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3話「裁判」

 農村から連行された俺とアテナは、見事にエルフェンウッドへと凱旋を果たした。英雄ではなく、罪人としてだが。石造りの牢屋の中は、冷たく湿っていた。かび臭い空気が鼻を刺し、どれだけ深呼吸しても胸が重い。

 

 鉄格子の向こうからは、廊下で燃える篝火の赤い明かりが漏れ、影がゆらゆらと歪んで見えた。裁判はいつ始まるのか。いつまで収監されているのか、見当もつかない。

 

 アテナは俺と隣り合って座っていたが、互いに目を合わせようとしなかった。暗闇の中でかすかに感じる相手の体温は、何の慰めにもならなかった。

 

 俺は腕を組み直し、何度目か分からないため息をついた。

 

 「……なあ、アテナ」

 「何よ、その声。言いたいことがあるなら、はっきりと言えばいいじゃない」

 

 「じゃあ、言わせてもらうけどな」

 

 俺は膝を抱えたまま、怒りを抑えきれず言葉を吐き捨てる。

 

 「お前と違って本当に有能な女神ならな、今頃はもう冒険が始まってるんだよ。わかるか? 冒険者ギルドで隠された潜在能力が発見されたかもしれない。まともな装備だって整えられたし、寝床の一つくらい用意できただろうよ。なのに」

 

 アテナがぴくりと肩を揺らす。暗闇でも彼女が睨み返したのがわかった。

 

 「お前ときたらどうだ。スタート地点でずっと足踏みしてるんだよ。チュートリアルすら始まらねえ。今、どこにいるかわかるか? 牢屋だぞ? 魔王討伐なんて夢のまた夢だ。いや、魔王以前にオークすら倒せねえよ。それどころか、明日の朝には二人とも裁判で死んでるかもしれねえ。俺たちの冒険はな……始まる前に終わってんだよ!」

 

 責め立てる声が、湿った壁に反響した。出会って一日も経ってない人間にここまで感情をぶちまけたのは初めての経験だ。アテナは口を開きかけたが、反論の言葉が出てこないようだ。代わりに、悔しさと羞恥に顔を歪めた。

 

 「……そ、それは……その……」

 「反論できないよな?」

 

 アテナはぎゅっと拳を握り、開き直って逆上した。

 

 「私は悪くないわ! 全部、この世界のほうが悪いのよ。転生者に優しくないレベルデザイン。一文無しでの都市入場イベント。もっとフレンドリーな設計にすべきよ。導線が不親切すぎるのよ、ポンコツなのよ」

 

 「導線じゃなくて、お前がポンコツなんだよ!」

 

 「ポンコツって言うほうがポンコツでしょ!」

 

 小学生レベルの口喧嘩が炸裂し、その声は牢獄全体に響き渡った。完全に激高した様子でアテナは立ち上がり、鉄格子を両手でつかんで怒鳴り始めた。

 

 「衛兵ーっ! 聞こえる? 私たちは無実よ! 神に選ばれし存在をこんなところに閉じ込めるなんて大罪なんだから! 今すぐ釈放しなさい!」

 

 「おい、やめろアテナ、刺激するなって……!」

 

 バカだろコイツ、と俺は頭を抱えた。だが、アテナは真剣だった。事ここに及んで、自分が女神であるという事実を明かせば、誤解が解けて正義が勝つ。そんな甘い夢を信じ切っているのだ。

 

 「黙りなさい! 私たちはまだ終わってないの。今からそれを証明するのよ!」

 

 足音が近づき、衛兵二人がランタンを掲げて牢屋の前に現れた。揺らめく炎が、彼らの険しい顔を赤く照らしている。

 

 「騒ぐな、囚人ども。貴様らにはこれから、死刑を執行する」

 

 「へ………?」

 アテナの声が裏返る。衛兵は無感情に告げる。

 

 「女神クラトスの名を騙った罪は重い。明朝、刑場へ連行する」

 

 そう言って松明の光が遠ざかる。残されたのは、重たい沈黙と、鉄の扉の冷たさだけだった。俺たちはどうやら、この街一帯で信仰されているクラトスという女神を侮辱してしまったらしい。俺は天井を見上げた。ああ。これで本当に詰んだ。

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