帰りの電車で……
20分間の振り返り
櫻が指を折って数えながら言う。
「ふれあい水槽でヒトデ触ったの、気持ち良かったべさ。クラゲも綺麗だったし、アザラシも面白かったよ!」
結城が頷く。
「クラゲは確かに良かったな。あの幻想的な感じ、ちょっと静流っぽかったけど……櫻が隣で騒いでたから、静かにはならなかったな」
少し静流の名前を出してしまったが、櫻が気にしないように笑顔で返す。
「ボク、なんぼかうるさいべさって! でも、ゆーきが笑ってくれたからいいよ」
櫻が少し目を細めて続ける。
「イルカショー、なんぼかすごかったべさ! ボク、呼ばれてびっくりしたけど、イルカと握手できて嬉しかったよ」
結城が苦笑する。
「あのシャワーは予想外だったけどな。お前、びしょ濡れで慌ててて、ちょっと面白かった」
櫻が頬を膨らませて抗議する。
「なんぼか恥ずかしかったべさ! 下着透けて、ゆーきに助けてもらわなかったら、どうなってたか……」
彼女が顔を赤くしてタオルを思い出すと、結城が「悪かったって」と笑う。
「でも、すぐタオル渡しただろ。櫻を守るくらい、俺だってできるよ」
櫻が「ゆーき、なんぼか優しいべさ」と小さく呟き、結城の肩に軽く頭を寄せる。電車の揺れに合わせて、二人の距離が自然と近づく。
櫻がペンギンショーを思い出し、笑いながら言う。
「ペンギン、なんもやる気なかったべさ! 」
結城が同意する。
「あいつら、トレーナー無視してたもんな」
二人の心の動き
20分ほどの電車内での会話は、デートの楽しさを再確認する時間だった。櫻は結城との一日を振り返りながら、内心の葛藤が少し和らいでいた。
「ゆーきが楽しんでくれたなら、ボク、なんぼか嬉しいべさ。しずるちゃんのこと考えても、今日はボクだけでいいよね?」
結城も櫻の笑顔を見ながら思う。
「櫻と一緒だと、ほんと熱くなるな。衝動性ってのもあるけど、守りたい気持ちが強くなる……観測点、ちょっと固定できたかも」
ノートに書いた「櫻:赤方偏移」が頭に浮かぶが、今日は欲望より愛情が勝っている気がした。
電車が一駅進み、余市に近づく。櫻が結城の手を軽く握り、小さく言う。
「また、ゆーきと遊びたいべさ」
結城が「おう、またな」と返す。夕暮れの車内で、二人の心は今日の思い出に温かく包まれていた。
★ 帰ってきてから~静流と櫻のメッセージ欄~
結城と別れ、櫻は余市の自宅に戻った。部屋に入ると、ベッドに寝転がり、淡い緑色のワンピーススカートが少し皺になるのも気にせず、スマホを取り出す。白に薄い桜色の髪が枕に広がり、彼女の心はまだおたる水族館の楽しさで弾んでいた。
「ゆーきと一緒、なんぼか楽しかったべさ……しずるちゃんに教えてあげなきゃ!」
櫻がメッセージアプリを開き、静流とのチャット欄に指を走らせる。
櫻と静流のメッセージ欄
櫻(20:13)
「しずるちゃん、ただいまべさ! ゆーきと水族館、なんぼか楽しかったよ~! イルカと握手して、ペンギンも見てきたべさ!」
(笑顔の絵文字とイルカの絵文字を添付)
櫻が送信ボタンを押すと、すぐに既読マークがつく。静流の返信が来るのを待ちながら、彼女は今日のことを思い出す。結城がタオルを渡してくれた優しさ、電車で肩を寄せた温かさ――全部が櫻の胸を熱くする。でも、静流のことを考えると、少しだけ複雑な気持ちも混じる。
「しずるちゃんにも、ゆーきと楽しい時間あるべさ……ボク、なんぼか負けたくないけど」
数分後、静流から返信が届く。
静流(20:17)
「櫻ちゃん、おかえり。楽しそうで良かったね。私もイルカとペンギン、見てみたかったな。結城と一緒なら、なんぼか賑やかだったでしょ?」
(微笑む絵文字とペンギンの絵文字を添付)
櫻がベッドでゴロゴロしながら笑う。静流の穏やかな言葉に、ホッとする気持ちと同時に、ちょっとした競争心が疼く。
「しずるちゃん、なんぼか優しいべさ……でも、ゆーきのこと、ちゃんと見ててくれるよね?」
櫻(20:19)
「うん、なんぼか賑やかだったべさ! ボク、イルカに水かけられてびしょ濡れになったけど、ゆーきが助けてくれたよ~!」
(水滴の絵文字と笑顔の絵文字)
送信後、櫻が「えへへ~」と笑う。結城に守られたことを自慢したくて、つい詳しく書いた。でも、静流がどう思うか、少しだけ気になる。
静流は自室でスマホを見ながら、小さく笑う。白に薄く水色の髪が机の灯りに映え、彼女の手には天体望遠鏡の模型が握られている。櫻のメッセージに、楽しそうな様子が伝わってくる。
静流(20:22)
「櫻ちゃんらしいね。水かけられるなんて、結城もびっくりしたんじゃない? 助けてくれるなんて、結城らしいよ。私も櫻ちゃんのびしょ濡れ、見てみたかったな」
(笑う絵文字と星の絵文字)
櫻が返信を読んで、頬を膨らませる。
「しずるちゃん、なんぼかからかってるべさ!」
でも、静流の優しい口調に、櫻の心が温かくなる。競争心はあるけど、静流との友情も大切だ。
櫻(20:24)
「ボク、なんぼか恥ずかしかったべさ! でも、ゆーきと一緒なら、また行きたいよ。しずるちゃんも今度一緒に行くべさ!」
(ハートの絵文字とイルカの絵文字)
静流が微笑む。櫻の明るさに引っ張られつつ、結城との時間を想像して少し胸が締め付けられる。
静流(20:26)
「うん、今度三人で行けたら楽しそうだね。櫻ちゃんの元気、結城も私も大好きだよ」
(ハートの絵文字と月の絵文字)
二人の想い
櫻がスマホを胸に抱き、ベッドで笑う。
「しずるちゃんと一緒も、なんぼか楽しそうべさ……でも、ゆーきはボクのこと見ててほしいな」
静流への友情と結城への想いが混じり、櫻の心は少し複雑だけど温かい。
静流はスマホを置いて、窓の外の月を見る。
「櫻ちゃんの元気、結城を動かすよね。私も負けないようにしなきゃ」
結城と櫻のデートを知りつつ、静流の競争心も静かに燃えていた。
メッセージ欄は、二人の友情と微妙なライバル意識を映し出しながら、夏の夜に穏やかに閉じられた。




