それは甘くてすっぱくて、人生の最も美しい時の様な
パフェを味わう二人
札幌の喫茶店で、結城と静流は窓際の席でパフェを手にしていた。結城のチョコバナナパフェは濃厚なチョコレートとバナナが層をなし、静流の夏限定マンゴーパフェは鮮やかなマンゴーとアイスクリームが涼しげに盛られている。二人がスプーンを動かすたび、夏の午後の穏やかな時間が流れる。
静流がマンゴーパフェを一口食べて、目を細める。
「結城、これ、美味しいよ。マンゴーの甘さがちょうどいいね」
彼女の声には満足感が滲み、白に薄く水色の髪が軽く揺れる。薄い水色のサマードレスの星の刺繍が、窓から差し込む光に映える。
結城が自分のチョコバナナパフェを食べながら笑う。
「マンゴーか。お前らしいな、爽やかな感じが」
彼がスプーンを止めて、静流のパフェをじっと見る。櫻なら勢いでチョコやフルーツ山盛りの派手なやつを選びそうだけど、静流の選択は穏やかで控えめだ。
静流のパフェの好み
静流がスプーンを手に持ったまま、少し考える。
「うん、私、甘すぎないのが好きだよ。マンゴーとかベリーとか、果物の味がちゃんと分かるのがいいね。アイスもさっぱりしてる方が、なんぼか落ち着くよ」
結城が「へぇ」と頷く。
「そっか。俺はチョコとか濃いのが好きだから、ちょっと意外だな。静流って、そういうとこも星っぽいんだな」
彼女の好みが、天文学への愛や穏やかな性格とリンクしている気がして、結城が笑う。
静流が少し照れながら続ける。
「星っぽい、かぁ……昔から、果樹農家の手伝いでリンゴとか桃とか食べてたからかな。甘いだけじゃなくて、ちょっと酸味があるのが好きになっちゃって」
彼女の家族が果樹農家であることが、好みに影響を与えているらしい。結城が「なるほど」と納得する。
「櫻は甘いのドカンとくるのが好きそうだよな。お前とは正反対だ」
結城が櫻を思い出しつつ言うと、静流が小さく笑う。
「櫻ちゃん、チョコとかキャラメルたっぷりの選ぶよね。私、そういうのはちょっと苦手で……結城と一緒なら、なんぼか食べれるかもしれないけど」
結城が「試してみるか?」と自分のチョコバナナパフェをスプーンで掬い、静流に差し出す。
「ほら、一口食べてみ。濃いけど、うまいよ」
静流が「え、いいの?」と驚きつつ、スプーンを受け取る。チョコとバナナを口に運ぶと、少し顔をしかめつつも笑う。
「うん、甘いね……でも、結城がくれるなら美味しいよ」
頬がまた赤くなり、彼女がスプーンを返す。結城が「可愛いな」と内心で思う。
好みから見える静流の内面
結城が自分のパフェに戻りながら言う。
「静流のパフェの好み、なんかお前そのものだな。さっぱりしてて、落ち着く感じ」
櫻の衝動的な楽しさとは違い、静流の穏やかさが味の好みにまで表れている。ノートに書いた「青方偏移」が、パフェの爽やかさと重なる気がした。
静流がマンゴーパフェをもう一口食べて、微笑む。
「結城にそう言われると、なんぼか嬉しいよ。私、甘すぎるのは苦手だけど、結城と一緒なら少し冒険してみてもいいかなって」
彼女の言葉に、結城への信頼と小さな大胆さが混じる。プラネタリウムで手を握った勇気が、パフェの好みにも少し影響を与えているのかもしれない。
結城が笑う。
「じゃあ、次はもっと甘いの挑戦してみるか? 櫻みたいにドカンってやつ」
静流が「それはちょっと……でも、結城となら考えるよ」と笑い、二人はパフェを食べ進める。
夏の喫茶店で、静流のパフェの好みが二人の会話を彩り、穏やかな絆を深めていた。マンゴーの爽やかさが、静流の心に結城との時間を優しく刻んでいた。
気づいてしまった瞬間
札幌の喫茶店で、結城と静流はパフェを食べながら穏やかな時間を過ごしていた。結城のチョコバナナパフェと静流のマンゴーパフェが半分ほど減り、二人の会話は静流の好みから自然に笑いへと流れていた。
結城がスプーンを手に持ったまま、何気なく言う。
「なぁ、静流。さっき俺のパフェ食べてたけど、どうだった?」
静流がマンゴーパフェを口に運びながら答える。
「うん、なんぼか甘かったけど、結城がくれるなら美味しかったよ」
彼女が微笑むと、白に薄く水色の髪が揺れ、薄い水色のサマードレスの星の刺繍が光に映える。
結城が「そっか」と笑い、スプーンを自分のパフェに戻す。その時、ふと頭に浮かんだ。
(待てよ……さっき、俺のスプーンで静流に食わせたよな)
同時に、静流もスプーンを止める。彼女の目が一瞬丸くなり、頬がぽっと赤くなる。
「あ……さっきのって、私、結城のスプーンで……」
二人がほぼ同時に気づいてしまった。――間接キスだ。
照れくさい雰囲気
結城が咳払いをして、目を逸らす。
「ところでさっきのって……かんせつ……」
言葉を最後まで言えず、もごもごと口の中で消える。普段は冷静に観測点を固定しようとする結城が、珍しく動揺していた。
静流が「え?」と小さく声を上げ、スプーンをテーブルに置く。
「結城、それって……間接、キス……だよね?」
彼女が囁くように言うと、声が小さすぎてほとんど聞こえない。でも、頬の赤さが隠しきれず、白いカーディガンの袖をぎゅっと握る。
一瞬、喫茶店の中が静かになったような気がした。窓の外を歩く人々のざわめきや店内のBGMが遠く感じられ、二人の間に少しだけ照れくさい空気が流れる。
結城が「いや、その……」と手を振って誤魔化そうとするが、顔が熱くなる。
「別に大したことじゃねぇよな、ただのスプーンだし……」
内心では、プラネタリウムで手を握った時以上に心臓がドキドキしていた。櫻との水族館デートではこんな場面はなかっただけに、静流との穏やかな時間が急に熱を帯びる。
静流が目を伏せて、小さく笑う。
「うん、なんぼか恥ずかしいけど……結城となら、いいよ」
彼女の声は穏やかだけど、照れと嬉しさが混じっている。櫻の勢いとは違う、静流なりの大胆さがまた顔を覗かせていた。
二人の反応
結城が静流の言葉に目を丸くし、笑いながら言う。
「お前、意外と平気そうだな。俺の方がびっくりしたよ」
スプーンを手に持ってパフェに戻り、照れを隠すように一口食べる。
静流が「ふふっ」と笑い、マンゴーパフェを掬う。
「結城がそんな顔するなんて、なんぼか可愛いよ。私、びっくりしたけど……嫌いじゃないから」
彼女が目を上げて結城を見ると、頬の赤さが少し引いて、穏やかな笑顔に戻る。
結城が内心で思う。
(静流のこういうとこ、ほんと可愛いな……櫻とはまた違うドキドキだ)
ノートに書いた「青方偏移」が、穏やかさの中に熱を帯びた瞬間だった。西行寺先輩の「楽しむ事を忘れちゃだめだよ」が、ここでも生きている気がした。
二人は照れくさい雰囲気を笑いに変え、パフェを食べ進める。窓の外の札幌の街並みが夏の陽光に輝く中、間接キスという小さな出来事が、結城と静流の心にささやかな波紋を残していた。
照れを紛らわすコーヒー
札幌の喫茶店で、結城と静流はパフェを食べ終えた。間接キスの気づきから生まれた照れくさい雰囲気がまだ残り、二人は笑いながらも少しぎこちない空気を漂わせていた。結城のチョコバナナパフェのグラスは空になり、静流のマンゴーパフェも最後のスプーンを終えたところだ。
結城がテーブルに置いたスプーンを見つめながら、内心で思う。
(間接キスって……やっぱちょっと意識しちまうな。静流の顔見ると余計に)
頬が熱くなるのを誤魔化すように、彼が急に立ち上がり、店員を呼ぶ。
「すみません。コーヒーください、悪魔のように黒く、地獄の窯のように熱い奴を」
結城が少し大げさに注文すると、店員が「かしこまりました」と笑顔で去っていく。
静流が目を丸くして結城を見る。
「結城、そんなの頼むの? なんぼかかっこいいけど、暑くない?」
彼女が首をかしげると、白に薄く水色の髪が揺れ、薄い水色のサマードレスが夏の喫茶店に涼しげに映える。
結城が苦笑しながら席に戻る。
「いや、なんかさっきの……その、間接キスのことで頭熱くなっちゃってさ。冷ますつもりで逆に熱いの頼んだわ」
正直に言ってしまい、彼が自分で「やべぇ」と顔を赤くする。
静流の反応と和む雰囲気
静流が「ふふっ」と小さく笑い、スプーンをグラスに置く。
「結城、なんか可愛い、そんな慌てなくてもいいのに。間接キス、私もドキドキしたけど……嫌いじゃないって言ったでしょ」
彼女の穏やかな声に、照れが混じりつつも安心感がある。頬の赤さが少し残るが、静流が結城の動揺を優しく受け止める。
結城が「そっか」と笑い、頭を掻く。
「お前がそう言うなら、まぁいいか。櫻なら騒ぐだろうけど、静流は落ち着いてるな」
櫻の勢いを思い出しつつ、静流の穏やかさが逆に新鮮だと感じる。
店員がコーヒーを運んできた。真っ黒で湯気が立つカップを手に、結城が一口飲む。
「うっ、熱っ……でも、うまいな」
苦味と熱さが頭を切り替え、照れが少し和らいだ。
静流が自分の水を飲んでから言う。
「結城、悪魔みたいって言うなら、私も何か頼もうかな。天使みたいな冷たいアイスティーでもいい?」
彼女が冗談っぽく笑うと、結城が「いいね」と返す。
「天使と悪魔か。お前なら天使っぽいよ、その服も星っぽくてさ」
静流が注文したアイスティーが届き、二人は飲み物を手に持つ。結城の黒いコーヒーと静流の透明なアイスティーが、夏の喫茶店で対照的なコントラストを描く。
二人の和やかな時間
静流がアイスティーを一口飲んで、目を細める。
「なんぼか美味しいよ、これ。結城のコーヒーも、熱そうだけど似合ってるね」
彼女の言葉に、結城が「そうか?」と笑う。
「静流とこうやってると、なんか落ち着くな。櫻とパフェ食った時は賑やかだったけど、お前とはまったりって感じだ」
結城が素直に言うと、静流が頷く。
「うん、私も結城とまったりするのが好きだよ。なんぼかドキドキもあるけどね」
間接キスの照れから始まった会話が、コーヒーとアイスティーをきっかけに和やかな雰囲気に変わった。結城が思う。
(西行寺先輩の言う通り、楽しむのが大事だな。静流とこうやってるだけで、観測点が自然に定まる気がする)
窓の外の札幌の街並みが夏の陽光に輝く中、二人は飲み物を手に穏やかな時間を楽しんでいた。
「ところで、さ……さっきのコーヒーの時の注文、あれ、元ネタ全部じゃないよね?」
「ま、な」
悪魔のように黒く、地獄の窯の様に熱く、恋の様に甘い……とは流石に言えない結城だった。




