は妃於瑠と遥斗を庇って死に、遥斗は体に火傷を負い、妃於瑠は左耳の音を殆ど失った。
「ごめんな、妃於瑠。」 眠っている妃於瑠に声を、かけてみた。あの、十年前の出来事を妃於瑠は覚えているのかな…。
あの事故の時、現場に駆けつけた俺が見たのは地獄、死にそうになって担架で、運ばれてく母さんと代信乃たちと火傷を負った遥斗とわけがわからず泣きじゃくる妃於瑠。声をかけても、妃於瑠はまるで聴こえてはいない。
ごめんな、ごめんな。
兄ちゃん何もしてやれないんだよ…。
ごめん、ごめんなさい。
母さん、代信乃、遥斗、 そして妃於瑠。
本当にごめんなさい。
ごめん。ごめん。ごめん。
許せとは言わない。
だから。ただ生きて。
「ごめん……なさい。」
魘されている。紀於瑠が。十年前の悪夢に。
「そろそろ起こすかな、……紀於瑠!ほら、着いた」
瑞希に起こされた紀於瑠はゆっくりと起き上がり…。
「ありがとう、瑞希さん」そう言うと車を降りて、 空港の中へと姿を消した。