彷徨える重力点を探して
★結城を探す静流と櫻――思い出の場所へ
結城が学校を休んだ翌日、櫻と静流は教室の窓から広がる余市の町並みを眺めながら、不安げな表情を浮かべていた。
「結局……今日も来なかったね、ゆーき」
「うん……」
静流が小さく頷く。昨夜からのメッセージにも既読すらつかない。電話をしても、応答はない。二人の胸に、じわりと焦燥感が広がっていく。
「……大丈夫かな」
「ちょっとした風邪とかなら、私たちが間抜けって話で済むけど……」
櫻は自分の腕を抱きしめるようにして立ち上がる。心の中では、昨日の稽古での結城の様子がずっと引っかかっていた。セリフを噛んだわけでもないのに、不意に動きを止めてしまったあの瞬間。彼がぽつりと「わり、今日、ちょっと帰らせてくれ」と言った時の顔が、どうしようもなく脳裏に焼き付いている。
「……探しに行こう」
櫻の言葉に、静流もすぐに頷いた。
「うん、私もそう思ってた」
二人は迷わず教室を飛び出した。
★寂しい太陽――櫻の想い
余市の町を駆けながら、櫻の胸には焦燥感と、言葉にできないモヤモヤが渦巻いていた。
(ゆーき……どこにいるのさ)
彼の不在が、思った以上に胸を締めつける。
櫻は、自分は太陽のような娘だと信じてきた。
明るく、元気で、周りを照らす存在。結城や静流にとっても、きっとそうでありたいと思っていた。
でも――
「……なんか、さびしいな」
ぽつりと呟いた言葉が、潮風に溶けて消える。
太陽は、自らの熱で周囲を照らすけれど、その光は自分には届かない。だからこそ、誰かの隣にいられることが当たり前のように思えていた。
けれど、もしその誰かが、自分の光を必要としなくなったら?
もし、結城が自分の前から消えてしまったら?
(……そんなの、ダメだ)
太陽は、ただ空に浮かんでいるだけじゃない。人が道を見失った時、朝を迎えられるように光を届けるものだ。
だったら、今は――
(ボクが、ゆーきを見つける)
どこに逃げたって、照らし出してみせる。
結城の悩みも、不安も、迷いも、全部引っ張り出して、ちゃんと目を開かせてやる。
彼がどれだけ自分のことを責めていたとしても、ボクの前では、そんなの許さないから。
「しずるちゃん、もうちょっと急ぐべさ!」
静流に声をかけながら、櫻は再び走り出した。
空には、すでに夕焼けが広がり始めていた。
★思い出の場所へ――余市の町を駆ける
学校を飛び出し、余市の町へと駆け出す。
昼下がりの町はいつも通りの静けさを保っていた。歩道には観光客がぽつぽつと歩き、商店街の店先には秋の果物が並んでいる。
「まず、どこを探すべさ?」
櫻が走りながら静流に問う。
「……海かもしれないね」
「うん、もしくは……あの公園」
二人は頷き合い、まずは結城との思い出が詰まった場所へ向かうことにした。
最初に向かったのは、道の駅スペース・アップルよいちだった。
「……いないね」
観光客やサイクリストが休憩しているベンチを見回すが、結城の姿はない。
櫻が腕を組みながら考える。
「じゃあ……あの通り、リタロードの方!」
二人は再び駆け出す。
リタロードは余市駅から続くメインストリートで、オシャレなカフェやワインショップが並ぶ場所だ。地元の人々や観光客がゆったりと歩く中、櫻と静流はその間をすり抜けるように進む。
「あっちの角! いつも結城が立ち寄る店がある!」
櫻が指差したのは、小さな書店だった。
静流もすぐに気づく。
「うん、前にここで星の本を探してたね……」
店の前に立ち止まり、中を覗く。けれど、結城の姿はどこにもない。
「……違ったね」
静流が少し息を整えながら呟く。
「でも、思い出した。もう一つ、ゆーきが好きな場所」
櫻が顔を上げる。
「……小樽行きの防波堤?」
「そう! 昔、ゆーきとしずるちゃんと一緒に、星見たことあったべさ」
「うん……今なら、あそこにいるかもしれない」
二人は再び駆け出した。
★トランスポーターを喪失した探査機の運命――静流の想い
櫻と並んで余市の町を駆けながら、静流は必死に考えていた。
(結城……今、どこにいるの?)
彼が最後に見せた表情が、脳裏に焼き付いている。
迷いと苦悩、そして――諦め。
まるで、軌道を失った探査機みたいだ、と静流は思った。
宇宙へと放たれた探査機は、トランスポーター――通信手段を失えば、ただ闇を漂うだけの存在になる。どれだけ優れた機器を積んでいようと、どんなに価値あるデータを持っていようと、誰かが受信しなければ、それは「存在しない」のと同じ。
そして、多くの探査機は、そうして孤独に宇宙を彷徨う。
だけど――例外はある。
人類がその存在を忘れても、いつかまた信号を発する探査機がある。長い時間を経て、偶然の奇跡のように、誰かがその声を拾うこともある。
(だったら、私はその誰かになりたい)
結城がどれほど自分を責めていたとしても、たとえ心の通信手段を閉ざしていたとしても、私は彼を見つける。
「結城、今度は私たちが、あなたを引っ張り上げるよ」
静流は息を整えながら、走る速度を緩めない。
彼の孤独な軌道を、もう二度と放っておかないために。
結城との再会へ――防波堤の先で
リタロードを抜け、再び海沿いへと走る。
潮風が吹き抜ける中、道端には釣り竿を手にした地元の人々の姿が見える。遠くでは漁船が小さく揺れ、空は少しずつ夕焼けの色に染まり始めていた。
「あと少し……!」
櫻が息を切らしながらも走るスピードを緩めない。
静流もまた、胸が高鳴るのを感じながら足を止めない。
防波堤の先へ向かう途中、ふと静流が立ち止まった。
「……見えた」
櫻もその視線を追う。
そこに、結城がいた。
コンクリートの堤防に腰掛け、海をぼんやりと見つめている。
二人は、迷わず結城の元へと走り寄った。




