意識する二人
ふと、静流に目が行く。
静流のちょっとした動きが、目につく。
演劇に引っ張られ過ぎだと自嘲しながら、結城の中で、静流がほんの少しだけ大きくなっていた。
「……どうしたの?結城」
視線に気づいたのか、静流がきょとんとした表情で結城に問いかける。
「いや、何でもない」
結城は、少し視線をそらして、そっけなく答えた。
静流の髪が風に揺れる。
秋の日差しが、その白に薄く水色の髪をやわらかく照らしていた。
ふと、静流のちょっとした動きが目につく。
普段なら気にも留めない仕草、指先で髪を軽く整える様子や、視線を落として何かを考えている横顔。
それがやけに気になってしまう。
(……演劇に引っ張られ過ぎだな、俺)
そう自嘲しながらも、結城の中で静流がほんの少しだけ大きくなっていた。
「……どうしたの?結城」
視線に気づいたのか、静流がきょとんとした表情で結城に問いかける。
ほんのわずか、首をかしげる仕草が、結城の胸に妙なざわめきを生む。
「いや、何でもない」
結城は、少し視線をそらし、そっけなく答えた。
静流は、一瞬だけ不思議そうに結城を見つめ、それからふっと微笑んだ。
「そっか」
その笑顔が、どこかくすぐったくて、結城は無意識に拳を握る。
(なんだ、これ……)
自分でもよく分からない感情が、胸の奥で静かに波紋を広げていくのを感じていた。
「結城、あなたが好きだよ」
それは夢、自分でも夢だとはっきりと判る夢。
結城に告白する自分を第三者の視線で見続ける夢。
ただ、その日は夢の続きが少し違った。
自室で、手をつないだままの自分と結城が、ベッドに腰かける。互いに見つめ合ったまま、二人の顔が少しずつ近づき……
「うわぁっ!?」
静流は自分の叫び声と体を急に起こした衝撃で目覚めた。
「な……なんて夢……!」
……驚いたけれど、そこで少し考えて……
静流はもう一度布団に潜り込む。
まだ起きるまで時間はある、もしかしたら、その続きを見られるかもしれないと、淡い期待を抱いて
しかし、そう都合よく続きが見られるはずもなく——。
目を閉じても、さっきまでの甘やかな雰囲気はどこかに消えてしまい、夢の中の結城の姿も曖昧にぼやけていく。ただ、胸の奥に残った微かな高鳴りと、まだ指先に残るような気がする温もりだけが、現実に持ち越されていた。
「……ばかみたい」
自分で自分に呆れつつ、布団の中で顔を隠す。もしこれが櫻だったら、「おっ、しずるちゃんもついに恋に目覚めたべさ〜?」なんて囃し立てられるに違いない。それを想像すると余計に恥ずかしくなって、枕を抱きしめて丸くなる。
けれど、学校祭を終えたばかりの今、こうして自分の夢に結城が出てきてしまうのも、なんとなく納得できる気がした。
ユキノエを演じながら、カムチャ(結城)に手を引かれた時、確かに心が震えた。台本の上の話だとわかっていても、櫻のアイノを置いて舞台袖へ走る瞬間、決して消えない温もりがあった。そして結城がはっきりと言った「俺は、ユキノエを愛している」という言葉——あれは演技だったけれど、静流にとっては、ほんの少しだけ本物の告白のように響いた。
(結城……)
学校祭が終わった今、これからどうなるのだろう。結城はどんなふうに、自分と櫻との関係を考えているのだろう。
「……考えても、仕方ないよね」
再び布団をかぶりながら、静流はぎゅっと目を閉じる。
十代の少女が見る、少女漫画のような夢は——もう少しだけ、続きが見てみたかった。
学校で結城と挨拶を交わしてから、静流はふとその違和感に気付いた。
普段に比べて、ほんの僅かに、結城が自分をよく見てくると感じ、自分も朝方の夢のせいか、結城の姿を視線で追ってしまう。
それはまるで、惑星の軌道を天体望遠鏡でトラッキングするかのように……
それに気づいた瞬間、静流の心拍が跳ねた。
(や、やだ……私、なんでこんなに意識しちゃってるの……?)
ほんの少し目が合っただけで、無意識に視線を逸らしてしまう。結城は特に変わった様子もなく、「おはよう」といつも通りに声をかけてきただけなのに、今朝の夢を思い出してしまったせいで、勝手に意識してしまっている自分がいる。
(これは……つまり、恋の観測誤差……? いや、でもそんな単純な話じゃ……)
思考が堂々巡りしていると、隣から櫻の声が飛んできた。
「しずるちゃん? どしたの、朝からぼーっとして?」
「えっ!? いや、なんでもないよ!」
静流は慌てて首を振るが、櫻はニヤニヤとした笑みを浮かべる。
「ふーん……? なんもない割に、さっきからやけにゆーきを見てるような気がするんだけどねぇ?」
「そ、そんなことないよ!」
バレてる、と思った瞬間、顔がじわりと熱くなる。だが、櫻の言葉に反応してしまったことが裏目に出たのか、彼女の目がキラリと光る。
「へぇ〜? しずるちゃん、なんか思い当たることでもあるんでないの?」
「な、ないってば!」
静流がぷいっとそっぽを向くが、その仕草ですら可愛いと思ったのか、櫻はますます楽しそうに笑っている。
そんなやり取りを交わしていると、不意に結城の方から近づいてきた。
「お前ら、朝から何盛り上がってんだ?」
「ん〜? しずるちゃんがねぇ、なんかちょっと様子おかしいのさ〜」
「さくらちゃん!」
静流が慌てて櫻の腕を引くが、その動揺ぶりがますます怪しさを増しているように見える。
「俺に言うなよ……まあ、元気そうならいいけど」
結城は首をかしげつつも、それ以上深くは追及せずに席へ戻っていった。
(……もう! さくらちゃんのせいで余計に意識しちゃうじゃない!)
内心で叫びつつも、結城の後ろ姿をこっそり目で追ってしまう自分に、静流はひそかにため息をついた。




