戻ってきたいつものノリ
★演劇練習中のドタバタ
学校祭に向けた演劇の練習が本格的に始まり、放課後の教室や体育館は活気に満ちていた。結城、櫻、静流の三人も、台本を片手に何度もセリフを読み合わせ、動きの確認を繰り返していた。
「……ユキノエ! 俺はお前を連れて、この戦いから逃げる!」
結城が力強く叫ぶ。カムチャとしてのセリフを意識しながら、手を伸ばし、静流のユキノエを抱き寄せる動作に入る。
しかし――
「わっ……」
静流がバランスを崩し、足元がふらついた。結城がとっさに支えようとするが、勢い余って二人とも派手に床へ倒れ込む。
「いったぁ……」
「大丈夫、静流?」
結城が上体を起こし、静流を覗き込む。静流は頬を赤らめながら、小さく頷いた。
「う、うん……でも、なんぼか恥ずかしいよ……」
そんな二人の様子を見ていた櫻が、頬を膨らませながらズカズカと近寄ってくる。
「ちょっとちょっと! 何いちゃついてるんだべさ!」
「い、いや、別にいちゃついてるわけじゃ……」
「ダメだべさ! そこはアイノ――つまりボクが嫉妬してカムチャを責める場面なんだから! ほら、もう一回やるべさ!」
櫻が腕を組んでドヤ顔をする。大崎がニヤニヤしながら「おお、いいぞ、熱が入ってきた!」と盛り上げる。
「……お前、絶対楽しんでるだろ」
結城は呆れながらも、立ち上がって練習を再開することにした。
★想定外のハプニング
演劇の稽古は続き、今度は櫻の出番だった。アイノとして、カムチャとユキノエの関係を暴露し、激しく詰め寄る場面。
「カムチャ! あんた、あの娘と会ってたべさ! ボクは知ってるんだからね!」
櫻が迫真の演技で指を突きつける。結城が緊迫した表情を作ろうとするが、どうしても櫻の顔が近すぎて、つい目を逸らしてしまう。
「おい、櫻、近いって……」
「演技なんだから我慢するべさ!」
結城がたじろぐ中、櫻は勢い余って前に出すぎた。
「おわっ!」
――ドンッ!!
今度は結城と櫻が派手にぶつかり合い、そのまま床へ倒れ込む。
「いったぁ……って、櫻、お前、乗っかってる!」
「ご、ごめ……じゃなくて、ゆーきが悪いべさ! ちゃんと受け止めるのがカムチャの役目でしょ!」
そんな二人を見て、静流がクスクスと笑い、周囲のクラスメイトも「またかよ!」と大笑いする。
「まぁまぁ、いい感じに熱が入ってきたし、もう一回やってみようか!」
大崎がノリノリで仕切り直しを宣言し、練習は続いていく。
★結城の気持ちと三人の関係
結城は演技をしながら、ふと考える。
――夏休みは悩んでばかりだったけど、こうしてバカみたいに練習してると、なんだか楽しいな。
櫻の勢いと静流の穏やかさ、そして自分の不器用さが交差するこの時間は、かけがえのないものだった。演劇の稽古を通じて、三人の関係はより深まり、迷いや不安が少しずつ溶けていく。
カムチャとして、ユキノエとアイノと向き合うその時、結城はきっと、自分なりの答えを見つけるのだろう――。
練習中のハプニング ~静流を押し倒しちゃう結城~
学校祭の演劇の稽古が佳境に入り、教室や体育館では熱のこもった練習が繰り広げられていた。結城、櫻、静流の三人も、舞台の動きを確認しながら、何度もセリフを読み合わせていた。
この日の練習では、結城演じるカムチャが静流演じるユキノエを抱きしめ、逃げる決意を固めるシーンだった。
「ユキノエ! 俺はお前を絶対に守る!」
結城が静流の手を強く握り、次の瞬間、勢いよく彼女を抱き寄せようとした。
――が、バランスを崩した。
「あっ……」
「あっ……!」
気づいた時には遅かった。結城の体が静流に覆いかぶさる形で、二人は床へと倒れ込んでいた。
倒れたままの沈黙
教室には、一瞬の静寂が訪れた。
結城は状況を理解しようとしながら、静流の上で固まっていた。
静流の大きな瞳が至近距離で結城を見つめ、頬がみるみるうちに赤く染まっていく。彼女の白に薄く水色が入った髪がふわりと広がり、結城のシャツにかかる。
結城の手は静流の肩を押さえたまま、彼女の柔らかな体温を感じてしまう。
「……えっと」
「……」
静流は小さく瞬きをし、唇を開いた。
「ゆ、結城……?」
彼女の声が震える。
結城もようやく事態を飲み込んだ。
「ご、ごめん!!」
慌てて起き上がろうとするが、焦りすぎたせいで余計にバランスを崩し、今度は静流の肩を支えようとした手が、思わぬところに触れてしまう。
「っ……!」
静流が一瞬、ビクッと震え、結城は頭が真っ白になった。
「いや、その、違う! 今のは――」
「ゆーーーーきぃぃぃぃぃ!!!」
次の瞬間、雷のような声が響いた。
結城が顔を上げると、櫻がものすごい勢いで迫ってきていた。
「何やっとるべさーーー!!!」
「ち、違っ――」
言い訳の暇もなく、櫻の拳が結城の頭に炸裂する。
「いでぇぇ!!!」
「このエッチスケベ変数! しずるちゃんに何してるべさ!!」
「違う! 俺はただ、バランスを崩して……!!」
「どんなバランスの崩し方したら、そんなドキドキラブコメ展開になるってさ!」
結城が反論しようとするが、櫻の怒りが爆発しており、とても聞いてくれそうにない。
「ま、待って、櫻ちゃん!」
静流が慌てて立ち上がり、櫻を止める。
「け、結城が悪いわけじゃなくて、ただちょっと、タイミングが悪かっただけだから……」
「でも!」
「ほ、ほんとに大丈夫だから……!」
静流が顔を真っ赤にしながら、結城をかばう。
櫻はむぅっと唇を尖らせ、結城と静流を交互に見比べると、ため息をついた。
「……まぁ、しずるちゃんがそう言うなら、許してやるべさ。でも!」
櫻が結城の胸ぐらをつかみ、グッと引き寄せる。
「次はないからね?」
櫻に胸ぐらをつかまれながら、結城はぐったりとうなだれた。
「はい……」
静流のフォローもあり、なんとか命拾いしたものの、周囲のクラスメイトたちはニヤニヤとこちらを見ている。
「おいおい、結城、さっきのはまるでラブシーンじゃねぇか!」
「静流、顔真っ赤だったぞ!」
「まさか本番前に進展しちゃいました??」
冷やかしの声が飛び交い、結城は「違う! マジで事故だったんだって!」と必死に弁解するが、誰も聞いてくれない。
「まぁまぁ、しずるちゃんが許してくれたなら……」
櫻が腕を組んでふむふむと頷きながら、どこか偉そうな態度を取る。
「でも、ゆーきはやっぱり要注意人物だから、ボクがちゃんと見張っておかないとね!」
「誰が要注意人物だ!」
結城がツッコミを入れるが、櫻は「ボクがしずるちゃんを守るべさ!」と息巻いている。
「ったく……もう稽古に戻るぞ」
結城が立ち上がろうとした瞬間――
「おっと!」
「うわっ!!?」
何かの拍子で足元が滑り、バランスを崩した結城と櫻。
次の瞬間、教室には ドサッ! という音が響き渡った。
★今度は櫻が……
結城の目の前にあったのは、 自分の腰のあたりに馬乗りになった櫻の姿だった。
「えっ……?」
「……あ」
二人は一瞬、状況を把握できずに固まった。
櫻の白に薄い桜色の髪がふわりと揺れ、彼女の太ももが結城の腰の両側をしっかりホールドしている。しかも、バランスを取ろうとしたのか、結城の胸のあたりに手をついてしまっており、まるで押し倒しているような体勢だった。
「ちょ、櫻……!?」
「え、えええええっ!?!?!?!?」
次の瞬間、櫻の顔が真っ赤に染まる。
「ち、ちがっ……!! これはその……っ!」
完全にパニック状態の櫻。さっきまで「結城のエッチ!」と責め立てていた本人が、今まさにエッチな体勢になってしまっている。
「櫻……お前、人のこと言えねぇだろ……」
「そ、それとこれとは別問題っ!!!」
思い切り叫びながら、櫻は 結城の腹に拳を振り下ろした。
「ぐえっ!!?」
結城が息を詰まらせ、教室中にどっと笑いが起こる。
「なんだこれ、まるでラブコメのワンシーンじゃねぇか!」
「さっきは結城と静流で、今度は櫻かよ!」
「次はどんな展開になるんだ~?」
クラスメイトたちの茶化す声が響く中、結城は 床に転がりながら腹を押さえ、静かに天井を見つめるのだった。
そんな大騒ぎの中、静流は赤面しつつも 呆れたような苦笑い を浮かべていた。
「櫻ちゃん……人のこと言えないよね?」
「うぅ~~~!! これは違うの!! 事故だから!!! 事故なの!!!」
櫻がジタバタと暴れるが、どう見ても 結城を押し倒して馬乗りになっていた という事実は変わらない。
「結城、大丈夫?」
静流がそっと結城を覗き込む。
「……もう帰っていいか?」
「ダメだべさ! 稽古終わってないべさ!!!」
結城の心はボロボロだった。
こうして、 学校祭の演劇練習は相変わらずのドタバタで進んでいくのだった。
★酉城の内心での安堵
教室中が笑いに包まれ、櫻が「違うべさ! 事故だべさ!!」と必死に弁解しているのを見ながら、酉城はふっと小さく息を吐いた。
(……この調子なら、なんとなかったみてぇだべな)
結城があの日、突然稽古を休んでから、櫻と静流が焦燥を滲ませながら彼を探していたのを、酉城は覚えている。二人があそこまで動揺しているのを見たのは初めてだったし、何より結城自身の顔色が あまりにも悪すぎた。
(あんときゃ、マジで心配だったけどよ……)
だが、今こうして目の前にいる結城は、 お約束のラブコメ展開に巻き込まれてボロボロになっている。
それだけなら いつもの結城だ。
静流に倒れ込み、櫻に馬乗りにされ、クラスメイトから冷やかされて、それでも どこか楽しそうにしている。
(……まぁ、完全に大丈夫ってわけじゃねぇだろうけどよ)
あの時の結城の様子を思い返せば、簡単に「解決した」とは思えない。けど――
(こいつは、ちゃんと帰ってきたんだべ)
だから、今は 余計なことを言わずに、このまま見守ってやるのが一番だろう。
酉城はポケットに手を突っ込みながら、いつものように結城をからかう。
「おいおい結城、今度はさくらに押し倒されるなんて、どんだけモテモテなんだ?」
「うるせぇ!! お前も助けろよ!!」
「俺ぁ、ラブコメ主人公じゃねぇしなぁ?」
いつも通りのやり取り。
結城が戻ってきたのなら、それでいい。
(ま、静流とさくらがいりゃ、こいつはそう簡単には沈まねぇか)
酉城は小さく笑いながら、結城の横顔を見つめるのだった。




