異世界トラック運転手〜神様の下請け業〜
【ドキュメンタリー番組:知られざる職業の世界】
【第127回:異世界転生トラック運転手】
ナレーション:
世の中には、様々な職業があります。
医者、教師、会社員、芸能人。
しかし、中には、誰も知らない職業もあります。
今回、ご紹介するのは、そんな職業の一つ。
異世界転生トラック運転手。
神様からの委託を受け、勇者候補をトラックで轢く仕事です。
【インタビュー:田中太郎さん(45歳)】
場所:某所の喫茶店
インタビュアー(以下、I):
本日は、よろしくお願いします。
田中太郎(以下、田中):
こちらこそ。まあ、緊張しますね。テレビに出るの、初めてなんで。
I:
早速ですが、田中さんのお仕事について教えてください。
田中:
はい。私の仕事は、簡単に言うと、異世界転生のお手伝いですね。
I:
異世界転生、というと……?
田中:
ああ、最近流行ってるじゃないですか。異世界転生もの。主人公がトラックに轢かれて、異世界に転生して、勇者になって、魔王を倒す。あれです。
I:
それは、フィクションではなく……?
田中:
いえいえ、本当にあるんですよ。異世界。そして、転生。私の仕事は、その転生のきっかけを作ることなんです。
I:
つまり……トラックで人を轢く?
田中:
そうです。でも、誤解しないでくださいね。これ、ちゃんとした仕事なんです。神様からの正式な委託を受けてるんです。
I:
神様……?
田中:
はい。具体的には、異世界管理局という組織があって、そこから依頼が来るんです。
【スタジオ収録:異世界管理局について】
ナレーション:
異世界管理局。
それは、神々が運営する、異世界と現世を管理する組織です。
本来、人間には見えない、認識できない存在ですが、今回、特別に取材許可をいただきました。
【インタビュー:異世界管理局 局長・アマテラス様】
場所:異世界管理局本部(天界)
I:
本日は、貴重なお時間をいただき、ありがとうございます。
アマテラス:
いえいえ。こちらこそ、広報活動の一環としてね。
I:
異世界管理局について、教えていただけますか。
アマテラス:
はい。私たちの仕事は、簡単に言うと、世界のバランスを保つことです。現世と異世界、それぞれに問題が起きないように管理しています。
I:
異世界……というのは?
アマテラス:
いわゆるファンタジー世界ですね。魔法があって、モンスターがいて、勇者と魔王が戦う。そういう世界です。
I:
それは、複数あるんですか?
アマテラス:
ええ。無数にあります。世界A、世界B、世界C……数え切れないほど。
I:
そして、そこに人間を転生させる……?
アマテラス:
そうです。異世界には、定期的に勇者が必要なんです。魔王が復活したり、世界が危機に陥ったりするので。でも、異世界の人間だけでは、なかなか勇者が育たない。だから、現世から人材を引っ張ってくるんです。
I:
それが、異世界転生……。
アマテラス:
その通りです。現世で死んだ人間を、異世界に転生させる。そして、チート能力を与えて、勇者として活躍してもらう。Win-Winでしょう?
I:
しかし、なぜトラックで……?
アマテラス:
ああ、それはですね。転生には、一定の条件が必要なんです。事故死、かつ、本人に落ち度がないこと。そうすると、魂が綺麗な状態で転生できるんです。
I:
事故死、かつ、落ち度がない……。
アマテラス:
はい。自殺や他殺だと、魂に傷がつく。病死だと、魂が弱っている。でも、事故死で、突然、理不尽に死んだ場合、魂は綺麗なまま。そして、転生に適している。
I:
なるほど……。
アマテラス:
そして、トラックは、一番手っ取り早いんです。確実に即死できるし、本人に落ち度がないように演出できる。だから、トラック事故が多いんです。
I:
演出……?
アマテラス:
ええ。例えば、子供が飛び出してきて、それを助けようとして轢かれる。これなら、本人は英雄的行為をしたことになるし、魂も綺麗。完璧でしょう?
I:
……複雑ですね。
アマテラス:
まあ、そう言わないでください。私たちも、仕事ですから。
【再び、田中さんへのインタビュー】
I:
異世界管理局のアマテラス様にお話を伺いました。
田中:
ああ、局長ね。お世話になってます。
I:
田中さんは、どのようにして、この仕事を始めたんですか?
田中:
それがですね、元々、私、普通のトラック運転手だったんですよ。
I:
普通の……?
田中:
ええ。運送会社に勤めて、荷物を運ぶ。ごく普通の仕事でした。でも、ある日、事故を起こしちゃったんです。
I:
事故……。
田中:
ええ。人を轢いてしまった。若い男性でした。横断歩道で、信号無視して飛び出してきて……。私は、避けられなかった。
I:
それは……辛い経験でしたね。
田中:
ええ。本当に。私、その後、しばらくトラックに乗れなくなりました。罪悪感で。でも、ある日、夢の中に神様が現れたんです。
I:
神様……?
田中:
ええ。アマテラス様でした。彼女が言ったんです。「あなたが轢いた男性は、今、異世界で勇者として活躍していますよ」って。
I:
え……?
田中:
私も驚きました。でも、アマテラス様は続けて言ったんです。「あなたは良い仕事をした。これからも同じ仕事を続けませんか?」って。
I:
それで……?
田中:
最初は、断りました。人を轢くなんてできない。でも、アマテラス様は言ったんです。「あなたが轢くのは、勇者候補です。彼らは、異世界で英雄になる。あなたは、彼らの人生を変える、重要な役割を担っているんです」って。
I:
そして、受け入れた……。
田中:
ええ。考えました。もし、本当にそうなら、私は人を殺しているんじゃない。新しい人生を与えているんだって。それなら、やってもいいかなって。
I:
具体的には、どのように仕事をするんですか?
田中:
毎月、異世界管理局から、リストが送られてくるんです。今月の勇者候補、みたいな。そこには、名前、年齢、住所、勇者適性、轢くべき日時と場所が書いてあります。
I:
轢くべき日時と場所……?
田中:
ええ。例えば、「12月5日、午後3時、渋谷駅前交差点」みたいな感じです。
I:
それに従って……?
田中:
そうです。その日時に、その場所にトラックで行く。そして、タイミングを見計らって、轢く。
I:
しかし、それは……殺人では?
田中:
法律的には、事故です。ちゃんと、異世界管理局が手回ししてくれて、防犯カメラの映像も、目撃者の証言も、すべて「避けられない事故」になるように調整されてます。だから、私は逮捕されません。
I:
それは……まぁ…便利というか……。
田中:
まあ、神様の力ですから。でも、私も、できるだけ自然に見えるように演出しますよ。例えば、子供を使ったり。
I:
子供……?
田中:
ええ。子供が急に飛び出してきて、勇者候補がそれを助けようとして、轢かれる。これが一番綺麗なパターンです。
I:
子供は、実在するんですか?
田中:
いえ、幻です。神様が作った幻影。勇者候補にしか見えません。だから、周囲の人には、勇者候補が突然道路に飛び出したように見えるんです。
I:
なるほど……巧妙ですね。
田中:
ええ。でも、時々、失敗することもあります。
I:
失敗……?
田中:
ええ。轢き損ねたり、逆に関係ない人を轢いたり。
I:
それは……大変ですね。
田中:
大変ですよ。轢き損ねた場合、勇者候補は転生できません。だから、また別の日に、別の方法で死なせなきゃいけない。それが、面倒なんです。
I:
別の方法……?
田中:
ええ。例えば、電車に飛び込むとか、屋上から落ちるとか。でも、それは、別の業者の担当なんで、私は関与しません。
I:
業者……?
田中:
ええ。異世界転生業界にも、分業があるんです。トラック担当、電車担当、落下担当、溺死担当……。それぞれ、専門の業者がいます。
I:
なるほど……業界なんですね。
田中:
ええ。結構、大きな業界ですよ。年間、何万人も転生してますから。
【ナレーション】
異世界転生業界。
それは、知られざる巨大産業だった。
年間の転生者数は、全世界で約十万人。
日本だけでも、約一万人が転生している。
そして、その裏には数百社の転生業者が存在する。
【インタビュー:業界関係者】
場所:異世界転生業者協会
I:
本日は、ありがとうございます。
協会会長・佐藤(仮名):
いえいえ。この業界のことを知ってもらえるのは、ありがたいです。
I:
異世界転生業者協会について、教えてください。
佐藤:
私たちは、異世界管理局から委託を受けて、転生業務を行う業者の集まりです。現在、登録業者は、全国で約三百社あります。
I:
三百社……。
佐藤:
ええ。それぞれ、専門がありまして、トラック、電車、落下、溺死、火災……。様々な方法で、勇者候補を転生させています。
I:
競争は激しいんですか?
佐藤:
ええ、激しいですよ。特に、トラック部門は人気です。一番確実で、一番演出しやすいので。
I:
田中さんは、その中でもトップクラスだとか。
佐藤:
ええ。田中さんは、成功率が九十五パーセント以上。業界でもトップです。本当、凄いですよ。
I:
成功率……?
佐藤:
ええ。轢くべき人を、確実に轢く。そして、余計な人を轢かない。まさに、プロの仕事です。
I:
なるほど……。
【再び、田中さんへのインタビュー】
I:
田中さんは、成功率が非常に高いそうですね。
田中:
ああ、まあ、そう言われます。でも、別に特別なことはしてませんよ。ただ、丁寧に仕事をしてるだけです。
I:
丁寧に……?
田中:
ええ。まず、リストをよく読む。勇者候補の特徴、性格、行動パターン。すべて把握します。そして、事前に現場を下見する。どこから飛び出してくるか、どのタイミングで轢くべきか、すべてシミュレーションします。
I:
徹底していますね。
田中:
ええ。失敗は許されません。勇者候補を逃したら、異世界が危機に陥る可能性がある。それは避けなければならないですから。
I:
責任感が、強いんですね。
田中:
まあ、仕事ですから。
I:
実際に轢く瞬間は、どんな気持ちですか?
田中:
……正直、複雑ですよ。やっぱり、人を轢くわけですから。でも、同時に、使命感もあります。この人は、異世界で勇者になる。世界を救う。それを信じて、アクセルを踏みます。
I:
信念……ですね。
田中:
ええ。それがないと、できない仕事ですね。
【ドキュメント:ある日の仕事】
ナレーション:
田中さんの仕事を、密着取材させていただきました。
ある日の午後。
田中さんのもとに、異世界管理局から、新しい依頼が届きました。
【映像:田中さんの自宅】
田中:
来ましたね。今月の勇者候補。
(リストを読む)
田中:
佐々木健太、二十五歳、会社員。勇者適性:A。轢くべき日時:明日、午後二時。場所:新宿駅南口。
(カメラに向かって)
田中:
明日ですね。準備しないと。
【映像:現場の下見】
ナレーション:
田中さんは、まず現場の下見に向かいました。
新宿駅南口。
人通りの多い、交差点です。
田中:
ここです。交差点の真ん中。横断歩道を渡ってる最中に、轢く、と。
(周囲を観察)
田中:
防犯カメラは……あそこと、あそこ。管理局が、ちゃんと映像を調整してくれるはず。
(メモを取る)
田中:
よし、シミュレーション完了。明日は、午後一時五十分に、ここに来る。そして、午後二時ちょうどに、交差点に進入。タイミングを合わせて、轢く。
【映像:当日】
ナレーション:
翌日。
午後一時五十分。
田中さんは、トラックで現場に到着しました。
田中:
時間通り。
(深呼吸)
田中:
よし、行くか。
(トラックを発進)
ナレーション:
午後二時。
交差点の信号が、青になりました。
田中さんは、トラックを進めます。
そして、横断歩道に、一人の男性が現れました。
佐々木健太さんです。
田中:
来た。
(集中)
ナレーション:
その時、幼い子供が、突然道路に飛び出しました。
佐々木さんは、子供を助けようとして、道路の中央に飛び出しました。
そこに、田中さんのトラックが……。
(衝突音)
ナレーション:
佐々木さんは、即死でした。
【映像:事故後】
ナレーション:
警察が到着しました。
しかし、田中さんは逮捕されません。
防犯カメラの映像も、目撃者の証言も、すべて「避けられない事故」を示していました。
田中:
(警察に)
本当に、申し訳ありませんでした……。
警察官:
いえ、あなたは悪くない。あの男性が、突然飛び出してきたんだ。仕方ない。
田中:
(カメラに向かって、小声で)
演技も、仕事のうちです。
【インタビュー:事故後】
I:
お疲れ様でした。
田中:
ええ。無事、成功しました。
I:
今、どんな気持ちですか?
田中:
……複雑ですよ。やっぱり。人を轢いたわけですから。でも、同時に、安堵もあります。佐々木さんは、今頃、異世界で目覚めてるはず。新しい人生が、始まってるはず。
I:
確認できるんですか?
田中:
ええ。後日、管理局から報告が来ます。「佐々木健太、無事転生。世界Dで勇者として活動開始」みたいな。
I:
それを見ると……?
田中:
ほっとしますね。ああ、良かったって。自分の仕事が、ちゃんと役に立ってるんだって。
【ナレーション】
数日後。
田中さんのもとに、異世界管理局から報告が届きました。
「佐々木健太、無事転生。世界Dにて、勇者として活動開始。スキル:剣術マスター、魔法適性S。順調に成長中」
田中さんは、その報告を読んで、微笑みました。
【インタビュー:仕事のやりがい】
I:
この仕事のやりがいは、何ですか?
田中:
やっぱり、報告を見たときですね。自分が転生させた人が、異世界で活躍してる。それを知ると、嬉しいです。
I:
具体的には、どんな活躍を?
田中:
色々ですよ。魔王を倒したり、国を救ったり、ハーレムを作ったり。
I:
ハーレム……?
田中:
ええ。異世界転生ものの定番じゃないですか。勇者が、複数の美女と恋に落ちる。あれ、本当にあるんですよ。
I:
そうなんですか……。
田中:
ええ。まあ、私は関係ないですけど。私の仕事は、転生させるまで。その後のことは、勇者次第です。
I:
しかし、中には、失敗する勇者もいるんでしょうね。
田中:
いるみたいです。魔王に負けたり、仲間に裏切られたり、ハーレムで揉めたり。色々あります。
I:
それは……残念ですね。
田中:
まあ、仕方ないです。人生、うまくいかないこともありますから。異世界でも、現世でも。
I:
逆に、成功した勇者の話を聞いたことは?
田中:
ありますよ。例えば、三年前に転生させた人。彼は、今、異世界で王様になってます。
I:
王様!
田中:
ええ。魔王を倒して、国を平和にして、姫と結婚して、王様になった。立派なもんです。
I:
連絡は取れるんですか?
田中:
いえ、取れません。異世界と現世は、基本的に通信できないので。ただ、管理局から、年次報告が来ます。「○○は、現在も健在。国を統治中」みたいな。
I:
それを読むと……?
田中:
誇らしいです。ああ、あの時、ちゃんと轢いて良かったって。
【インタビュー:仕事の苦労】
I:
この仕事の苦労は、何ですか?
田中:
やっぱり、精神的な負担ですね。どれだけ「転生のため」と言われても、人を轢くのは、辛い。
I:
特に、辛かったケースは?
田中:
……ありますね。若い女性を轢いたとき。彼女、まだ二十歳だったんです。大学生で、夢もたくさんあって。でも、勇者適性がSランクで、異世界が本当に危機的状況で。轢くしかなかった。
I:
そのとき、どう思いましたか?
田中:
……本当に、これでいいのかって。でも、轢きました。仕事だから。そして、後日、報告を見たら、彼女は異世界で女勇者として活躍してて、魔王を倒して、国を救って、英雄になってました。
I:
それを見て……?
田中:
少し、救われました。ああ、彼女は現世では叶えられなかった夢を、異世界で叶えてるんだって。
I:
でも、複雑ですね。
田中:
ええ。凄く複雑です。でも、それが、この仕事ですから。
【インタビュー:家族について】
I:
ご家族は、この仕事のことを知ってるんですか?
田中:
妻は知ってますよ。最初は、信じませんでしたけど。でも、管理局の人が説明してくれて、納得しました。
I:
奥様は、どう思ってるんですか?
田中:
……やっぱり複雑みたいです。夫が、人を轢く仕事をしてるって。でも、理解はしてくれてます。「あなたは、人を殺してるんじゃない。新しい人生を与えてるのよ」って、いつも言ってくれます。
I:
支えになってますね。
田中:
ええ。妻がいなかったら、この仕事、続けられなかったかもしれません。
I:
お子さんは?
田中:
息子が一人。高校生です。息子は、知りません。まだ、話してない。
I:
なぜですか?
田中:
……どう説明していいか、わからなくて。「お父さんの仕事は、トラックで人を轢くことです」なんて、言えないじゃないですか。
I:
確かに……。
田中:
でも、いつかは話さないとな、とは思ってます。息子が、もう少し大人になったら。
【インタビュー:業界の問題】
I:
この業界には、問題もあるんでしょうね。
田中:
ええ、あります。例えば、悪徳業者。
I:
悪徳業者……?
田中:
ええ。勇者候補じゃない人を、勝手に轢いて、「転生させました」って報告する業者がいるんです。
I:
それは……。
田中:
詐欺ですよね。でも、管理局も完璧じゃない。たまに、そういう業者を見逃しちゃう。そうすると、無関係な人が死んで、しかも転生もできない。最悪です。
I:
そういう業者への対策は?
田中:
協会が、定期的に監査してます。でも、完全には防げない。だから、私たちプロは、常に正確に仕事をしなきゃいけない。業界の信頼を守るために。
I:
他には?
田中:
あとは、勇者候補の質の低下ですね。
I:
質の低下……?
田中:
ええ。最近、勇者適性が低い人が増えてるんです。昔は、AランクやSランクが多かったんですけど、最近はBランクやCランクが増えてる。
I:
それは、なぜですか?
田中:
わかりません。でも、管理局の人が言うには、現世の人間の質が落ちてるんじゃないかって。
I:
現世の人間の質……。
田中:
ええ。ストレスが多くて、心が弱ってる人が増えてる。そうすると、勇者適性も下がる。困ったもんです。
I:
それで、異世界は大丈夫なんですか?
田中:
まあ、何とかなってるみたいです。質が低くても、数で補ってるみたいで。でも、将来的には心配ですよね。
【インタビュー:将来の展望】
I:
この仕事を、いつまで続けるつもりですか?
田中:
……わかりません。できる限り続けたいとは思ってます。でも、いつか、限界が来ると思います。肉体的にも、精神的にも。
I:
後継者は?
田中:
いません。この仕事、誰にでもできるわけじゃないので。特別な資質が必要なんです。
I:
特別な資質……?
田中:
ええ。まず、神様に認められないとダメ。そして、精神的に強くないとダメ。人を轢いても、平気でいられる。そんな人、なかなかいません。
I:
田中さんは、平気なんですか?
田中:
……平気じゃないですよ。毎回、辛いです。でも、やります。それが、私の使命だから。
【インタビュー:メッセージ】
I:
最後に、視聴者にメッセージを。
田中:
メッセージ……ですか。うーん。
(考える)
田中:
世の中には、色んな仕事があります。私の仕事は、特殊です。理解されにくいし、褒められることもない。でも、必要な仕事だと思ってます。誰かが、やらないといけない。だから、私がやる。それだけです。
I:
……ありがとうございました。
田中:
こちらこそ。
【エピローグ】
ナレーション:
取材を終えて、数週間後。
田中さんから、連絡がありました。
「息子に、仕事のことを話しました」と。
【インタビュー:息子に話した後】
場所:田中さんの自宅
I:
息子さんに話したんですね。
田中:
ええ。もう隠せないと思って。
I:
どんな反応でしたか?
田中:
……最初は、信じませんでした。「お父さん、何言ってるの?」って。でも、管理局の人が来て、説明してくれて。それで、ようやく信じました。
I:
そして……?
田中:
驚いてました。そして、怖がってました。「お父さん、人殺しなの?」って。
I:
何と答えましたか?
田中:
「違う。お父さんは、人に新しい人生を与えてるんだ」って。そしたら、息子は黙り込んで……。しばらくして、言ったんです。「お父さん、すごいね」って。
I:
すごい……?
田中:
ええ。「そんな大変な仕事、よく続けられるね。お父さん、尊敬するよ」って。
I:
それは……。
田中:
嬉しかったです。息子に、理解してもらえて。認めてもらえて。
I:
良かったですね。
田中:
ええ。これで、もう少し、頑張れそうです。
【ナレーション】
異世界転生トラック運転手。
それは、知られざる職業。
しかし、確かに存在する職業。
そして、それを支える、一人の男がいる。
田中太郎さん。
彼は、今日も、トラックのハンドルを握る。
新しい勇者を、異世界へ送るために。
【特別インタビュー:転生した勇者】
ナレーション:
最後に、特別ゲストをお招きしました。
田中さんが転生させた、元勇者です。
彼は、異世界で魔王を倒した後、特別な手段で、一時的に現世に戻ってきました。
【インタビュー:元勇者・山田一郎さん(仮名)】
I:
本日は、ありがとうございます。
山田:
いえいえ。こちらこそ。
I:
あなたは、三年前、田中さんのトラックに轢かれたそうですね。
山田:
ええ。覚えてます。横断歩道を渡ってたら、突然、子供が飛び出してきて。助けようとして、気づいたらトラックが……。
I:
そして、異世界に……?
山田:
ええ。目が覚めたら、草原にいました。そして、女神様が現れて、「あなたは勇者です。この世界を救ってください」って。
I:
それで……?
山田:
最初は、混乱しました。でも、チート能力をもらって、仲間もできて。それで、魔王を倒しました。
I:
すごいですね。
山田:
まあ、大変でしたけどね。何度も死にかけたし。でも、楽しかったです。
I:
今は、どうしてるんですか?
山田:
異世界で、王様やってます。結婚もしました。子供も三人います。
I:
幸せですか?
山田:
ええ。とても。こっちの世界より、ずっと幸せです。
I:
田中さんに、何か伝えたいことは?
山田:
……ありがとうございます、って。あの時、轢いてくれて。おかげで、新しい人生が始まりました。本当に、感謝してます。
I:
田中さん、聞いてますか?
田中:
(スタジオで)
……ええ。聞いてます。
(涙を拭く)
田中:
良かった。本当に、良かった。
【エンディング】
ナレーション:
異世界転生トラック運転手。
それは、人の人生を変える仕事。
辛く、苦しく、理解されにくい仕事。
しかし、誰かが、やらなければならない仕事。
田中太郎さんは、今日も、その仕事を続ける。
新しい勇者のために。
新しい世界のために。
【テロップ】
「この番組は、フィクションです。実在の人物、団体とは一切関係ありません」
(でも、本当にフィクションなのでしょうか……?)
【番組終了】
---
【ボーナストラック:未放送インタビュー】
I:
ところで、失敗したこと、ありますか?
田中:
……ありますね。一度だけ。
I:
どんな?
田中:
勇者候補を、轢き損ねたんです。タイミングがずれて。そしたら、その人、普通に生き続けて。
I:
それで?
田中:
異世界は、大変なことになりました。勇者が来ないから、魔王が暴れ放題。結局、別の勇者を急遽転生させて、何とかしましたけど。
I:
その、轢き損ねた人は?
田中:
今も、普通に生きてます。会社員やってます。本人は、何も知りません。自分が勇者候補だったことも、異世界を危機に陥れたことも。
I:
……複雑ですね。
田中:
ええ。でも、それ以来、絶対に失敗しないって決めました。
I:
プロフェッショナルですね。
田中:
仕事ですから。
(完)




