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櫻と見るイルカショー

 ★ 櫻の内面の葛藤

 おたる水族館のイルカショーが始まるまで、結城と櫻は観客席のベンチに座っていた。ショーの開始を待つ間、櫻は結城と並んでアザラシプールを眺めながら、淡い緑色のワンピーススカートの裾を軽く握る。白に薄い桜色の髪が風に揺れ、彼女の笑顔は明るいままだった。でも、心の中では小さな波が立っていた。


「ゆーきと一緒、なまら楽しいべさ……」


 櫻が内心で呟く。結城とふれあい水槽で笑い合ったり、クラゲの展示で一緒に驚いたりする時間は、彼女にとって宝物だ。でも、結城が「静流が好きそうな雰囲気だ」と言った瞬間、心にチクリと刺さるものがあった。


「しずるちゃんかぁ……ボクだって、ゆーきに楽しんでほしいべさ」


 櫻は静流のことを嫌いじゃない。むしろ、静流の優しさや穏やかさは、櫻にとっても心地いい存在だ。でも、結城が静流を思い出したその一言が、櫻の内面に競争心を灯す。


「しずるちゃん、賢いしなぁ……ゆーきと二人で天文の本読んだりしてるもんな」


 櫻が結城の横顔をちらっと見る。彼が「櫻と一緒だと退屈しないな」と言ってくれたのは嬉しかった。肩を寄せた時、結城の心がドキッとしたのも感じた。でも、それだけでいいのか分からない。


「ボクの事、ちゃんと見ててくれるかな……可愛いだけじゃなくて、ゆーきに好きになってほしいべさ」


 彼女の小さな体形や可愛らしい見た目は、櫻にとってずっとコンプレックスだ。海で背中のスリット水着を着た時も、結城をドキッとさせたくて頑張った。でも、その後の「手、お尻に……」の恥ずかしさが頭をよぎり、櫻の頬が少し赤くなる。


「なんぼか恥ずかしかったけど、ゆーき、顔赤くしてたべさ……あれ、嬉しかったのかな?」


 結城が自分を見てくれる瞬間は嬉しい。でも、静流がそばにいない今でも、結城の心に静流がいるかもしれないと思うと、不安が膨らむ。


「ボク、ゆーきのこと大好きだよ。しずるちゃんもそうかもしれないけど、ボクだって負けたくないべさ」


 櫻が小さく息を吐く。結城と一緒にいる幸せと、静流への競争心がせめぎ合う。彼女は自分の気持ちを押し殺すタイプじゃない。でも、結城に「選んでほしい」とはっきり言う勇気もない。


「ゆーきがボクを選んでくれるなら、なんぼか嬉しいべさ……でも、もししずるちゃんだったら、ボク、どうすればいいんだろ」


 その時、結城が櫻に声をかける。


「なぁ、櫻、イルカショー始まるぞ。いい席取っとくか?」


 櫻がハッとして笑顔を取り戻す。


「うん、なんぼか楽しみだべさ! ゆーきと一緒なら、絶対楽しいよ!」


 彼女が立ち上がり、結城の手を軽く引っ張る。ワンピーススカートがふわりと揺れ、白に薄い桜色の髪が跳ねる。


「不安なんか、吹き飛ばすべさ! ゆーきと今を楽しむんだから!」


 櫻は内面の葛藤を押し込め、結城とのデートに全力を注ぐと決めた。静流への競争心も、自分の不安も、今はこの時間を輝かせる燃料に変えるしかない。イルカショーの歓声が近づく中、櫻の笑顔は少し強張りながらも、結城に向けられていた。


 ★ イルカショーを楽しむ

 おたる水族館のイルカショーが始まった。観客席に座った結城と櫻は、プールで泳ぐイルカたちを眺める。ショーが進むにつれ、イルカが水面を跳ね、高くジャンプするたびに櫻が目を輝かせてはしゃぐ。


「ゆーき、見てみて! なまらすごいべさ!」


 櫻が立ち上がって手を叩き、白に薄い桜色の髪が跳ねる。淡い緑色のワンピーススカートがふわりと揺れ、彼女の無邪気さが全開だ。

 結城が隣で笑う。


「お前、ほんと子供みたいだな」


 内心、彼は櫻を心から可愛いと思っていた。海での勢いや水着の騒動も含めて、櫻の明るさが結城の心を熱くする。ノートに書いた「衝動性」が目の前で弾けているけど、今日はそれがただ純粋に愛おしい。観測点を固定しようと意識しながらも、櫻の笑顔に自然と引き込まれていた。

 ショーが中盤に差し掛かると、司会者が観客席に向かってマイクで呼びかける。


「さて、次は皆さんの中からお手伝いさんを募集します! そこの緑のワンピースのお嬢さん、いかがですか?」


 櫻が「え!? ボク!?」と驚きつつ、結城に目をやる。結城が「行ってこいよ」と笑って背中を押すと、彼女が「なんぼか緊張するべさ!」と言いながらプール端に駆けていく。観客席から拍手が沸き、櫻が照れ笑いを浮かべる。

 プール端で、トレーナーの指示に従い、櫻がイルカと握手する。イルカが鼻先を差し出すと、櫻が「うわっ、可愛い!」と手を伸ばす。イルカが軽く鳴き声を上げ、櫻が「えへへ~」と笑う。その姿を結城が観客席から見つめる。


「可愛いな、櫻……ほんと、楽しそうでいいよな」


 ショーのクライマックスが近づき、司会者が「最後はイルカからのプレゼントです!」と盛り上げる。櫻がプール端に立ったまま見ていると、イルカが勢いよく尾びれで水を跳ね上げた。――瞬間、櫻に大量の水が降りかかる。


「うぎゃっ!?」


 櫻が驚きの声を上げ、観客席が笑いに包まれる。結城も笑いながら立ち上がるが、すぐに異変に気づく。櫻の淡い緑色のワンピースがびしょ濡れになり、下着が薄っすら透けてしまっていた。白に薄い桜色の髪が水で貼りつき、彼女が慌てて腕で胸元を隠す。


「なん、なんかやばいべさ! ゆーき、助けてぇ!」


 結城が急いで観客席から降り、持っていたタオルを手に櫻に駆け寄る。


「お、おい、大丈夫か!? ほら、これ被れ!」


 タオルを櫻に渡し、彼女を観客の視線から隠すように立つ。櫻がタオルで体を覆い、顔を真っ赤にして呟く。


「恥ずかしいべさ……でも、ゆーき、ありがと」


 結城が少し照れながら言う。


「ったく、お前らしいな……まぁ、イルカショー楽しめたなら良かったよ」


 櫻が「うん、なんぼか楽しかったべさ」と笑うが、濡れた服と透けた下着のせいでまだ顔が赤い。

 観客席がざわつきつつもショーが終わり、二人は濡れた櫻をどうにかするために休憩所へ向かう。


 海獣公園の散策

 おたる水族館の海獣公園は、自然の岩場を利用したエリアで、アザラシやトドがのんびり泳いだり寝そべったりしている。夏の風が心地よく、櫻の濡れたワンピーススカートが少しずつ乾いていく。

 櫻が岩の上のトドを指さして言う。


「ゆーき、あそこ見てみて! なまらでっかいべさ!」


 結城が隣で笑う。


「あれ、動く気ゼロだな。腹出して寝てるだけじゃん」


 櫻が「えへへ~」と笑いながら近づく。濡れた服の冷たさも忘れて、彼女の好奇心が全開だ。結城がその姿を見ながら思う。


「櫻のこういうとこ、ほんと可愛いな……守りたいって気持ちが強くなる」


 ノートに書いた「衝動性」を抑えつつ、フラットに櫻を見つめる努力を続ける。でも、彼女の笑顔が自然と心を熱くする。

 二人はアザラシの泳ぐ姿を眺めながら歩き、櫻が突然立ち止まる。


「ゆーき、服、なんぼか乾いてきたべさ! 風、気持ちいいよ」


 ワンピーススカートを軽く広げて風に当てると、下着が透ける心配も減り、櫻が安心したように笑う。結城が「良かったな」と返す。ハプニングを乗り越えた二人の距離が、少し近づいた気がした。


 やる気のないペンギンショー

 服がほぼ乾いた頃、二人は海獣公園内のペンギンショーのエリアにたどり着いた。おたる水族館名物の「やる気のないペンギンショー」は、ペンギンたちがトレーナーの指示を無視して自由に歩き回るゆるいイベントだ。

 ショーが始まると、櫻が観客席から身を乗り出す。


「おー、ゆーき、なんぼか面白いべさ! ペンギン、勝手に歩いてるよ!」


 ペンギンたちがトレーナーの笛を無視し、のそのそ歩いたり水に飛び込んだりする姿に、櫻が手を叩いて笑う。

 結城も笑いながら言う。


「やる気ねぇな、こいつら。櫻の方がよっぽど元気だよ」


 櫻が「ボク、ペンギンよりすごいべさ!」と得意げに胸を張る。ワンピーススカートが風に揺れ、白に薄い桜色の髪が陽光に輝く。

 ショーの途中で、ペンギン一匹が観客席に近づき、櫻の足元で止まる。櫻が「うわっ、なんか可愛いべさ!」としゃがんで見つめると、ペンギンが首をかしげる。結城が「お前、動物に好かれるタイプだな」と笑う。

 ショーが終わり、二人はベンチに座って一息つく。櫻が結城に寄り添いながら言う。


「ゆーきと一緒、なんぼか楽しいべさ。服濡れても、全然気にならなかったよ」


 結城が少し照れながら返す。


「俺も楽しかったよ。櫻がはしゃいでるの見てると、なんか元気出るな」


 櫻の「えへへ~」と笑う声が響き、結城の心に温かいものが広がる。イルカのシャワーで慌てた櫻を守った時から、彼女への「守りたい」気持ちが強くなっていた。



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