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第5話 すれ違いの帰路

道端に店を構えたコンビニの前を、二人で歩く。

下校時間になりたての時刻だが、広めの駐車場を持つそのローソンには、すでに多くの学生がたむろしていた。このローソンは近隣の高校生が集結するため、全国でもトップクラスの売り上げを誇るらしい。その証拠に、様々な制服の学生が入り乱れている。


当然、何人かの学生がこちらに気づき、ヒソヒソと視線を集め始めた。

当たり前だ。入学初日で男女が一緒に帰るだけでも目立つというのに、相手はバリバリのヤンキー女子・橘琥珀。そして隣を歩くのは、前髪と眼鏡で顔を隠した超地味なオタクの俺である。どう考えてもカツアゲの現場にしか見えない。


「……明日、変な噂とかにならないかな」

「あ……ご、ごめん、なさい」


重圧に耐えかねて思わずボヤいてしまうと、橘はビクッと肩を揺らし、消え入るような声で謝った。

(……それにしても、なんだこの隣の生き物は)

本当にヤンキーなのか? 普通なら「あ? うるせぇ」とキレられそうなものだが、彼女は申し訳なさそうに肩をすぼめている。やはり、何か裏がある大人しい女の子なんじゃ……。


「あいつら、あとで裏山に沈めておく、から……」

「…………」


俺の思考は停止した。

橘は、上目遣いでもじもじと頬を赤らめながら、極道のヒットマンのようなことを口走った。


(気のせいだった。コイツは間違いなく危険なヤンキーだ)

見た目と態度のバグに眩暈を覚えながら、俺はたまらず直球を投げることにした。


「あのさ、どうして俺と帰りたかったんだ?」


ふと投げかけた疑問に、彼女がハッとしてこちらを向く。

綺麗な琥珀色の瞳が、揺れた。彼女は何かを決意したように、ぎゅっと拳を握りしめ、口を開きかける。


「わ、私は、その……五十嵐、くん、が――」

「――あ、もしかしてわたるのことか!」


俺はポンと手を打った。

「え? いや、ちが……」と橘が固まるが、俺の脳内では完全にパズルが完成していた。

なるほど、こういった事案は中学の頃から非常に多かったのだ。目立ってイケメンの航に直接声をかける勇気がない女子が、地味で無害な俺をダシにして情報を引き出そうとするパターンだ。ましてや二人ともヤンキー同士。間違いない。


「悪いけど、橘。あいつ極度の女嫌いだから、アプローチするのは無理ゲーだと思うぞ」

「あっ……」


橘がピタリと立ち止まったため、俺も合わせて足を止めた。

よほどショックだったのか、彼女は口を半開きにしたまま、俺を見つめて固まってしまった。

(うわ、やばい。ストレートに言い過ぎたか?)


ヤンキーを泣かせてしまったら、明日は俺が裏山に沈められる。

いたたまれなくなった俺は、フォローしようと咄嗟に口を動かした。


「で、でもまぁさ! お前みたいにあからさまに派手な女子は今まであいつの周りにいなかったし! その、なんだ。橘さんは普通に可愛くて、華があるから、可能性がゼロってわけじゃないと思うぞ!」


必死に捻り出した、オタクなりの精一杯の軽口だった。

しかし次の瞬間。


「――――ッ!?」


橘の琥珀色の瞳が限界まで見開かれ、その白い顔が、首の根元から耳の先まで一瞬で『沸騰したのか』と思うほど真っ赤に染め上がった。


「た、橘……?」

「~~~~~~ッ!!」


彼女は両手で顔を覆うと、何か声にならない悲鳴のようなものを上げ、そのまま猛ダッシュで角の向こうへ走り去ってしまった。


残された俺は、夕暮れの空を見上げて深くため息を吐いた。

(あんなに泣きそうになって逃げ出すなんて……)


「またか……航の奴、本当に罪な男だな」


そう呟いた俺の高校生活は、初日から見事な勘違いに包まれていたのだった。







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