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教室の中のめんこい彼女

 ★ めんこい彼女~別に付き合ったりしてるわけじゃねぇ!~

 教室の昼休み。結城は机に突っ伏して、朝の畑仕事の疲れを癒そうとしていた。そこへ、猪俣がニヤニヤしながら近づいてきた。


「ところでさ、日野」

「なんだよ」


 結城が眠そうな目で返す。


「お前、藤原か水鏡のどっちかと付き合ってるの?」


 ガン!

 結城が勢いよく机に頭を打ち付ける。教室が一瞬静まり、近くの生徒が「大丈夫かよ」と笑う中、結城が顔を上げて猪俣を睨む。


「……どっから出てきた、その訳の分からん怪情報」


 猪俣が肩をすくめる。


「いやだってさ、転校初日に藤原の『旦那』発言だろ? 天文部入ってからは水鏡と見つめ合ってるって話も多いし」


 結城が少し考える。

 確かに……櫻のあれは人懐っこさを差し引いても、甘え方が異常だ。静流とは見つめ合ってるってより、何話すか分からなくて目が合うだけなんだが……

 はたから見ると、そう見えるのかもしれない。

 鈴木が横から割り込む。


「つか、うちの学校でかなり美少女に入るからな、あの二人」


 別の男子が頷く。


「3年の西行寺先輩とかともいい勝負だよな」


 話が耳に入ったのか、男連中が寄ってきて好き放題喋り始めた。


「西行寺先輩、マジで綺麗だぜ。モデルみたいだし」

「でも藤原の元気っ子な感じも捨てがたいよな」

「水鏡はクールビューティーって感じでさぁ……」


 結城がぼそっと呟く。


「そんな美人いるのか」


 猪俣が目を光らせる。


「お、興味ある?」

「そりゃ、な」


 結城が素直に返す。男同士でバカ話するのは嫌いじゃない。東京じゃ友達と似たような話はしてたけど、こっちじゃきっかけがなかっただけだ。

 猪俣が笑う。


「つっけんどんな奴かと思ってたけど、面白れぇやつだな」

「そうか? こんなもんだろ」


 結城もつられて笑う。確かに、口の端が上がってた。

 一方、教室の隅でその会話を聞いてた櫻は、少し不機嫌そうな顔をしていた。薄桜色の髪を指でいじりながら、ぶすっとした表情で呟く。


「そりゃ、西行寺先輩は綺麗な人だけどさ、ゆーきもさっそく浮気とか酷いんでないかい?」


 近くにいた酉城が櫻の肩をポンと叩く。


「そうやってネタにしてられる内は大丈夫だって。大体、櫻の親御さんだってそこまで本気じゃねぇだろ?」


 櫻が「むぅ~」と膨れる。


「でもさ、ボクの旦那様が他の女の話で盛り上がるなんて、ちょっとムカつくべさ!」


 酉城が豪快に笑う。


「お前なぁ、日野がそんな気分でもねぇって顔見りゃ分かるだろ。疲れてんだよ、ほっとけ」


 結城は遠くで櫻のぶすっとした顔に気づく。

 なんだよ、あいつ……俺が誰かと話しただけで機嫌悪くなんのか?

 内心で呆れるけど、櫻のジト目がちょっと「めんこい」――いや、かわいい――と思えてしまう自分がいて、少し焦った。


「おい、櫻。睨むなよ、別に付き合ってねぇって」


 結城が声をかけると、櫻が「ふ~ん」と鼻を鳴らす。


「ならいいけどさ、ゆーきはボクの旦那様なんだから、ちゃんとボクのこと見ててよね!」


 腕を絡めてくる。結城は「離れろ」と振りほどこうとするけど、疲れてて力が弱い。

 猪俣がニヤニヤしながら言う。


「ほら、やっぱ付き合ってるっぽいじゃん」

「ねぇよ!」


 結城が即否定するけど、教室に笑い声が響く。

 美少女とか旦那とか、めんどくせぇ……でも、このバカ騒ぎ、嫌いじゃねぇな

 結城はため息をつきつつ、どこか楽しげな空気に馴染み始めていた。

 遠くの窓際で、静流がノートを手に静かに笑ってるのが見える。櫻が「しずるちゃんも何か言ってよぉ!」と絡みに行く。結城の頭に「こわい」がちらつくけど、この騒がしさは少しだけ心地よかった。

 付き合ってるわけじゃねぇけど、こいつらと一緒にいると、田舎も悪くねぇのかも……いや、やっぱ疲れるだけか?


 ★ 美少女だらけの田舎

 教室の隅で、櫻と静流の会話が続いていた。結城は机に突っ伏したまま、半分眠りながらその声を聞いている。


「というか、西行寺先輩の名前が出ただけだよ。落ち着こう? さくら」


 静流が穏やかに言う。でも、櫻はまだぶすっとした顔で反論する。


「だってしずるちゃん、あの『ウチに入学した男子が必ず一度は恋をする』なんて言われてる西行寺先輩の話題だよ? しかも西行寺先輩っていっつも神城先輩と一緒だし!」


 静流が少し目を細めて頷く。


「神城先輩も、可愛い人だよね。髪とかすごく長いし」


 二人は話題の先輩たちの容姿を思い出したのか、「はぁ」とため息を吐く。櫻が髪を指でくるくる巻きながら、


「西行寺先輩って、ほんとモデルみたいだべさ。神城先輩もあの長い髪でさ、めっちゃめんこいよねぇ……」


 結城は寝ぼけ眼でチラッと二人を見る。

 ため息ついてんじゃねぇよ。お前らだって十分やべぇだろ……

 そこへ、酉城が軽くため息をつきながら割り込んできた。


「おいおい、お前ら自身も超の字が付く美少女だってのを忘れるなよ?」


 櫻が「え~?」と首をかしげ、静流が小さく笑う。酉城が続ける。


「マジでさ、3年の2トップが西行寺と神城なら、2年の2トップはお前らだぜ? 学校じゃ人気もんじゃねぇか」


 櫻が少し照れたように笑う。


「そ、そうかなぁ? ボクなんてただ元気なだけだべさ」


 静流が静かに補足する。


「でも、さくらちゃんは明るくてみんなに好かれるし、私もよく『クールだね』って言われるから、そういう意味では確かに人気なのかも」


 結城が顔を上げてぼそっと言う。


「お前らが美少女なのは認めるけどさ、ため息つくほど西行寺先輩ってやばいの?」


 櫻が即座に反応する。


「やばいよぉ! 西行寺先輩って、入学式で見た時から別格だったべさ! 髪サラサラで、顔ちっちゃくて、雰囲気まで綺麗なんだもん!」


 静流が頷く。


「神城先輩も負けてないよ。髪が腰まであって、歩くたびに揺れるのが印象的で……」


 酉城が笑いながら言う。


「なぁ、日野。お前も一回見りゃ分かるぜ。3年の教室覗いてみ? 男子全員目がハートだかんな」


 結城が「へぇ」と気のない返事をする。

 美少女だらけかよ、この田舎……東京じゃアイドルでもねぇ限りこんな話にならねぇぞ

 櫻が急に結城に絡む。


「ねぇ、ゆーき! 西行寺先輩に会ったら、ボクのこと忘れないでよね? 旦那様なんだから!」

「忘れねぇよ、うるせぇから。つか、俺は別に誰とも付き合ってねぇって」


 結城が振りほどこうとするけど、櫻はニコニコしたまま離れない。

 静流が小さく笑う。


「結城、さくらちゃんに絡まれるの慣れてきたね」

「慣れたくねぇよ……こわいだけだ」


 結城がぼやくと、櫻が「こわいって、疲れるって意味だべさ! ボクに絡まれるのが疲れるなんて酷いよぉ!」と膨れる。

 酉城が肩を叩いてくる。


「まぁ、この学校じゃ美少女に囲まれるのは仕方ねぇぜ。日野もそのうち慣れるって!」


 慣れるつもりはねぇけど、この騒がしさ、ちょっとだけ面白ぇな……

 結城は内心で苦笑しつつ、櫻の絡みと静流の視線に囲まれる教室を見回す。

 西行寺先輩か……一回見てみっか。でも、こいつらで十分めんこいだろ、実際

 櫻が「ゆーき、次はボクと一緒に先輩見に行こうねぇ!」と騒ぎ出す。結城の頭に「こわい」が響きつつも、どこか楽しげな空気が流れていた。


 ★ めんこいの誤解

 教室の隅で、櫻と静流の先輩談義が続く中、結城はふと口を開いた。


「それに、実際お前らはめんこいと思うぞ」


 一瞬の沈黙。


「ふぇっ!?」


 櫻と静流が同時に、よく分からない声を上げる。櫻の顔が真っ赤になり、静流は目を丸くして固まる。


「ななななななっ!」


 櫻が半ばパニックで手をバタバタさせる。静流が慌てて櫻の肩を押さえつつ、結城に目を向ける。


「結城、使う時は気を付けたほうがいいよ? 『めんこい』って、確かに人にも使うけど……」


 静流が少し照れながら説明を始める。


「子供っぽい可愛さを愛でる時によく使うから。それと、動物が『めんこい』とか、そういうニュアンスもあるしね」


 結城が「は?」って顔をする。


「え、俺、変な意味で言ったのか?」


 櫻がまだ赤い顔で喋る。


「ゆ、ゆーき! ボクらを子供っぽいとか動物みたいとか思ってるの!? 酷いべさ!」


 腕を絡めて抗議してくる。結城は「離れろ」と振りほどこうとするけど、疲れてて力が弱い。

 静流が小さく笑いながら補足する。


「ううん、そういう意味じゃないと思うけど……『めんこい』って、たとえば子犬とか赤ちゃんに言う感じが強いから、ちょっとびっくりしただけだよ」


 酉城が遠くから笑いながら割り込む。


「おい、日野! お前、櫻と水鏡を子犬扱いしたのか? めっちゃめんこい反応じゃねぇか!」


 櫻が「酉城君まで!」と叫び、結城をさらに睨む。


「ゆーき、ボクのこと子犬だなんて思ってないよね!? ねぇ!」


 結城がため息をつく。


「思ってねぇよ。ただ、お前らが可愛いって意味で言っただけだ。ややこしい単語教えんなよ、静流」


 静流が苦笑する。


「ごめんね。私もさくらちゃんがこんなに慌てると思わなくて……」


 櫻が「むぅ~」と膨れつつ、結城に絡み続ける。


「ならいいけどさ! でも、ゆーきがボクをめんこいって言うなら、ちょっと嬉しいかも……いや、ダメだべさ! 子供っぽいのは嫌だよぉ!」


 結城が呆れた顔で言う。


「お前、どっちだよ。めんこいって褒めてんのに、めっちゃこわいわ」


 静流がクスッと笑う。


「『こわい』は疲れるって意味だよね。結城、だいぶ方言慣れてきたね」

(慣れたくねぇよ……でも、この騒ぎ、確かに可愛いっちゃかわいいな)


 結城は内心で苦笑しつつ、櫻のバタバタと静流の穏やかなフォローを眺める。

 酉城が肩を叩いてくる。


「なぁ、日野。お前、めんこいって言われて慌てる二人を見て、どう思う?」

「疲れるだけだよ。こわいしかねぇ」


 結城が返すと、教室に笑い声が響く。

 櫻が「ゆーき、次はちゃんと『可愛い』って言ってよね!」と絡み、静流が「もういいよ、櫻」と宥める。結城の頭に「めんこい」と「こわい」が混ざりつつ、この田舎の騒がしさが少しだけ愛おしく感じられた。

 田舎暮らし、こわいばっかだけど、こいつらのめんこさには敵わねぇな……いや、やっぱ疲れるだけか?

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