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名もなき灯火  作者: 富賀見 みあ
名もなき灯火

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エピローグ

それは、名前のない物語だった。


誰が語ったわけでもない。

記録に刻まれたわけでもない。

けれど、どこかの村で、風が吹くたびに思い出される声がある。


「灯ってるね」

そう言って微笑む、名もなき少女の面影。


その光景を、誰かが夢で見たことがある。

あるいは、まだ見ぬ未来で語られる、物語の始まりかもしれない。


高くそびえた祝式の塔の石壁に、その名は刻まれていない。

けれど、観測官たちの間ではときおり噂が流れる。


「制度の圏外で、式が効かない空間が広がっている」

「そこでは記録が消える。でも、不思議と誰も争わない」


そこに在るのは、“ただ、在ること”を受け入れた人々。

記録されなくても、誰かのために灯をともす者たち。


それは、かつて名もなく生きた誰かが、

世界に残した、“答えのない祈り”の続きだった。


一方で、ひとつの観測端末の中には、

暗号化された古い記録が残っている。


━━━━━━━━━━━━━━━

記録者:カイン・フェルネス

記録対象:なし

観測備考:確かにそこに“在った”こと。

記録せずとも、忘れたくないこと。

━━━━━━━━━━━━━━━


その端末は、もう使われることはない。

ただ、静かに保存され、時折誰かが開いては──


「ああ、ここにも“祈り”がある」と気づくだけ。


やがて時が流れ、物語は変わる。

祝式は更新され、観測の範囲は広がっても、

“記録されない在り方”だけは、どこかに残され続ける。


それはまるで、風のようだった。

目に見えず、手には取れず、けれど確かに頬を撫でる。


人々は、それを“灯”と呼ぶようになった。


名もなく、記録もされなかった存在。

それでも、確かに誰かのなかに残り続ける存在。


それが──

この世界で、いちばん最初に灯された祈りだった。

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