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星への導、夢への道標

 静流と結城が受験勉強を始めて暫く経った頃……静流に一通のメールが届いた。送信元はNASA


 親愛なる Shizuru Mikagami様、おめでとうございます! NASAの「プロキシマケンタウリ居住可能惑星探査クラウドファンディングイベント」にご参加いただいた数多くの支援者の中から、あなたが抽選で選ばれました。私たちは、あなたに発見された居住可能惑星の命名権を授与できることを、心から嬉しく思います。プロキシマケンタウリ、地球からわずか4.2光年先に広がる未知の世界。その星系で、私たちの探査機が新たな希望の地を見つけました。そこは、もしかすると青い海が広がり、風がそっと草木を揺らす、生命の可能性を秘めた惑星かもしれません。そして今、その名前を決める権利が、あなたの手に委ねられました。命名の手続きについて:以下の返信フォームに、あなたが希望する惑星名とその理由を記入し、2025年12月10日までにご返信ください。

 提出された名前は、NASAの天文学チームによる最終確認を経て、正式に採用されます。

 命名が決定次第、開催予定のオンライン発表イベントで、あなたの名前と共に新惑星名が世界に公開されます。


 Shizuru Mikagami様、あなたの150円が、宇宙への扉を開きました。そして、あなたの想像力が、星図に新たな一ページを刻みます。どんな名前を選ぶのか、私たちも楽しみにしています。返信をお待ちしております。星空の下で、

 NASA プロキシマ探査チーム


 そのメールを、静流は信じられないとばかりに3回ほど確認していた


「……うそ、でしょ?」


 静流は目をこすりながら、画面に映るメールを再確認した。NASAの公式アドレス、文面の整合性、イベントの詳細——どこをどう読んでも、これは本物だった。


「え、えぇ……?」


 驚きすぎて声が裏返る。冗談半分で応募した、150円の夢。その夢が、現実になってしまった。


 手の震えを抑えながら、静流はスマホを握りしめて結城のもとへ走り出した。


「結城!!」


 部屋のドアを勢いよく開ける。結城は参考書をめくっていたが、突然の静流の形相に目を丸くする。


「お、おう、どうした静流?」

「……これ!」


 勢いのままにスマホを差し出す。


「?」


 結城は訝しげに画面を覗き込み、メールの内容を読み進めるうちに、徐々に表情が変わっていった。


「え、ちょっ、お前マジか!?NASA!?名前!?命名権!?お前が!?」


「そう!みたい!!」


「はぁぁ!?すげぇじゃん!!」


 二人の声が夜の家に響く。


「ど、ど、ど、どうしよう!?え、私が名前をつけるの!?そんな、大それたことしていいの!?」


「いいんだよ!!NASAがそう言ってるんだから!!お前の150円が、星を手に入れたんだぞ!?」


「そ、そんなこと言われても……!」


 静流はふるふると首を振る。夢みたいな話だった。本当に夢かもしれない。でも、心臓の高鳴りと、結城の興奮した声が、この出来事が現実であることをはっきりと告げていた。


「名前……名前、どうしよう……!」


 静流の脳裏に、ある言葉がよぎる。10年前の記憶、二人で夜空を見上げた日。


 結城も、同じことを思い出したのか、ゆっくりと静流の肩に手を置く。


「……決めてたんじゃないのか?」


 静流は息をのむ。結城の瞳が、自分の心を見透かしているようだった。


「……うん」


 静かに頷く。彼女の心の中には、ずっと昔から、たった一つの名前が決まっていた。


「しずるぼし」


 静流の心の中にずっとあった名前。


 それは彼女が幼い頃、結城と夜空を見上げながら語った、想像の星の名前。土星を指して、子供らしい無邪気な発想で「しずるぼし」と名付けたあの日。その記憶が今、静流の中で鮮明に蘇る。


「……ほんとに、これでいいの?」


 静流は、震える指でスマホの返信欄を見つめる。


「いいんだよ」


 隣で結城が微笑む。


「ずっとお前の中にあった名前なんだろ?だったら、それが一番ふさわしいじゃん」


「……うん」


 静流は深呼吸をし、返信欄に指を滑らせた。


 命名希望名:Shizuruboshi

 命名理由:This star is the origin of my dreams and the symbol of the longing I held for the night sky. The name "Shizuruboshi," which I gave it as a child, was the special name of the star that sparked my fascination with the universe. Now, everything that drives me to pursue astronomy lies here. I hope that this star will one day become a dream star for someone in the future.

(この星は私の夢の起源であり、夜空への憧れの象徴です。子どもの頃に私が「シズルボシ」と名付けたこの星は、宇宙への興味を掻き立てた特別な星でした。今、私を天文学の追求へと駆り立てるすべてがここにあります。この星が将来、誰かの夢の星になることを願っています。)

 すべてを打ち終え、静流はゆっくりと送信ボタンを押した。


 送信完了


 画面にそう表示された瞬間、静流はそっと息を吐いた。


「……行っちゃった」


「行ったな」


「……もう、戻せないね」


「戻さねぇよ」


 結城の言葉に、静流は小さく笑う。


 夜空のどこかにある、まだ誰も見たことのない惑星——そこに、静流の夢の名前が刻まれる。


「ありがとう、結城」


 静流がそう呟くと、結城は「おう」と短く答えた。


 二人の上には、無数の星が静かに輝いていた。


 ***


 NASA プロキシマ探査チーム - ミッションルーム

「お、命名希望の返信が来たぞ」


「どれどれ……」


 PCモニターに映し出されたメールを覗き込み、プロジェクトチームのスタッフが肩を寄せ合う。


「Shizuruboshi……"しずるぼし"か?」


「初めて聞く単語だな。意味は?」


「メールの内容を見る限り、個人の想いが込められた名前みたいだな。幼少期からの夢の星の名前か……」


「……なんか、ロマンチックじゃない?」


「だなぁ……こういうの、俺は好きだよ」


「命名の理由もいいな。"未来の誰かにとっての夢の星になりますように" だってさ」


「いいねぇ……この子、天文学を志してるんだな。150円の寄付が、自分の夢を宇宙へ繋げるチケットになるとは……」


「いや、これさ……決まりでいいんじゃないか?」


「まぁ、規則上、最終審査が必要だけど……」


「でも、正直言って、めちゃくちゃ"アリ"な名前だと思う」


「Shizuruboshi……うん、悪くない」


「"しずる"って響きもいいし、日本語の音感がそのまま星の名前として馴染むのもポイント高いな」


「OK、上に報告しよう。しずるぼし、正式採用の候補リストに入れる」


「決定したら、このShizuru Mikagamiさん、めちゃくちゃ喜ぶだろうな」


「……メールの最後の一文、なんかグッとこないか?」


 "どうか、この星が、未来の誰かにとっての夢の星になりますように。"


 静かなミッションルームに、一瞬の沈黙が落ちる。


「……なあ、俺たち、こういうののためにこの仕事やってるんじゃないか?」


「だな」


「宇宙の彼方に、彼女の夢を刻もう」


 スタッフは互いに頷き合い、モニターの前で静かに微笑んだ。

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