片道時間遡行
ある昔日の事である。とある富豪の放蕩息子として好きな儘に振る舞っていた私の元に「自分は所謂未来人である」と名乗る不審な男が現れた。
その人物曰く、「私は何度も過去へと遡り、何度も過去の技術を飛躍的に推し進めてきた」と言う。
いくら放蕩息子と謗られる私でも、そんな世迷事を「そうですか」と飲み込める筈も無く、然しながら暇を持て余していた私はその人物に対し「そう言うのなら証明してみろ」と彼に言ってみれば、彼は未知の技術によって作られた道具を出したり、その年に起きる事件を幾つか言い当てて見せた。
私は彼の言う事をすっかり信じ、彼の手足となりその知識で富や名声を高めていったのだ。
その間、彼は自らの知識を電子情報として残し、この世界で時間遡行技術が生まれるまで眠ると言い残し大型の機械へと篭った。
そうして数十年後、彼の残した時間遡行機の再現に成功したのだ。しかし、そこで問題が起きた。何度実験を繰り返しても過去が変わる事は無く、過去へ向かった人物が帰ってくる事も無かったのだ。
そんな有様だったので今まで私を持て囃してきた人々が一転して、私の事を尽くせる限りの非難で責め立てるのも当然だった。
世界に名だたる研究者たちと肩を並べながら、幾ら図面を見返しても間違いは無く、理論を見返しても欠陥は見つけれず、困った私はついに眠れる未来人を起こし「どうなっているんだ」と責め立てた。すると彼は「またか」と呟き、続けて「私は間違いなくこの機械で時間を遡行してきた。それは君も信じているだろう」と訴えてきた。
私とて彼を疑う気は無い。この数十年、彼の知識を元に数々の新技術を世に出し、それらは全て欠陥など無かったからだ。だが現に彼の言う機械で過去へ行き帰って来た者は居ないのだから、何かしらの間違いがあるのも明白だ。
そうして彼に図面を見せて「間違いはあるか」と聞いても首を横に振るばかり。終いには「私が過去へと戻って見せる」と言い始める。
私が引き止めようと言葉を尽くしたが彼が止まる事は無く、とうとう他の人々と同じように消えてしまった。
それからまた数十年経ち。結局、私が病に臥せる今となっても彼や他の人々が帰ってくる事は無かった。私が被った汚名は晴らされる事無く、病室で一人死に行こうとしているのだ。
彼は本当に未来から来たのか、過去へと行ったとされる者達は何処へと消えたのか。病床に臥せる私がその顛末を知る事は無いのだろう。




