本番前日、その時、心に浮かんだのは
結城は、自室のベッドの上で天井を見つめていた。
ユキノエとアイノ、どちらを選ぶのか。
それはつまり、静流と櫻、どちらを選ぶのか。
演劇の中の選択であるはずなのに、もはやそれはただの演技ではなく、現実の自分の答えを突きつけられるような感覚だった。
本番は明日。もう、時間は残されていない。
彼は深く息を吐き、考えを整理しようとする。
答えを出そうとして、しかし出せなくて、ただぐるぐると同じ思考の輪の中を回る。
――どうありたいのか。
――どちらと、人生を共にしたいのか。
――どちらと、喜びも悲しみも分かち合いたいのか。
それは、どちらがより好きか、という単純な問いではない。
結城にとって、櫻も静流も、かけがえのない存在だった。
櫻の太陽のような明るさに救われたことは何度もあった。
彼女の輝きは、結城を引っ張り、彼を照らし続けてくれた。
静流の星のような優しさに包まれたことも数えきれない。
彼女の穏やかさは、結城の心を落ち着かせ、どんな時もそばで見守ってくれた。
どちらかを選ぶということは、もう一方を選ばないということ。
それはつまり、どちらかを傷つけるということ。
それが、何よりも怖かった。
「……俺は……」
ふと、目を閉じた瞬間、結城の脳裏に一つの記憶が蘇った。
ノートを抱えて俯く、白い少女の姿。
夜の図書室で、ひとり寂しげにページをめくっていた、あの日の静流。
あの時、自分は彼女に手を差し伸べた。
あの時、自分は彼女の世界を変えた。
あの時、静流は、自分の言葉に救われた。
そして今度は、自分が彼女に救われていた。
彼女の横顔が浮かぶ。
プラネタリウムの暗闇の中で、そっと重なった手のぬくもり。
札幌の喫茶店で、パフェを頬張って照れ笑いした彼女の表情。
夜の海で、ムックリを奏でながら、優しく自分を包んでくれた音色。
喜びを一番に伝えたいのは、誰か。
苦しみを一番に分かち合いたいのは、誰か。
「……静流、か……」
呟いた瞬間、心の中の霧が晴れるような気がした。
答えは、もう出ていたのかもしれない。
ずっと前から、自分の中にあったのかもしれない。
ただ、それを認めるのが怖くて、向き合うのを避けていただけだった。
「……俺は、静流を選ぶ」
結城は、ゆっくりと目を開いた。
長い間絡まっていた糸が、ようやく解けるような感覚だった。
明日――本番で、彼はカムチャとしてユキノエを選ぶ。
それは、日野結城が、自分の気持ちに正直になる瞬間でもあった。




