バカにしないで!
結城の状況が自意識過剰と言えばまさにその通りだが、今の彼をその一言で切り捨てられる人物は、誰かに恋をした事も、恋をされた事もない人物だろう。
二人の間で揺れる事を禁じられ、どちらかを選ぶ事を突き付けられて、それでも自身の責任において誰も傷つけない事を義務付けられる。
本当は誰からもそんな事は思われていないのだが……まぁ、それを弱さと取るか優しさと取るかはその人次第、となる事でもあろう。
「みつけたっ!」
「みつけたよ、結城」
不意に、暗闇の中に光が差した。今一番聞きたくて聞きたくない二人の声が重なった。
結城が僅かに目を上げると、そこには、少しだけ息を切らした櫻と静流の姿があった。
なにをどう言ったら良いか判らない。
そんな結城に、櫻が声をかけた。
「ねぇ、ゆーき……もしかして、ボクとしずるちゃんの事、バカにしてる?意思決定もできないような、少女漫画に出てくるヒロインみたいな女の子だと思ってる?」
自然な共通語、櫻が内心怒っている時のサインだ。
「いやそんな事……」
「だったらさ、なんで、ボク達に相談してくれないの?」
櫻ほど派手でなくとも、静流も思う所はあたのだろう、結城の視界の中で、一つ頷く。
「結城、私たちは、決めたよ。どっちが選ばれても、後悔しない、お互いが大切なのは変わらない」
「まぁ、ボクとしずるちゃんが従姉妹だからってのはあるけど……別に一人で決めた訳じゃないよ?ちゃんと二人で話し合って、ケンカして、想ってる事全部言い合って、決めたんだ」
どこまでも真剣に、まっすぐに、逃がさない。櫻と静流の目が、結城を捕える。
「結城、私たちは、結城に頼るだけの弱い女の子じゃない、結城だけに重い責任を負わせて、自分たちはそれから逃げようなんて思ってない」
櫻の右隣で、櫻と同じく、結城の頬に手を当てて、静流もまた、真剣に言う。
「……俺は……」
ここにきて、まだ根強く結城の中に根を張る、己への自信の無さが顔を出す。
彼女たちの予想どうりに。
二人で「しょーがないなぁ」と顔を見合わせて苦笑い。
「判った、今、結城には文字通り勇気が足りないんだべさ」
「なら、私たちが分けてあげる」
なにを、と考える間もなく、二人分の手で顔を上げさせられる。
目の前には、櫻の顔が迫っており……
唇の右半分に、彼女の柔らかな唇が重なった。
かすかに香る匂い、結城は櫻が薄く香水をかけていることを初めて知った。
櫻が離れると、すぐに静流の顔が迫る。
今度は同じ唇の左半分に、静流の、やはり柔らかい唇が重なった。
彼女の耳に付けられた星のピアスが凛と光る。
「元気、でた?」
「ちゃんとしたのは、選んでくれたらその時に、してあげるべさ」
二人分の照れた表情が、結城の視界の中で微笑んだ。
結城は、ため息を吐く。
「……ほんと、なっさけねぇな、俺は……世界一、情けなくてダセぇや」
「うん」
「そうだね」
容赦ない二人の反応に、思わず苦笑する。
「はは……手加減してくれよ」
「流石に腹に据えかねる所はあるべさ」
「……これだけは、約束して? もう絶対、自分がいなくなれば、なんて考えないで」
静流の真剣な目に、結城は深く息を吐く。
「……あぁ、約束するよ」
そうして、結城の中の観測点は、ようやく安定し始めた。
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