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それは二人の特別な……

 ★NASA公式発表 - プロキシマ探査プロジェクト

「本日、私たちはプロキシマ・ケンタウリ星系で発見された新たな居住可能な可能性を持つ惑星の命名を正式に発表します!」


 NASAのライブ配信が始まり、結城と静流はベッドに並んで座りながら、その瞬間を見つめていた。


「多くの素晴らしい候補の中から、私たちは "Shizuruboshi" という名前を選びました!」


 画面に、プロキシマ・ケンタウリ星系のCG映像と共に、その名が表示される。


 Shizuruboshi – 未来の誰かにとっての夢の星


 静流は息をのんだ。


「……本当に、決まったんだ」


 画面に表示されるのは、静流が願いを込めて送った名前。結城もまた、じっと画面を見つめていた。


「おめでとう、静流……いや、これは、お前だけの夢じゃないな」


「うん……結城と、一緒に叶える夢だよ」


 二人は顔を見合わせる。


 NASAの発表が続く中、静流の手がそっと結城の手を握った。


「私、もっと勉強する。もっと宇宙のことを知りたい。そして、いつか……」


「行こうぜ、"しずるぼし" まで」


 夢を誓い合うように、二人はそっと唇を重ねた。


 ただのキスのはずだった。


 しかし、何かに背を押されるように、結城は静流をそっと押し倒していた。


「……結城?」


 驚いたような静流の声に、結城は息をのむ。


「ご、ごめん……」


「……いいよ」


 静流の頬が、耳まで赤く染まる。


 静かな夜、星々が瞬く中、二人の距離はさらに縮まっていった。


 ***


 翌朝ーー

 静流は、布団の中でじっと結城の寝顔を見つめていた。


 昨夜の出来事が鮮明に脳裏をよぎる。


 恥ずかしさに頬を染めながらも、胸の奥にじんわりと広がる温かい幸福感。


「……だいすき、だよ」


 結城が起きていたら、多分緊張して言えないだろう。けれど、今だけはすんなりと言葉にできた。


 彼の穏やかな寝息に安心しながら、そっと手を伸ばし、結城の髪を優しく撫でる。


 ふと視線を落とせば、彼の胸元や首筋に、昨夜の熱が残した小さな痕がいくつも見える。


 それが、自分が確かに結城を求めた証だと思うと、頬がさらに熱くなった。


 ゆっくりと自分の肩を見下ろす。


 そこには、彼が触れ、唇を這わせた痕――静流自身に刻まれた、結城からの「印」が、昨夜の全てを物語っていた。


 指先でそっとなぞると、くすぐったさと共に甘い疼きが走る。


(……夢じゃないんだね)


 静流は、そっと結城に寄り添いながら、幸せに目を閉じた。


 結城が色々な痕跡を片付けている間、静流はシャワーを浴びてしまう事にした。流石に、シャワーも浴びずに家に戻れるほどの度胸は持ち合わせていないが故に。

 内太腿を流れる液体の感触に不思議な満足感を感じたのは、生涯にわたって彼女の内だけに留められた秘密である。

 ともあれ、痕跡だけはしっかりと流していかねば、あのコイバナ好きの母に何をどれだけ根掘り葉掘り聞かれるか……と内心戦々恐々としていたりもする。

 ほぼ脱ぎ捨ててあったとは言え、事に至る前に服をきちんと脱いでいたのは、昨夜の自分を全力で褒めたかった。

 いつか買った少し攻めた下着も、結城の理性を削り取るのに一役買ったのは間違いない。


「静流、タオル、こっち置いとくぞ」

「あ、ありがと、結城」


 扉の向こうでバスタオルを準備していてくれる恋人の声に、静流は少しばかり気恥ずかしさを感じつつ、悪戯心が湧き上がってくるのも止められなかった


「結城は、入らないの?」

「シーツ取り換え終わったらな」

「……待ってようか?」

「ぶっ……!?」


 扉の向こうで結城が派手にむせる音がした。


 静流は、くすくすと小さく笑いながら、湯気の立ち込める浴室の壁に背中を預ける。


「もう、そんなに驚かなくてもいいのに……」


 自分で言っておきながら、顔が火照るのを感じる。


 昨夜の出来事を思い出すと、ほんの少しだけ大胆になれる気がした。


「……と、とりあえず、お前は先にさっぱりしろ!」


 結城の声が、どこか焦った響きを帯びているのが面白くて、静流はいたずらっぽく微笑んだ。


「うん、でも……一緒に入るのも、悪くないかなって……」


 ほんの冗談のつもりだった。けれど、言葉にした途端、自分の心臓が跳ねるのを感じる。


(……わ、私、何言ってるの……!?)


 ドクン、と胸の奥が熱くなる。


 扉の向こうの結城の沈黙が、妙に長く感じられた。


「ま、また今度な!そろそろ戻らないと、だろ?」

「そ、そうだね!ま、また今度!」


 混乱状態の二人、さらっと凄い事を言ってしまったと気づいたのは、二人ともシャワーを浴びた後だった。


(いや確かに何を今更なんだけど……裸だって、見たし、見られたし……なんならもっと凄い事だってした訳だし……!でも……だからって、一緒にお風呂って……!)


 静流は、髪をタオルで拭きながら、湯上がりの熱が残る顔を両手で覆った。


(あの時の勢いで言っちゃったけど……これって、どういう流れなの!?)


 思わず膝を抱えてベッドに倒れ込む。


 結城の方も、静流の隣で同じようにバスタオルを首にかけたまま、天井を見つめていた。


(……落ち着け俺。もう終わった事なんだから……いや、終わったからこそ、妙に意識しちまうっていうか……)


 彼は腕を組み、ぐっと息を吸うと、横目で静流をちらりと見る。


 静流も、タイミングが悪いことにちょうどこちらを見ていて――


「~~っ!?」


 互いに目が合った瞬間、二人は同時に目をそらした。


 結城は喉を軽く鳴らしながら立ち上がり、無理やり話題を変える。


「よし、とりあえず帰る準備するか!なんか、色々考えると変な汗かいてきた……」


「う、うん!そうだね!そろそろ帰らないと!」


 無駄に大きな声で返事をしながら、静流も慌てて荷物をまとめる。


 結局、"また今度" について深く掘り下げる勇気は、二人とも持ち合わせていなかった。


「じ、じゃあ、結城……また、学校で」

「お、おう!」


 結城の家から戻る前、玄関先で見送ってくれる結城の姿に、静流は軽く周囲を見回して、誰もいない事を確認してから


「一緒に夢、叶えてね?……旦那様」


 少し悪戯っぽい台詞と共に、結城に軽くキスをする。


「……っ」


 不意打ちに、結城がどうしたら良いか判らないでいるうちに……静流はさっと自転車に乗ってこぎ出す。


「じゃあね、結城!」


 そう言い残し、静流は振り返ることなくスピードを上げていった。


 結城は玄関先で立ち尽くし、頬に残る感触と、耳に焼き付いた「旦那様」の言葉を反芻する。


「……いや、ずるくね?」


 ようやく言葉を絞り出したものの、言ったところでどうにもならない。


(くそっ、あの悪戯っぽい顔……!静流、ほんとたまに爆弾落としてくるよな……)


 結城は頭をかきむしると、ため息混じりに笑った。


(……でも、まぁ)


 夜明け前の空を見上げる。


(悪くない、か)


 照れくささと、それ以上の嬉しさを抱えながら、結城は静流の背中が消えた方向をしばらく見つめていた。

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