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AIの本棚 本当はやめろよ!と言いたいけど他  作者: 村松希美


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11 不器用な想い





 青く澄みきった空に、白い雲がゆっくりと流れていく。風が木々を揺らし、新緑の葉がさわさわと音を立てる。中学校の屋上は、僕と(つむぎ)にとって特別な場所だった。




「ねえ、朝陽(あさひ)。この雲、なんだか羊みたいじゃない?」


紬は空を指差し、そう言った。僕は目を細めて空を見上げる。確かに、羊の群れが空を泳いでいるようだ。




 僕と紬は、物心ついた時からずっと一緒だった。家も近くて、学校も同じ。僕にとって紬は、空気みたいな存在だった。




 だけど、いつからだろう。紬のことをただの幼馴染じゃなく、特別な女の子として意識するようになったのは。胸の奥が、ぎゅっと締めつけられるように苦しくなる。




「ほんとだ。でも、俺はどっちかっていうと…、ほら、あんまりふわふわしてるのって好きじゃないんだよな」




 本当は、紬が可愛いな、って思っているのに。素直になれない自分がもどかしい。照れくさくて、つい反対のことを言ってしまう。紬はムッと唇を尖らせた。




「なによ、朝陽の意地悪!もういい、朝陽なんか嫌い!」


そう言って、紬はプイッと顔を背けてしまった。僕は慌てて「ごめん!」と謝るけれど、紬は聞いてくれない。いつもこうだ。肝心な時に、僕はいつも紬を怒らせてしまう。




 そんなある日、僕たちのクラスに転校生がやってきた。颯はやて、という名の彼は、スラリとした背の高い男の子だった。席が紬の隣になった颯は、休み時間になるとすぐに紬に話しかける。




「紬って、おもしろいね。いつも明るくて、一緒にいると元気が出るよ」


颯は、迷いのないまっすぐな声でそう言った。紬は少し照れくさそうに笑っている。その顔を見て、僕の胸はズキリと痛んだ。




 僕は、いつも紬を怒らせてばかりいる。でも颯は、紬を喜ばせる言葉をサラリと言う。紬の笑顔が、僕の前でよりも颯の前で輝いているような気がして、僕は何も言えなかった。




 その日の帰り道、僕と紬と颯は一緒に歩いていた。


「この間、新しいカフェができたんだって。今度一緒に行かない?」




 颯が紬にそう言った。僕は何も言えないまま、ただ二人の後ろを歩いていた。紬が楽しそうに笑っている。僕の知らない紬の笑顔が、そこにはあった。




「いいよ、行こう!」


紬は、僕には見せたことのない、満面の笑顔で言った。僕の心臓が、大きく、痛く脈打った。




 僕はどうすればいいんだろう。このまま、紬を颯に取られてしまうのかな。僕の胸には、焦りと、少しの嫉妬が渦巻いていた。




 その日から、僕と紬の間に、目に見えない壁ができたようだった。休み時間も放課後も、颯が紬の隣にいることが増えた。僕は二人の楽しそうな笑い声を聞くたびに、どうしようもない気持ちになった。




 ある日、僕は屋上で一人、空を眺めていた。すると、後ろから「朝陽、こんなところで何してるの?」と声がした。振り返ると、そこには紬がいた。




「別に、何でもない。……颯と一緒じゃないのか?」


つい、また意地悪な言い方をしてしまう。紬は少し寂しそうな顔をした。




「別に、いつも一緒にいるわけじゃないし。朝陽こそ、最近私と話してくれないじゃん」


紬の声が、少し震えているように聞こえた。僕は何も言えない。だって、話したいのに、素直になれない自分がいるから。




「朝陽って、昔からそうよね。大事な時に、いつも意地悪ばっかり言うんだから」


紬の目が、少し潤んでいる。僕の胸が、ぎゅっと締めつけられた。もう、このままではいけない。素直になれない自分に、決着をつけなければ。




「ごめん、紬」


僕は、震える声で言った。


「本当は…、お前と話したいんだ。本当は、お前と一緒にいたいんだ」


顔が、熱くなる。情けないくらい、泣きそうだった。それでも、僕は言葉を続けた。




「俺、颯のこと、嫌いだ。だって、あいつは、お前を笑わせるのが上手いから。俺が言いたかったことを、全部、あいつが言ってしまうから」




 初めて、自分の気持ちを口に出した。紬は、少し目を丸くして僕を見つめている。




「朝陽…」




「本当は…、羊の雲、可愛いって思ってた。紬が可愛いって言うから、俺もそう思ってた。でも、照れくさくて、意地悪なこと言っちまうんだ。ごめん…」




 僕の言葉を聞いた紬は、少し驚いたような顔をした後、ふっと笑った。その笑顔は、僕がずっと見たかった、昔の紬の笑顔だった。




「朝陽の意地悪は、昔からだから。でも…、わかってるよ。朝陽が本当は、優しいってこと」


紬は、僕にそっと寄り添った。太陽の光を浴びた紬の髪が、キラキラと輝いている。




「だから…、もう、隠さなくていいよ。朝陽の気持ち、ちゃんと伝わってるから」


僕の頬を、熱い涙が伝っていく。今までずっと、言えなかった言葉。伝えられなかった気持ち。それらが全部、溢れ出して止まらなかった。




「……うん」


 僕は、紬の肩に顔をうずめた。もう、意地悪な自分とはお別れだ。僕は、少しだけ成長できた気がした。




 僕たちの屋上に、夕焼けの光が差し込んでいた。二つの影が、一つに重なり合う。僕と紬の新しい関係は、ここから始まっていく。




 太陽が沈むにつれて、空の色はオレンジから紫へと変わり、二人の未来を、優しく照らしていた。







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