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第1章:接続 -login-

※このお話は現実をもとにしたフィクションです

実際の人物や行動とも関係はしますが、多分に創作を含んでいます。

-プロローグ-


剣や槍のぶつかる音、そして弓が空気を切り裂く音が聞こえる。

大規模な戦闘が起こるその最中、一人のPKKが一人のPKに不覚を取り地面へと倒れ込む。


PKK「・・・惜しい、それだけの腕があればどの組織でも三顧の礼で迎え入れたものを・・・」


――視界が白く裂け、戦場の轟音が、まるで電源を抜かれたみたいに消えた。

PKKは聖堂に転送された。

次に聞こえたのは、静かな賛美歌みたいなBGMと、床石を踏む足音の反響だけ。

完璧に負けた。だが、悔しさの中に――不思議な熱があった。負けた。なのに敵の腕に尊敬の念すら抱いていた。


PKは息を整える暇もなく、次の敵を見つけ槍を握りしめる。

そして次の敵に向けて駆け出す前に一言呟いた。

「・・・世界を終末から救う為だ。」


その声は、戦場に向けた宣言ではなく、ただ静かに風に流れて消えていった。

誰かに聞かせるでもない、言い訳にも似た独り言で

だけど、なぜだろう。それが彼の存在理由の全てでもある。


――世界を救う?

PKが?

そんな、ふざけた話があるか。自問自答は止まらない。

けれど、彼は歩みを止めることなく進み続ける。

彼の事を信じてくれた仲間と、ここにはいない誰かの為に。


第1章:接続 -login-


数年前。

まだ「終末」なんて言葉が、ニュースの字幕の中で予言とともに語られていた時代。

カズキの部屋は、夜の匂いがした。


夏の終わりの湿気と、机の上に積まれた英語のテキストの紙の匂い。海外での語学研修から帰ってきて、世界が少し広がった気がした――そのくせ、学校という箱に戻った途端、また息が詰まる思いを感じていた。


窓の外は暗い。

母屋にいる家族達は皆寝ているが自分は寝る気にはなれなかった。

離れの部屋の壁時計の針が、二十三時の手前で、明日は土曜日で休みだ。


この部屋は自分が小学生の時に亡くなった曾祖母ちゃんが余生を過ごすために建てられた隠居家で、

誰も使っていないこの部屋に地元のケーブルテレビが提供しているインターネットの回線を引き込み、

自分だけの空間にしていた。


机の横に置いたPCは、今となっては骨董品みたいなデカさのCRTモニターであるが当時はこれが普通であった。

電源を入れると「ブゥン」と低く唸った。

その光は、部屋の隅まで届かない。暗闇の中に、四角いモニターだけが光る。


――学校の友人にオンラインゲームの誘いを受けたのは昨日だった。

まだまだオンラインゲーム自体が創世記で超有名な『UOL』という超メジャーゲームくらいしかゲーマーたちの中でも知名度が無い時代に、友人は最近サービスが開始された無料β版のオンラインゲームを教えてくれたのだ。


カズキ:MMOって、月額かかるやつ?

友人:普通はな。でもこれ、ベータで無料。

友人:しかも、みんなゼロスタートらしい


無料。ゼロスタート。

その二つの単語が、カズキを惹きつける。


現在のカズキは、中学二年。

財布の中にあるのは、帰り道の自販機を一回我慢すれば作れる程度の小銭。月額一〇〇〇円でさえ、軽くない。欲しいものはある。でも際限なく「欲しい」と言える環境でもない。


だから、無料という言葉は甘い。

甘すぎて、ちょっと怖い。


カズキ:無料って、逆に怪しくない?

友人:怪しいのが楽しいんだろ。

友人:UOLはさ、もう“強いやつが全部持ってる世界”だから。

友人:でも、これは今なら、誰でも最初の一歩が同じ


“誰でも同じ”。

それは平等というより、希望に聞こえた。


カズキはキーボードの上に指を置いた。

自分が何者にもなれていない感じを覚える歳であり、かと言ってそうではない証明などできるわけもなく。

学校の廊下の空気、教室の視線、正解が決まっている会話。全部、薄い膜みたいに正しい呼吸を息を邪魔する感覚がしている。


それを破る方法があるなら。

たとえそれがゲームでも、いや、ゲームだからこそ。


「……やるか」


声に出すと、部屋の静けさが少しだけ割れた。


ゲームを繋ぐ。

ケーブルテレビのモデムから接続音が鳴り始める。

ピー、ガー、ジジジ――機械が怒っているみたいな音。

そのノイズが、なぜだか“扉が開く音”に聞こえた。


ログイン画面。

タイトルロゴは、やけに可愛らしいドット絵で描かれている。

牧歌的で、絵本みたいで、平和の塊みたいな世界。


――『XXXXX』それがこのゲームの名前であった。


名前入力欄に、カズキは迷った。

本名は嫌だ。学校の自分を、この世界に持ち込みたくない。

かといって、適当な記号だけの名前も、なんだか空っぽに感じる。


“何者かになりたい。でも、普通にはなりたくない。”


その欲望は、自分でも扱いづらい。

けれど、ここではそれが許される気がした。


キーボードを叩く。

kazukiZRC


自分の名前に、知らない尾びれを付けた。

それだけで、少しだけ別人になった気がした。


次の瞬間、画面が切り替わり、町が現れた。


温かい色の石畳。

小さな家々。

水路。

そして、人、人、人。


チャットログが滝のように流れている。

「よろ」「最近PKがゴーレム平原に多いらしいぞ」「武器屋はどこですか?」「おかねください」

意味のわからない単語も多いのに、熱だけは伝わる。

ここには、大人も子どももいると聞いていた。働いてる人も、学校帰りの人も、たぶん、眠れない人もいる。


“第二の現実”って、こういうことか。

画面の向こうに、確かに人がいる。

それが、奇妙で嬉しい。


カズキはログインしてすぐの街の広場から人が多く歩いていく南門へと進んだ。

門の前は少し混んでいて、出たり入ったりするプレイヤーが渋滞みたいになっている。

周りの会話を見るに、この世界では町の外が“危ない”らしい。


覚悟を決め、門の影を一歩抜けた瞬間――


BGMが変わった。

優しい旋律が、すっと冷えて、緊張のある音になる。

同じゲームなのに音楽で雰囲気がガラッと変わるのだ。


南門を出るとそこに多くの人がたむろしていた、しかしどうやら揉めている。

「こいつPKなんだ、俺は前に襲われたんだ!」

「だからどうしたよ、今はペナルティも無いし運営も認めてるんだろ。」

「装備を返せよ!!」


初心者らしい格好のプレイヤーが、剣を振り上げ襲いかかるも間もなく倒れた。

彼を倒した赤い名前の誰かが、淡々とその身体を踏み越え、地面に落ちた装備を拾っていく。


“死んだら落とす”。

噂じゃなくて、本当だった。


赤い名前の何者かは振り返りもせずそのまま南門からさらに草原の方へ歩いていった。

現実では許されざる行為もゲームの世界では日常であるかの様に。

自分の手は、マウスの上で固まっている。


絵本みたいな世界の外側に、地獄が貼り付いている様に感じた。

可愛いドット絵が、その残酷さを余計に際立たせる。


――まだ意味は、わからない。

だけど、カズヤは南門の外で、初めて理解した。


この世界は、優しい世界じゃない。

でも怖いだけでは終われない。


もう少しこの世界の事を知ってみよう。

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