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時として大切な事は一瞬で決まる

 シュールだった。

 間違いなく美少女に分類される静流と櫻が簀巻きにされているのはこの上もない位シュールだった。


「……また面白いもん口にしたわねぇ」

「ホント、ウイスキーボンボンとチョコレートボンボン間違えたとかお約束で済むかと思ってたんですが……」

「とりあえず、二人は私が送るから、少し冷静になって来なさい?……流石に今女の子に触れるのはまずいでしょ?」


 理解されていたのが少し悲しい結城は、すごすごと引き下がる。


「……さて、結城君も聞こえない所まで移動しただろうし、もう二人とも「シラフに戻って」も良いと思うけど?」

「……はい」

「うぅ……まさかあそこまで止まらなくなるなんて……」


 静流と櫻が、簀巻きにされたまま顔を見合わせる。西行寺先輩の言う通り、もう意識ははっきりしている。問題は――


「しずるちゃん……」

「……うん、やっちゃったね、さくらちゃん……」


 ――二人が完全に素面になったことで、自分たちがどれほどヤバい行動をとっていたのかを自覚したことだった。


「ど、どどどどうしよう!?ボク、めっちゃゆーきに甘えたべさ!!!」


「わ、私なんて……あんな……その……し、ししししししし!!!」


 静流は顔を真っ赤にしてジタバタと簀巻きのまま暴れる。櫻も同様にゴロゴロと床を転がる。


「はいはい、暴れない暴れない。……というか、思ってた以上に二人とも色々溜まってたのねぇ」


 西行寺先輩が溜息をつきながら二人を見下ろす。


「……まぁ、結城君がどう思ったかは知らないけど、彼、割と鈍感だから、そこまで深くは考えてないんじゃない?」


「うぅ~~~……それはそれで悲しい!!!」


「じゃ、じゃあ……この際……はっきりさせた方がいいのかな……?」


「……しずるちゃん?」


 静流の表情が、どこか決意を秘めたものに変わる。


「……だって、あんなことしちゃったんだよ?今さら、何もありませんでした、なんて……」


「うっ……そ、そうだけど……」


 櫻も、頬を染めながら目をそらす。


「――そろそろ潮時、ってことかもね」


 西行寺先輩が、どこか意味ありげな笑みを浮かべる。


「……さて、あんたたち、これからどうするの?」


 ***


 静流と櫻が何かを相談し始めたころ……


「……最低だ、俺って……」


 結城は一通りすっきりさせてから、自己嫌悪に陥っていた。


「はぁ……マジで最低だ、俺……」


 勢いでシャワーを浴びてきたものの、冷水を浴びても、頭の中はさっきの出来事でぐるぐるしていた。


 静流と櫻――二人の柔らかい感触、甘い声、無防備な仕草。


(ダメだろ、あれは……!)


 いくら酔ってたとはいえ、二人は結城に完全に身を預けていた。それなのに、結城は自制するどころか、危うく流されるところだった。


(……いや、ほんとに流されかけたよな……)


 結城はゴツンと洗面台に頭をぶつける。


「あー、バカか俺は!!」


 こういうところがダメなんだ、と自覚している。どっちつかずで、優柔不断で、結局曖昧なままで――。


「……はぁ、マジでどうするかな……」


 静流と櫻、二人とも大切で、どちらかを選べばもう一人を傷つける。


 今までは「二人を傷つけたくない」という理由で答えを出せずにいたが――


(……それって、結局、自分が傷つきたくないだけだったのかもな)


 結城は冷たい水をすくって顔にかける。


 今頃、静流と櫻はどんな顔をしているだろうか。怒ってるのか、呆れてるのか、それとも――


「……なんか、すげぇ怖いんだけど……」


 あの二人が何かを相談し始めたら、ろくなことにならない予感しかしない。


 結城はため息をつきながら、そっと自分のスマホを手に取った。通知は――


「……めっちゃ来てるじゃん……」


 静流と櫻、そして西行寺先輩からのメッセージが、大量に溜まっていた。


「…………」


 結城は、スマホを持ったまま硬直していた。


『あのね……好きでもない人に、あんなことしない、から』

『あの続きって……したい?』


 それぞれ違うメッセージなのに、伝えようとしていることはどこか似ている。


「…………うそだろ」


 静流も、櫻も、真剣に、結城の答えを求めている。


 今までは、なんだかんだで「選ばない」ことで誤魔化してきた。

 でも、もう――それは通用しない。


(……俺は、どうしたいんだ?)


 結城は、ごくりと息を飲み込む。


 スマホを握る手が、少し震えていた。


『選べるのは、一人だけよ?まー散々悩んでたし、今更だとは思うけどね?』


 西行寺先輩からのメッセージが軽く追い打ちをかけてきた。

 ただ、言われるまでもなく、結城の気持ちは決まっていたのかもしれない。

 結城はメッセージアプリを立ち上げると、通話を送る。


 コール音が鳴る。


 1回、2回、3回――


「……もしもし?」


 静かな声が応答する。


「……しずる、俺さ――」


 結城の言葉に、電話の向こうで小さく息をのむ音がした。


「うん、聞くよ」


 迷いを振り払うように、結城は静かに、けれどはっきりと口を開いた。


「なぁ、静流……俺さ、お前が好きだ」


 それが口に出てしまえば、その後の、素直な気持ちを外に出すのは簡単だった。


「前に、言ってくれたよな、日野結城を愛してるって」

「……俺もだ、水鏡静流を、愛してる」


 電話の向こうから、言葉にしたいけれど、上手く言葉にできない雰囲気が伝わってくる。


「ねぇ……結城……」

「あぁ……」

「メッセージとか、電話とかじゃなく、直接言いたいの……こっち、来てもらっていい?」

「……判った」


 静流の声は震えていた。けれど、それは不安や迷いではなく、嬉しさと高揚のせいだと結城は感じた。


「今から行く」


 そう告げると、静流が小さく息をのむ音が聞こえた。


「うん……待ってる」


 通話を切り、結城は一つ深呼吸をする。夜の冷たい空気が、熱を帯びた頭をほんの少しだけ冷やしてくれる。


(ちゃんと、言葉にして伝える)


 それがどれだけ大切なことなのか、ようやく理解できた気がした。


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