酔った勢いで……やらかす三人
どこで何を間違えたのだろうか。
右腕を静流に、左腕を櫻にホールドされて、結城は遠い目をしながら考える。
目の前には、この状況の原因となったチョコレートの箱。
ただのチョコレート菓子を貰ってきた積りが、これ、ウイスキーボンボンだった。
「……いや、マジでどこで間違えた?」
結城は頭を抱えながら、目の前のチョコレートの箱を見つめる。どうしてこうなった。
「ゆーき……」
右側で静流が、少し頬を紅潮させながら、結城の腕にぎゅっとしがみついている。
「ゆーき~、あったかいべさ~」
左側では櫻が、まるで猫のように甘えた声を出しながら、結城の肩にもたれかかっている。
(なんで俺、両腕ふさがってんの……?)
確かに、ウイスキーボンボンはアルコール入りのお菓子だ。でも、こんなに効くものだったか?
「なぁ、二人とも、ちょっと落ち着こうか?」
「ん~? 落ち着いてるよ~?」
「結城……私ね、すっごく幸せ……」
(ダメだ、これ完全に酔っぱらってる……!!)
結城は絶望しながら、目の前のチョコレートの箱をもう一度睨んだ。
『ウイスキーボンボン……の中身がウイスキーだと誰が決めた?馬鹿め中身はウォッカだ!』
殴りてぇ、この商品考えた奴を思いっきり殴りてぇ。心の底から結城はそう考える。
というかウォッカをチョコレートの中に入れるな、こいつ等そんな純アルコールみたいなもんよく飲み込めたな、とか色んな思考が脳裏を過る。
「ん~……ゆーきぃ……」
「にゃふ~……」
そして、なんだか甘い吐息をこぼしながら結城に身を摺り寄せる女子二人。
「……ちょっと、あついかも……」
「ん~……」
いやなよかん。結城の脳裏にその6文字が燦然と輝く。そう、これはいうなればフラグという奴だろう。
(あ、これヤバい)
結城の脳裏に、赤色警報がけたたましく鳴り響く。
「……お前ら、本当に大丈夫か?」
そう言いながら、静流と櫻の様子を確認するが、どう見ても“大丈夫”とは言えない状態だった。
静流はほんのりと頬を染め、潤んだ瞳でじっとこちらを見つめてくる。普段の穏やかで理知的な雰囲気はどこへやら、今の彼女はどこか無防備で甘えた雰囲気を醸し出していた。
「ねぇ……ゆーき……なんで、そんなに離れようとするの……?」
「いや、別に離れようとしてるわけじゃなくて……」
「むぅ……」
静流がほんの少しだけ唇を尖らせ、結城の腕にぎゅっと力を込める。
(やばい、可愛い……じゃない、違う違う!)
左側では、櫻が結城の肩にもたれかかりながら、ふにゃっとした笑顔を浮かべていた。
「んふふ~……なんかさぁ、ボク、あったかくなってきたかも~……」
「お前、完全に酔ってるだろ……」
「ん~……ボクね~、ゆーきにもっと近づきたい気分だべさ~……」
「いや、ちょっと待て、本当に待て、落ち着け!!」
焦る結城をよそに、静流と櫻の顔がじわじわと近づいてくる。
(くそっ、誰だよウォッカ入りのウイスキーボンボンなんて考えたやつ!!)
殴りてぇ。心の底からそう思う結城だったが、今まさに目の前で起こっている“想定外の事態”に対処しなければならなかった。
しかし――
「……ゆーきぃ……」
「……ん~、もっと……」
静流と櫻の熱のこもった吐息が、結城の耳元をかすめる。
(え、ちょっと、本当にこれヤバくね!?)
――少年、人生最大の試練に直面す。
静流の、クラスでもトップ10と言われている胸がぐいと結城の身体に押し付けられる。
櫻は、静流に比べれば相当に平たいが、薄着になった事で、小さいながらもはっきりとした膨らみが結城の腕を挟んでいる事が理解できた。
「な、なぁ、お前ら?少し離れてくれないか?」
「え~……」
「やらぁ~」
二人とも、柔らかい圧による加圧の継続を宣言。
それは結城の理性が相当に揺らぐという結果を導き出す事を容易に想像させた。
(まずい……このままじゃ……)
そうでなくとも自分の理性に自信が持てない男子高校生がこんな無防備な事をされては、このまま間違いが起こったとしても不思議ではない。
場合によっては、二人の母親に一人の父親となる可能性も全く否定できない。
(ダメだ、絶対にダメだ!!)
結城の脳内で警報が最大音量で鳴り響く。
今の状況を冷静に考えろ、と自分に言い聞かせる。目の前にはウォッカ入りウイスキーボンボンの被害者が二名。しかも、その二人は――
「ん~……ゆーきぃ……」
「もっと……んふふ……」
――明らかに理性が崩壊している。
静流の、クラスでもトップ10に入ると称される胸の感触。櫻の、小さいながらも確実に存在を主張する膨らみ。
(い、いかん……これは男子高校生にとって完全にアウトな状況だ……!)
結城は必死に逃げ道を探す。が、静流は右腕をしっかりとホールドし、櫻は左腕にべったりとしがみついている。
「……俺の理性がもたねぇ!!」
必死の叫び。しかし、二人は甘えた声でさらに密着してくるだけだった。
(ダメだ……これは……)
理性が限界を迎える、まさにその瞬間――
「結城君、何やってんの?」
その声が、天啓のごとく降り注いだ。
「っ!?」
びくっと反応した結城が振り向くと、そこには腕を組んで仁王立ちする西行寺先輩の姿があった。
「……アイツから連絡があったけど、まさかこんな面白い事になってるとはねぇ……」
「せ、先輩……!」
「とりあえず、あんたら二人はこっち来なさい。結城君、キミも。」
「は、はい!!」
こうして、結城は無事に命拾いをしたのだった――。




