表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
50/74

緊張と緊迫は似てる様で違う

 ★アイノを選ぶ練習で ~……気づかれて、ないよね?~

 演劇の練習も佳境に入り、今日は カムチャがアイノ(櫻)を選ぶバージョンの練習 だった。


「カムチャ……!」


 櫻が台詞に合わせて駆け寄る。結城が台本通りにアイノの手を強く握ると、クラスメイトたちから「おお~」「熱いねぇ!」と囃し立てる声が上がった。


「……ユキノエは?」


 静流がユキノエ役として、悲しそうに結城を見つめる。


 台本の指示通り、結城は ユキノエを見つめながらも、アイノの手を離さない。

 覚悟を決めた男の演技――のはずなのに、どこか ぎこちない。


(……これ、思ってた以上にやべぇな)


 櫻の手を握る結城の手が、少し汗ばんでいる。


 演技だ。あくまで演技。だが――


(……めちゃくちゃ意識するじゃねぇか!!)


 櫻の手は、温かくて、柔らかくて、それでいて めちゃくちゃ緊張しているのが伝わってくる。

 櫻も必死に演じようとしているが、明らかに 耳が赤い。


(……気づかれて、ないよね?)


 台詞を言うために顔を上げた瞬間、櫻と目が合う。


 ――その一瞬、彼女の瞳が揺れた気がした。


 まさか、櫻も意識してる?


 いやいや、ありえない。櫻は いつも通りの勢い任せ で演じているはずだ。


(……うわぁ、これ、絶対変な空気になってる……!!)


「……ちょっと休憩しようか」


 演劇部の顧問が声をかけると、結城は 一瞬の迷いもなく櫻の手を離した。

 まるで 火傷しそうなものに触れていたかのように。


 櫻も、すぐに手を引っ込めて、ぎこちなく笑う。


「は、ははっ! ボクたち、なんぼかいい演技できてたべさ?」


「あ、ああ……まぁな」


 お互いに 全力で誤魔化しながら、目を合わせないようにする。


 静流が、それを じっと見つめていたことには、二人とも気づいていなかった。


 ★今、想ってる通りにやってみて? ~そーっと逃げる~


 演劇の練習も終盤に差し掛かり、今日は カムチャがユキノエを選ぶバージョンのシーン を重点的にやることになった。


「カムチャ……!」


 静流が演技に入り込み、結城を見つめる。 哀しさと希望が入り混じった瞳。 それだけで、結城の喉が少しだけ詰まる。


(……静流、こういう時、すげぇな)


 演技のスイッチが入ると、彼女はとことん役になりきる。静かだけど、どこまでも芯が強くて、まっすぐで――


「カムチャ……私を連れて行って」


 静流が手を伸ばす。結城が、その手を取る。


(……おいおい、これ、本当に演技か?)


 手のひらが触れた瞬間、 静流の手が震えている のがわかった。


 彼女も意識してる……?


 一瞬の迷い。 それを見逃さなかったのは――


「……ゆーき?」


 櫻だった。


 彼女はアイノとして、二人の逃避行を止める役だが、今は 演技とは関係なく、疑わしげな目をしている。


 結城の心臓が跳ねる。


(……やばい、今の間、絶対バレた)


「結城」


 静流が囁くように言う。


「……今、想ってる通りにやってみて?」


 想ってる通り?


 結城が一瞬戸惑っていると、静流が そっと手を引いた。


 リハーサル室の床を、 静かに、静かに 後退する二人。


「ちょっと待てやぁぁ!!」


 猛ダッシュで追いかけてくるアイノ(櫻)。


「そーっと逃げるなぁぁ!!」


「だって、台本に『静かに後退』って書いてあるし……」


「そうだけど、そうだけどぉぉ!!」


 演劇の稽古場が 大爆笑 に包まれる中、顧問の先生が頭を抱えながらため息をついた。


「……お前ら、真面目にやれ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ