表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

5/16

4話「無罪か有罪か」

 朝の空気は、やけに澄んでいた。牢屋の扉が開き、俺たちは無言のまま外へ引きずり出された。石畳は夜露を含んで冷たく、裸足に近い足裏からじわりと感覚が伝わってくる。

 

 「歩け」

 

 衛兵の声は、必要最低限の感情しか含んでいなかった。

 

 連れて行かれた先は、野外の刑場だった。だだっ広い空間の中央に、低い台座が設えられている。処刑台というほど仰々しくはないが、用途を誤解する余地もない。

 

 台座の脇に、神父のような、いで立ちの男が立っていた。黒い法衣。背筋の伸びた姿勢。年齢は中年だろうか。目は鋭く、感情の起伏がほとんど感じられない。恐らく、村人が言っていたケーガンという神父だろう。

 

 その少し後ろに、白い装束の女性がいた。シスターだ。穏やかな顔立ちで、胸元には小さな槍の意匠。これがクラトス教とやらのシンボルなのだろう。彼女は、俺たちを見ると、ほんのわずかに眉を下げた。

 

 「罪状を読み上げる」

 

 ケーガンの声が、刑場に響く。

 

 「神の名を騙り、我が信徒を欺こうとした罪。これは、信仰と秩序を乱す重罪だ」

 アテナが一歩前に出ようとする。

 

 「ちょっと待って!! 無実よ!! 証拠もなしに――」

 

 「証拠ならある。村人全員の証言だ」

 

 アテナの顔色は一気に青ざめ、完全に押し黙ってしまった。俺は声を震わせながら許しを請う。

 

 「す、すみませんでした。ほんの出来心なんです。減刑とか、反省文とか、そういうのはないんでしょうか」

 

 自分でも驚くほど、必死な声だった。

 

 「俺が止めるべきでした。知らなかったとは言え、神の名を軽々しく使ったのは、間違いでした」

 

 横目で見ると、アテナが信じられないものを見るような顔をしている。

 

 「ちょっと、何勝手に――」

 「今は黙ってろ!」

 

 俺は歯を食いしばった。

 

 「処刑は――」

 

 ケーガンが言葉を続けようとした、その時。

 

 「ケーガン様」

 

 柔らかい声が割って入った。シスターだった。彼女は一歩前に出て、深く一礼する。

 

 「少し、お時間をいただけませんか」

 

 ケーガンはわずかに眉を動かした。

 

 「……述べよ。マリナ」

 

 マリナと呼ばれた女性は俺たちだけでなく、刑場全体を見渡した。

 

 

 「この二人が犯したのは、確かに罪です。ですが、これはクラトス神のいう聖なる戦いでしょうか」

 

 空気が張りつめる。

 

 「彼らは魔王軍でしょうか。異端教団でしょうか。それとも、刃を向けるべき敵でしょうか。いいえ違います。ただの愚かものです。無知と貧困が生んだ、過ちです。大方、神の名を騙り、日銭を得ようとしたのでしょう」

 

 完全に当たりだった。彼女は視線をケーガンに戻した。

 

 「ケーガン様。この二人を殺して、私たちは何と戦ったことになりますか?」

 

 広場の空気が冷える。ケーガンは、っくりと口を開いた。

 

 「……神が望む戦いにはならぬな」

 

 マリナはうなずいた。

 

「クラトス神は槍を振るう神です。ですが意味のない流血を喜ぶ神ではありません。お願いします。どうか彼らに更生の機会を」

 

 その言葉に周囲の村人がざわめく。ケーガンはしばらく考え込むように目を閉じた。  

 「……わかった。提案を受け入れよう」

 

 俺とアテナの顔がぱっと明るくなる。

 

 「やった……やった! 救われた!!」

 

 「マリナ様!! 愛してるわ!! 私と結婚しましょう!!」

 

 「静かに」

 

 だが、ケーガンが付け加えた一言で俺たちの笑顔は一瞬で凍り付いた。

 

 「ただし、神明裁判で決める。無罪か有罪かは……神の御心次第だ」

 

 神明裁判。その響きからは嫌な予感しかしなかった。衛兵たちが動き出す。マリナが俺の方を見た。その目は優しかった。だが同時に覚悟を問う目でもあった。

 

 「……生きてください」

 それだけをぽつりと彼女は言った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ