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鬼之櫻子  作者: 犬神八雲
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第六話 邂逅

見切り発車で連載を始める癖をやめろと言ってるだろうが。

はい……。

 地中海特有の渇いた爽やかな風が、イタリアはローマの地に靡く。ローマと言えど、ここは華やかな中心都市などではなく、郊外に位置する広場である。もう使われていない建物が見受けられる人の居ない寂れた土地にて、二人の女が対峙していた。

 黒いフードの女は、手の内にある長柄の得物——適度な硬さを持ち、刃の部分が寝ている形をしたそれ——を肩に落としながら、目の前に居る軍服の女に視線を合わせる。深く軍帽を被った女は、右手に両手の大剣——一般的にそれは、ツヴァイヘンダーと呼ばれる剣——を持ちながら、じっと目の前のフードの女を見る。

 殆ど同時に、彼女らは顔を上げる。フードの女は口を開け、ポッピングで舌を鳴らすと、肩に置いていた得物をすとんと手の内に落とした。

 軍帽の女は右手に持っていたツヴァイヘンダーを両手に持ち直し、地面に限りなく近い状態で下から振り上げる為の動作を取る。

 ——それと同時に、軍帽の女はその場で一気にツヴァイヘンダーを振り上げる。辺り一面に巻き起こる風が、広場にあった乾いた砂を一気に上げて煙としてその場を覆った。

 黄土の帳が、一瞬の内に広場という空間に降ろされる。黒いフードの女は手の内にあった得物を振り回しながら、寝ていた刃の部分をその形を大鎌へと変形させた。

 変形と同時に、鎌の刃部分へ軍服の女の大剣がぶち当たった。鈍い金属が打ち合う音と、火花が武器同士から飛び散った。フードの女は手の中で円を描くように大鎌を振り回し、軍服の女はツヴァイヘンダーを軽々と振り翳していた。双方の武器が、凄まじい速さで激しく交わっている。フードの女は軽装でありながら、また更に速度を意識した動きであり、軍服の女はそれらの攻撃を戦術に則って正しく防いでいく。

「ッ!」

 フードの女の大鎌は、軍服の女のツヴァイヘンダーに弾かれた。今までの鈍い音とは違う、乾いた甲高い音が響くと、軍服の女は持っていた大剣を大きく薙ぎ振るった。フードの女はそれを認めると、片手で大鎌を回転させて振られた大剣を防ぐ。両者の握り込む長い柄に、防いだ余波の振動が伝わった。

「ッ、どーしたのぉ、コルンブルメェ? 『お話』にしては随分本気じゃなぁい?」

 フードの女は、軽い口調で持っている柄の持ち位置を変え、弾きと共に距離を置く。極力反発の少ない形で弾きを逸らした軍服の女——コルンブルメは、フードの女に言葉を返す。

「……思っていたより腕は落ちていないようだな、マルゲリータ」

 フードの女——マルゲリータは、軍服の女にそう言われると、唖然とした表情で答えた。

「はぁ? そんな事言う為に喧嘩吹っ掛けて来たの?」

 コルンブルメは鼻で笑いながら、マルゲリータに言葉を返す。

「まさか。話は始まってもない」

 ツヴァイヘンダーを構えながら、コルンブルメは再びマルゲリータに向かって走り出した。マルゲリータはコルンブルメの剣を受ける為に、持っていた大鎌を下向きに構える。

 大剣の刃が、大鎌の内刃に当たり、火花が散った。それと同時に、コルンブルメは叫ぶようにマルゲリータに告げる。

「サクラコとパトソルチェが動き出す!」

 マルゲリータはそれに対し、僅かに表情を変えながら大剣を弾いた。

「それが何? あの子達が動き出す事と、私が関わるのに何の関係もないでしょ」

 マルゲリータはそう言うと、大鎌を手の内で回転させながら鎌を振るい、相手の首筋へと内刃を向けた。コルンブルメは大剣を縦に持ち替え、飛んでくる鎌の内刃を受け流した。そのままリカッソを使い鎌の梃子を取って鎌を地面にまで落とすと、刃を足で抑えながら、相手に問い掛けた。

「本当に、そう思うか?」

 コルンブルメはマルゲリータに肉薄する。コルンブルメの右目は、相手の緑と黄のオッドアイを捉える。

「あのサクラコがまた動いたんだ。それだけじゃない、ロシアが動くということは、他の共産国(アカ)も動く」

 コルンブルメはマルゲリータが視線を僅かに下へずらしたのを認めると、そのまま言葉を続けた。

「本当に、関係がないと言えるか? このまま事が進めば、また我々は戦火に——ッ!?」

 コルンブルメがそこまで言うと、マルゲリータは持っていた鎌を軸にして脚を高く上げ、そのまま彼女の首周り目掛けて、肩に脚を掛けた。

 そのままマルゲリータは、コルンブルメと鎌の長柄を支えにしながら、首を的確に締め上げる。

「随分心配症になったのねェ、『青菊の軍人』サマ〜? 前のアナタとは大違いじゃない?」

 マルゲリータは煽るような口調でコルンブルメにそう言うと、締め上げで歯を食い縛る相手に対し、そのまま言葉を続けた。

「仮にあの子達が来るとして、私にどうしろって話でしょうよ。論点は何?」

 マルゲリータはそのまま、空中で維持していた上半身を相手の足付近まで落とし込むと、そのままフランケンシュタイナーよろしく地面に手を付けて、直立しているコルンブルメを投げ飛ばしてしまった。

 マルゲリータは手を地面に着けたまま、両足で鎌の柄を上へと跳ね飛ばし、身体を回転した後、上から降る鎌を取って手の内で回しながら構えた。

 飛ばされたコルンブルメは空中で身体を捻り、腕と脚を使いながら、転がる形を取って無傷で着地する。同時にしゃがんだ状態になると、持っていたツヴァイヘンダーがやや目線の先の地面に直で刺さっているのを認識出来た。そのまま地面を蹴り上げる形で、コルンブルメは走り出す。道中にあるツヴァイヘンダーを両手で取りながらマルゲリータの方へ走り、そのまま彼女に剣を振り上げながら、咆哮の如く叫ぶ。

「我が総統は反共でな!祖国(ナチス)にアカが入る事を恐れている!故に、貴公と同盟を組みたい!!」

 コルンブルメはそう言いながら、本来ならその体格では手に余るであろう大剣を無駄なく振るい、マルゲリータの大鎌に長剣の刃を当てる。鎌を大きく回転させながら、その攻撃を弾きいなして行く。

「何!?言いたい事はそれだけ!?」

 マルゲリータは鎌を回しながら、コルンブルメに返答した。持っていた大剣をそのまま突く形を取ったコルンブルメに対し、マルゲリータは眼前でその刃を躱す。

「悪いけどッ、同盟を組んで(イタリア)にメリットあんの!? 無いのに組むなんて御免よ!」

 マルゲリータは鎌を回しながら上から切先を振り下ろす形を取った。

「そうさな、だが!!貴国にアカが攻め入った時どうなるか——」

 それを認めたコルンブルメは、その切先へ剣身を当て、僅かに角度を変える。大きく円を描いてコルンブルメに当たるはずだった大鎌は、当たる相手を無くした為に地面へと突き刺さった。コルンブルメは、空いているマルゲリータの首元にツヴァイヘンダーを振り下ろす。

 マルゲリータは地面に刺さっていた鎌を抜き、首へ振り下ろされた大剣を柄で受け止めた。

 鈍い金属同士の音が、両者の耳を貫いた。

「——貴公なら!わかるはずだ!!」

 コルンブルメがそう言うと、マルゲリータは手を握り込んで首に掛かるツヴァイヘンダーを弾き返す。そのまま姿勢を低く保ち、鎌をコルンブルメの足元へ回した。避け切れず鎌の切先が僅かに触れ、コルンブルメの軍靴の紐が見事に切れたのを認めると、彼女はそのまま距離を取る。

「えぇ、言ってる事はね。でもアンタ達の考える事、信用できるかって言われたら私は無理よ」

 マルゲリータはそう言いながら、鎌を一度回転させる。刃を下向きにしながら、切先を外に向けて構えた。コルンブルメは彼女の言葉に対し、冷笑に等しい口調で答える。

「だろうな、だから『提案』だ」

 コルンブルメはツヴァイヘンダーの切先を地面に刺し、柄に手を添えてまっすぐに立てた。

「自分が勝った場合、対共産の同盟を結んでもらう」

 マルゲリータはそれを聞いて、フードの上から頭を掻き深い溜息を吐いた。

「それ、私にメリットある? 私が勝ったらどうするの?」

 コルンブルメはニヒルに笑いながら軍帽を脱いだ。長い髪を大雑把に掻き上げ、矢車菊の花弁が刻印された眼帯をなぞり、再び軍帽を被ってからマルゲリータに答えた。

「貴公が勝てば、貴公に良い条件を課せばいい。自分と刃を交える間に考えるのが良いだろう」

 マルゲリータは再び深いため息を吐き、そのまま強く鎌を地面に刺した。その手でフードを外すと、長くカールしたような茶髪が出てくると同時に、左目——翠眼の瞼に斬撃痕の古傷が見えた。彼女はそれをなぞりながら、自身の髪を高い位置で一つに纏める。纏めた後に、天を仰いで息を吐いた。

「……そうね。適当に考えておくわ」

 マルゲリータはそう言うと、刺していた大鎌を片手で回転させる。そうしてそのまま、静かに背へ構えた。

 両者は先程の撃ち合いとはまるで違う、ある種の覇気に近しいものを放ちながら見つめ合い、一歩ずつ近づき——互いに足へ力を込めた。


 ——風を切って走る両者の凄まじい音と、それによって発せられた衝撃波に、辺り草がふわりと揺れ動いた。互いが間合いに入った直後、武器を振り構え、そのままぶち当てる。

 通常ではあり得ない、金属音と武器の衝突により、両者を中心に爆風が巻き起こった。拮抗の後に一歩下がるが、また再び刃が両者にぶち当たる。

 マルゲリータは口角を上げながら、軽装故の滑らかな動きを見せていた。鎌を自由自在に振り回し、取り扱いながら、同時に自分の身体もそれに合わせて回転させている。時折、指のみで鎌を回すその様は、正に『手練れ』と表現出来よう。彼女は視線をそのままに、背に付けていた鎌を、背中の丸みを使って反転させながら思い切り振り上げ、コルンブルメへとその凶刃を向ける。

 コルンブルメはやはり、規律に則った正しい対応で完封している。その動きは軍の教本通りの動きであり、マルゲリータとは別の『手練れ』である事を示している。振り、弾き、流し、それら全てが適切なタイミングと適切な膂力で行われ、カウンターも適切に行われる。それらの対応が自然に行われるが為に、彼女の攻撃には乱れが極端に少ない。

 両者の攻撃は、理論も仕組みも異なるのである。

「マルゲリータ!願いは決まったか!?」

 コルンブルメは不敵な笑みを浮かべながら、ツヴァイヘンダーを振り翳す。マルゲリータはそれに対し、刃を沿わせる形で拮抗した。

「そうねッ! 『関わるな』ってトコかしら!!」

 マルゲリータは言葉の末尾に力を込めて発音する。両者の武器が音を立てて衝突し、劈く金属の音が聞こえた直後、また同じような音が両者の間に響いた。

 大剣と大鎌が、強い力で拮抗する。マルゲリータは脚を拡げて大剣を受け止め、コルンブルメは背を屈めて大鎌を受け止めた。コルンブルメはリカッソを鎌の内側に掛け、鎌の向きを引っ繰り返し、真っ直ぐにツヴァイヘンダーを突いた。その切先に対し、マルゲリータは身体を捻る形で直前に避け、大鎌を振り上げる動作を行う。

「——捉えた」

 マルゲリータはそのまま鎌を下から大きく振り上げた。振り上げられた鎌に対して、コルンブルメは咄嗟にツヴァイヘンダーを構えるも、そのまま鎌に身を取られてしまった。マルゲリータの薙ぎ払いと同時に、コルンブルメは大きく吹き飛ばされ——砂埃と共に何処かにぶつかった音が聞こえた。

 マルゲリータは鎌を回し、コルンブルメを吹き飛ばした方向を暫し眺めた。渇いた風が、自身の長丈の薄いコートと束ねた茶髪を泳がせている。すると突然、風が一瞬だけ強く靡いた。マルゲリータは砂が目に入らないよう、両眼を細める。

 瞬間、マルゲリータは吹き飛ばした方向から、強い気配を感じ取った。即座にそれの意味を理解すると、力を抜いていた鎌を即座に構え、強い衝撃に耐え得るよう脚を広げた——それと時を同じくして、コルンブルメの大剣が柄に強く降り掛かって来る。

「ッ、やっぱそうよね……!!」

 コルンブルメの大剣を受け止めながら、マルゲリータは自身の見立てが間違っていなかった事に口角を上げる。

「まだ、死なないさ」

 コルンブルメはツヴァイヘンダーを大きく横に薙ぎ払い、マルゲリータは剣を弾きながら、地面を蹴って後退する。

 コルンブルメは、それに対し容赦なく追撃を行った。長柄の剣である為に、マルゲリータは何度かコルンブルメの切先に掛かりそうになったが、それらの斬撃を絶妙な角度で躱し続ける。

 彼女は反撃の余地がない事を即座に悟ると、鎌を背中に隠し、身のこなしだけで切先を避けていた。

 コルンブルメはそれを認めると、次の攻撃を避けられた瞬間に、大きく剣を振り上げた。間違いなく避けられない間合いにある、マルゲリータの肩へ真っ直ぐに落ちるはずだったそれ。

 マルゲリータはそれを、背に隠していた鎌を回しながら弾き返した。そのまま身体を翻し、コルンブルメに鎌を振り翳す。彼女は剣の鎬に当たる部分を使い、鎌の勢いを削ぐように位置と当たりを調節した。マルゲリータの鎌は大きく透かし、勢い余って地面に突き刺さってしまった。

 マルゲリータは舌打ちしながら地面を引っ掻くように鎌を抜きとると、それと同時に腹部へコルンブルメの大剣が来た事を認識した。

 マルゲリータの背に、冷たい汗が一つ伝う。

 自身の鎌が防御に間に合わない事を悟ったマルゲリータは、歯を食い縛ってコルンブルメの攻撃を受け止める。

 鎬の部分で叩くように放たれた一撃は、マルゲリータの身体を持ち上げて、そのまま剣を薙ぎ払う形で彼女を吹き飛ばした。

 マルゲリータは丸まった状態でそのまま飛ばされ、数秒飛行した後、地面に叩き付けられた。背中全体に痛みはあったが、どこも折れていない。身体が不愉快なまでに丈夫なのは、『天使』の特権なのだろうとマルゲリータは感じる。

 彼女は視線を動かし、側に落ちていた鎌へ手を伸ばそうと身体を動かした瞬間、目の端に仁王立ちしながら切先をこちらに向ける軍人が見え、彼女は身体の動きを止めた。

「勝負あったな」

「……はぁ」

 彼女は倒れた状態で鼻先に見えた、ツヴァイヘンダーの切先を認め、素直に鎌を取る手を諦める。

「はいはい、私の負けね。それで? 何をすればいいの?」

 マルゲリータは大の字で半分自棄になりながら、への字口でコルンブルメに問い掛ける。それに対しコルンブルメは、深い溜息を吐いてツヴァイヘンダーを鞘に戻す。そのまま肩にそれを掛け、目の前で拗ねながら寝転がる雛菊の死神に一瞥した。

「我らが総統の目的はあくまで反共なのでな、中露への防衛を目的に動く」

 コルンブルメは軍帽を被り直し、コートのポケットに手を入れてから告げる。

「ついては、日本に向かいサクラコと話を付けてくれ」

 マルゲリータはそれを聞いて、下半身の飛躍のみを使って立ち上がると、側にあった鎌を手で拾い上げた。

「……サクラコが断ったらどうするつもり?」

「断らんさ。日本が『帝国』である限り、な」

 コルンブルメの見透かしたような不適な笑みに、マルゲリータは深い溜息を吐いた。


***


 国防省のとある1室。1人用ソファの椅子が机を隔てて対に置かれた、少人数専用の話し合いの場に、桜子と左は待機していた。

「……時間、5分過ぎてるんだけど」

 左が腕時計を見ながらそう言うと、桜子は一つ息を吐いてから口を開いた。

「彼女は5分遅れて入ってくるのよ、凡ゆる場面でね。……ほら」

 そう言った直後に、桜子は何かを感じ取ったようで、扉の方を振り向いた。

 その数秒後、扉を押す音が室内に響くと、入って来たのは黒服に身を包んだ男だった。それに続いて、杖を突いた淑女が入ってきた。

「3日振りだね、サクラコ!」

 入ってきた淑女は簡素で古風なメイド服に身を包んでおり、にこやかに桜子ヘ挨拶を投げる。桜子はそれに対し、「えぇ」とだけ返すと、隣のソファを指し示した。

「おや、失礼」

 淑女は杖を傍らに置き、そのままソファに座り込み、スカートとエプロンに出来た皺を直しながら桜子に雑談を投げ掛ける。

「いや〜、やっぱココは良い国だね!その辺の店で食べる適当なサンドイッチの美味しい事!」

 『下手したらウチより美味しいかもね!』と、黒服の付き人に話し掛けるメイド服の淑女——ロザリオは嬉しそうな口調で、目の前の少女に視線を戻す。

「あらそう、良かったわね」

 桜子はそう答えながら、ロザリオの対面に用意したソファに腰を下ろす。相手の言葉に対して表情を変えずに答える桜子の、その一見冷たい対応にもロザリオは随分慣れたらしく、変わらず微笑みながら会話を続ける。

「それで、考えてくれたかい?」

 ロザリオの言葉に対し、桜子は組んでいた脚の上に肘を着いて頬杖を突く。そうして顎を指で叩きながら、彼女に答えた。

「そうねぇ。私はあんまり『御国柄』には首を突っ込みたくないのだけれど」

 桜子は机の上に置かれた1枚の紙を眺めながら、ボソッと呟いて答えた。

「そうだね〜。ま、キミは争いが嫌いだもんな」

 ロザリオは傍らに置いていた杖を手に取って、取手に彫刻された獅子のエンブレムを顎の先端に当てながらぼんやりと呟く。

「でもねサクラコ。ボクはこの計画、やっぱりキミが適任だと思うんだ」

「……そう、根拠はあるの?」

 桜子が問い掛けると、ロザリオは瞼を閉じながら悠々と答える。

「だって、お互い君主がいるだろ?」

 ロザリオの言葉に対し、桜子は動きを止めた。そうして、彼女は真っ直ぐに相手の青い瞳へ強い情を訴え掛けた。

「……おっと失礼。でも言いたいことは変わらない。『彼女ら』はそもそも反君主だ。このまま放ってしまったら、彼女はボクらに手を出しかねない」

 桜子はロザリオの言葉を黙って聞いていた。彼女の言葉は説得力に富んでいるが、同時にそれら全てが建前の可能性もある。桜子は、ロザリオの放つ結論を知りたかった。

「だからね、サクラコ。ボクの手を取って欲しい。悪いようにはしない、ボクはキミのこと、結構気に入ってるからさ」

 ロザリオは机の上にあった1枚の紙を、そっと桜子の方へ勧める。そうして海の如く青い瞳を桜子に向け、ゆっくりと微笑んだ。その微笑みはロザリオらしい謀りが見える、吸い込まれるような恐ろしい笑みであった。

「フランスの『天使』、『アイリス号』の暗殺計画……。ボクとしては、相乗りして欲しいんだけどね?」

 置かれた紙の上には、1枚の顔写真——ポニーテールの美女が映ったそれ——と、彼女の詳細が事細かに記されていた。言うまでもなくその情報は、フランスの『アイリス号』のものであった。

 桜子の表情から静かに穏健さが消え、それと同時にこの場の空気がうっすらと変わるのを、ロザリオは見逃さなかった。

女の子版ジョン・ウィックまでそろそろだァ…

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