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ヒロイック・サラリーマン  作者: てつけん
第1章 ウェルカム!アナザーワールド
2/6

第2話 現実事実



 俺の頭はどうかしてしまった!


 俺の頭は狂ってしまった!!



 ――そう思う以外考えられなかった……。


 待望のプレゼンの準備で、たしかにここ1週間は忙しかった。ほんとに忙しかった!

 

 同僚の飲み会も断ってたし、独身男性お得意の自家発電もしなかったし、睡眠時間も削って作業に当てた。


 ……でも、死ぬほど忙しかったわけではない。


 …………。


 ――そうだ! 


 きっと、死ぬ手前の忙しさなら頭が狂ってしまうかもしれない!


 俺はそう思った。きっとそうだ! そうに違いないんだ!!



 ヒュュュュユユユユユ――――――。



「あ……あちぃぃぃ……」


 熱気のこもった風邪が俺の頬に熱を伝える、じわりと額に汗がにじむ。この暑さはどうやら本物のようだ……。


 ――!?


 俺はとっさに後ろを振り返った!


 ――が、そこには同じ砂漠の景色が広がっていた。後ろには男子トイレの扉の影も形もなかった。


 俺は愕然とした。失望もした。


 来た道を戻ることが出来なかった!


「あ! そうだ! ケイタイ!」


 俺はスーツのポケットからケイタイを取り出し、ディスプレイを見る。


 ――圏外。


 …………。


 終わった…………。


 不意に足の力が抜け、膝が地面につき、その場に座り込む俺……。


 頭は下がり、いろんなことが頭の中を駆け巡る――。


 ――プレゼンは!? 俺のプレゼンはどうなる!? ま、マズい!?……このままだと絶対間に合わない!! ヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイ!! ……というか、間に合わない以前に……ここどこよ? どこの砂漠? え、なんで俺こんなとこいるの?? 夢?? え? なんで?なんで? い…………意味がわからん!!


 どうしてこうなった!?


 俺は不本意ながらも、今の状況を理解するよう努めようとした。


 ………………。


 …………………………………………。


 ……………………………………………………………………………………………………。


「もうあれだ……やめやめ! 考えるのは一旦やめだ! 何もわかんねぇよ!」


 俺は身体を投げ出し、その場で大の字になる。


 考えても考えても、何一つ今の現状を理解するための材料が無い事に気づき、俺はこれ以上深く考えるのをやめた。


 とは言っても、1つだけわかることがあった。


 それは、この場が“よろしくない”ということ。


 大の字になって更に良くわかったが、日差しがかなり強い。


 加えて、周りは地平線が見えるほどの広大な砂漠。


 このままでは、確実に命が危ない。


 どんなことであれ、自分の命は大切だ。


 俺はまず生き延びることを考えることにした。




 強い日差しは容赦なく頭部に熱を注ぎ、日射病を誘ってくる。


 俺はスーツの上着を日傘替わりにしたが、周りの気温は高く、確実に俺の体力は削られていた。

  

 マズい! 俺は命の危険性を感じずにはいられなかった。


 ――と、とりあえず、この砂漠から出よう!


 俺は不安ながらも歩き出すことにした。今のところ、もうこの選択肢しかなしね……。


 そして、歩きながらも、気になり続けていることがある。


 やはりプレゼンのことが頭から離れない。


 こんな状況で! どこまで仕事の事にこだわっているのだろうと我ながら思うが、仕方がない…………。


 何度も努力し、それが報われるチャンスせっかく来たのに、それが奪われるのは辛いし、悲しい……。


 仮にもうダメだとしても、そう簡単に諦めきれるほど俺は人間ができてはいない。


 だがしかし、今の状況だと正直どうしようもないのも事実。帰る手段もなければ、連絡を取る手段もないのだから……。



 ――不慮の事故。


 

 そう。――事故なのだ!


 ここから無事に帰れたら、きっと部長もわかってくれるはずだ!


 ……無事に帰れたら。


 ……帰れたら?


 …………帰れるのか??


 そもそも、ここはどこだ??


 プレゼンが直前だったせいだろうか。俺の脳みそは働き者らしい。ついさっきやめたはずの思考が、再びループを開始した。


 



 ジャリジャリジャリジャリジャリジャリ…………。


「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……」


 ビュゥゥウウウウウウウ――――。



 リズムができた砂を踏む音。自分の荒くなる息遣い。砂と熱気を含んだムカつく風。俺の耳に届くのはこの3つの音。


 この3つが相変わらず続いている。


 歩き始めてしばらく経つが、いっこうに砂以外のものが見えてこない。


 俺は少し休憩しようと歩みを止めた。

 

 目の前には未だ地平線が見える。


 ――この砂漠は、一体どこまで続いているんだろう。もしかして……砂漠しかなかったり…………いやいやいやいや……いまはそれを考えるな。歩くことだけに集中しよう……。余計なことは今はいい……。


 ふと、そんな絶望とも思える考えが頭をよぎったが、俺は額の汗を拭き再び足を進めようとすると同時に新しい変化がやってきた――。


 ドドドド……。


 突如、地響きが鳴り、俺はそれがどこから鳴っているのか? 左右を確かめるように首をふる。


 ドドドドドドドド……。


 周囲に変化は全く見られないが、確実に地響きは大きくなり、俺の地面を少しずつ揺らしていく。


「お、お、お……じ……地面が揺れる!?」


 ドドドドドドドドドドドド!!


 揺れは更に大きくなる。俺は立っていられなくなり、地面に両手をつけた――。



 ドゴォオオオオオオオオ!!



「なななな……なんだぁ!!」


 俺の目の前に突如として砂山が形成され、砂山は空へ空へと鋭く伸び、俺は大きな影に覆われた。


 さらに、舞い上がった砂は勢いよく地面に落ち、そこから地震の震源が姿を現した。


 俺はこんなのは映画でしか見たことがないし、映画でしか知りえない。


 こんな時こそ冷静になろうと俺は目を閉じる。

 

 本当は“こんなのいたら面白そうだなぁ”といった子供心は割りと持ち合わせている方だが、やはり映画はフィクション。

 

 映画の内容は作り物だから安心できるし、楽しめる。 


 でも、今ここで起こっていることは映画ではないわけだから、事実として認めることが必要である。うん……必要…………必要だ! よし! 

 

 俺は覚悟を決め、両目を勢い良く見開いた――。




 ――巨大なワームが目の前に顕現した。。




「で、でかっっああああああああああああああ!?」


 俺は巨大な未知の生物の存在を目の前にし、ただただ眺めるだけだった。というより動けなかった。


 砂中から現れた巨大ワームは、俺の存在を予め知っていたかのように大きな口を俺に向けた。


 醜悪である。


 巨大ワームの口には無数の触手や鋭利な歯が(うごめ)いていた。


 ――食われる!?


 俺の背筋は一瞬に凍りついた。冷や汗が止まらない。


 その場から急いで逃げ出そうと手で砂を()き分け、もがきながらも何とか立ち上がり、力いっぱい地面を蹴った!


 方向なんか関係ない。俺は走った! 脱兎の如く全力で走った!


 しかし、相手は自分よりはるかに巨大なワームである。


 20m近くあるその巨体はいとも簡単に射程範囲内に俺をとらえた。


 地面を滑るように巨体には似つかわしくない速さで―――― 一気に攻めてくる!


「うぁあああああああああああああ!! だ、誰かぁあああああああああああ!!」


 俺はとっさに頭を抱え、身構えた――。


 

「待ちなさい!」



 刹那、声が聞こえた! 透き通るような女性の声だった!


 あまりにも助けが欲しくて、幻聴が聞こえたのかと思ったがどうやらそうではないみたいだ。その証拠に――。


 ――巨大ワームは俺の直前で停止していた。


「た…………助かったぁ~~~」


 俺の身体は安堵のため息をつくと同時に、恐怖で冷えきった身体に再び体温を取り戻すことをはじめる。


「いい子ね。この方は私がお探ししていた人なの。だからおどかしちゃダメ。 いい?」


 声は俺の上空から聞こえてくる。


 ゴォ~ウゴォ~ウゴォ~ウ……。


 巨大ワームが低い音で轟き、俺の目の前からすぐさま距離を取ると、地響きを立てながら再び砂の中へと戻っていった……。


 あっという間の出来事だった……。


 気づいたら終わっていた。そんな感じだ。しかし、命が危なかったことには変わりない。

 

 本当に助かったことに再び安心すると小さな好奇心が湧いた。


 俺を助けてくれたのは、一体誰なのか? そう思い空を見上げるが、眩しくて眼を細めた。逆光で顔がよく見えない。


 ――うっ、眩しくて見えん! だ……誰なんだ?


「あ、あの~すいません! どなたか知りませんが、あぶないところを助けて頂いてありがとうございました!」


 片腕で目の前に影を作り、俺は上空に向かってもう一方の手を振りながら感謝の意を述べた。


「礼には及びません。それよりも大丈夫ですか? どこかお怪我はありませんか?」


 バサッバサッ――と翼がはばたくような音が近づいてくる。

 

 俺は目を疑った。


 “はばたくよう”じゃない! 実際に翼をはばたかせている! 


 ――翼は黒一色。太陽の光でさらによく分かる。……それはそれは鮮やかな黒。まさに《漆黒》である。


 風を掴むように漆黒の翼をはばたかせ、ゆっくりと声の主は地上に舞い降りた。


 と、同時に俺の心は大きな高鳴りを覚える――。


 おお……お迎えキタァ――――――!! て、天使が来ちゃったよ! しかも黒い翼の天使!! 

 

 え? 天使の羽は白だって? いやいやいやいや、もうそんなの関係ねぇよ! もうこの際翼ぐらい生えてたっていいよ! だって――。


 ――そこには、眉目秀麗な美女が立っているのだから。


 スラリと長い白い脚、自然と目がいってしまうほどの豊かな胸、そして美しい容貌には気品さがあった。


 彼女は魅せるように広げた翼を小さくたたむ。腰まであろうストレートの髪を後ろにかきあげると、ブロンドの髪は陽に照らされ更に美しく映える。


 そして彼女の澄み切った蒼い双眸が、俺の眼を捉えた。


 ――俺の心は一瞬にして奪われる。


 刹那、彼女は俺の前で(ひざまず)き――。


「ようこそフェルミエ王国へ。お待ちしておりました。ご主人さま――」


 ――と、予想の斜め上の答えが、俺を現実に引き戻す。


 オゥ…………イマナッテイッタンダロウ?? ボク、ヨクワンナイ………………。


誤字脱字がありましたら、遠慮なく申してください。


また、ご意見・ご感想のほどよろしくお願いします。

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