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振り子を止める方法は

 ★ 最低だと足を止めるのは簡単だけど

 結城はノートを手に持ったまま、深呼吸した。櫻と静流への想いが赤方偏移と青方偏移で揺れ、動く観測点が計測を狂わせるなら、まずその観測点を固定しなきゃいけない。酉城の「何してやりたいか考えろよ」が頭に響く中、彼は新たなアプローチを思いついた。


「観測点を固定するには、好きとか嫌い、そういうのを一度取り払うしかない」


 結城がノートに新たなページを開く。感情的なフィルターを外し、出来る限りフラットな視点で「藤原櫻」と「水鏡静流」を見直す。

 一瞬、自分が最低なことをしているような気持ちが走った。櫻の笑顔や静流の優しさを「好き」から切り離すなんて、彼女たちを否定するみたいで胸が締め付けられる。でも、それでも考えを止めない。


「これでいいんだ……動く観測点を止めるには、俺がブレちゃダメだ」


 結城のノート:フラットな視点での見直し

 藤原櫻

 基本情報:藤原櫻。10年前の思い出の女の子の一人、小柄で運動神経が良い。白に薄い桜色の髪。家族は果樹農家。


 行動特性:明るく勢いがある。感情をストレートに出す。岩場でタコを探したり、水着のショーツ騒ぎで慌てたり。無邪気で人を引っ張る力がある。


 俺との関係:よく一緒に遊ぶ。海で転びそうになった時、俺が助けた。「ゆーきが大好きだから!」と告白してきた。背中のスリット水着や日焼け止めで俺をドキドキさせる。


 フラットな観点:櫻はエネルギーの塊。近くにいると影響されるし、周りを明るくする。俺に対して積極的で、行動で気持ちを示すタイプ。失うと周りが暗くなる可能性が高い。


 水鏡静流

 基本情報:水鏡静流。10年前の思い出の女の子の一人 穏やかで几帳面。天文学が好き。白に薄く水色の髪。家族も果樹農家。


 行動特性:落ち着いていて頭が良い。感情を抑えるけど、時々大胆になる(「みたい?」とか紐ビキニ)。ノートに記録する癖がある。


 俺との関係:一緒にいると安心する。海で日焼け止めを塗ったり、タイドプールで観察したり。「あなたを愛してる」と告白してきた。優しさと意外な一面で俺をドキドキさせる。


 フラットな観点:静流は安定の支点。近くにいると心が落ち着くし、深い考えを持ってる。俺に対して控えめだけど、確かな気持ちを伝えるタイプ。失うと俺のバランスが崩れる可能性が高い。


 結城がペンを置く。感情を剥がして櫻と静流を見直すと、二人の本質が浮かび上がってくる。櫻は「動」のエネルギー、静流は「静」の支点。どちらも結城にとって欠かせない存在だ。でも、好きとか嫌いを取り払っても、心のどこかで揺れが止まらない。


「フラットに見ても、櫻は熱くて、静流は落ち着く……でも、それだけじゃねぇんだよな」


 結城がノートを閉じる。感情を外しても、櫻の「ゆーき!」と呼ぶ声や、静流の「結城……」と見つめる瞳が頭に浮かぶ。一瞬の罪悪感がまた走るが、彼はそれを振り払う。


「最低だとか思うのは後でいい。今は観測点を固定する。俺がブレなきゃ、赤も青もちゃんと見えるはずだ」


 結城が窓の外を見る。月がリンゴ畑を照らし、静かに輝いている。櫻と静流をフラットに見直した今、次のステップが必要だと感じていた。


「何してやりたいか、か……守りたいのか、抱きしめたいのか。それを見つけるには、まず俺がどこに立つか決めなきゃいけねぇ」


 ノートに刻んだ分析が、結城の心に小さな軸を作り始めていた。動く観測点を固定するために、彼は感情を超えた視点で櫻と静流に向き合おうとしていた。


 ★ 振り子を止める方法は

 結城はノートを手に持ったまま、机の上の参考書に目をやった。天文学で櫻と静流への想いを分解してきたが、それだけじゃ観測点を固定しきれない気がしていた。ふと、中学の時に読んだ心理学の本が頭に浮かぶ。興味本位で図書室で借りた「認知心理学入門」。あの時、「人の心って面白い」と思ったのを思い出す。


「天文学だけじゃ足りねぇなら、心理学で補えばいいか……」


 既に大量に散らばる本の山が更に標高を増し、結城がノートに新たなページを開く。感情をフラットに剥がした後、心理学的視点で櫻と静流を見直し、自分の揺れる心を分析する。観測点を固定するには、まず自分の「認知の歪み」を理解しなきゃいけない。

 結城のノート:心理学的視点の導入

 櫻:衝動性と認知バイアス

 心理学的フレーム:櫻への想いは「衝動性」と「認知バイアス」に支配されてる。心理学で言う「即時報酬バイアス」――すぐ目の前の感情に飛びつきたくなる傾向だ。


 分析:櫻の明るさや「ゆーきが大好きだから!」って笑顔は、俺に即座にドキドキを与える。海で背中のスリットを見たり、お尻に触れた時、心が熱くなって理性が飛ぶ。でも、その衝動が「愛情なのか欲望なのか」を曖昧にする。


 例:櫻が転びそうになった時、助けたのは衝動だった。でも、手が触れた後の「ひゃんっ!」で、欲望が膨らんで愛情が埋もれた気がした。認知が「今欲しい」って方に偏ってる。


 結論:櫻への気持ちは、衝動が強すぎて長期的な愛情を見極めにくい。俺の観測点が「今」に引っ張られてブレる。


 静流:両価感情と投影

 心理学的フレーム:静流への想いは「両価感情」と「投影」に影響されてる。両価感情は、相反する気持ち(愛情と欲望)を同時に持つ状態。投影は、自分の感情を相手に押し付けて解釈すること。


 分析:静流の優しさや「あなたを愛してる」は、俺を安心させる。でも、「みたい?」ってからかわれた時や紐ビキニを見た時、欲望が混じる。愛情と欲望が両方あって、心が分裂する。俺の罪悪感が静流に投影されて、彼女を「遠く感じる」って錯覚してるのかも。


 例:日焼け止めを塗った時、「あったかいね」って声に愛情を感じたけど、背中の感触に欲望が湧いて、俺が「最低だ」って思った分、静流が遠く見えた。


 結論:静流への気持ちは、両価性が観測点を揺らし、投影が距離感を歪ませてる。俺が自分でブレを作ってる。


 選択のパラドックスと観測点の揺れ

 心理学的フレーム:櫻と静流を選べないのは「選択のパラドックス」。選択肢が多いほど決められなくなる心理だ。俺の観測点が動くのは、このパラドックスに囚われてるから。


 分析:櫻の衝動的な魅力と静流の安定した深さ、どっちも失いたくない。損失回避バイアス――失う痛みを避けたい気持ちが、選択を先延ばしにする。櫻に近づくと静流を失うのが怖いし、静流に寄ると櫻を傷つけるのが怖い。


 例:海で櫻を助けた時、静流の視線を感じて罪悪感が走った。静流の胸を支えた時、櫻の笑顔が頭に浮かんで焦った。どっちかを選ぶたび、反対側の「失うイメージ」が膨らむ。


 結論:観測点が動くのは、俺が選択のパラドックスで視差を作ってる。固定するには、損失を恐れず一つに絞る覚悟が要る。


 結城の気づき

 結城がペンを置く。心理学で櫻と静流を見直すと、自分の心の歪みが浮き彫りになる。櫻への衝動は「今」を求め、静流への両価感情は「罪悪感」を投影し、選択のパラドックスが観測点を揺らしてる。


「俺がブレてる原因って、認知の歪みか……櫻の赤方偏移も静流の青方偏移も、俺の頭の中で増幅されてるだけなのかもしれねぇ」


 結城が呟く。酉城の「何してやりたいか考えろよ」が新たな意味を持つ。守りたいのか、抱きしめたいのかを決めるには、まず自分のバイアスを外し、フラットな観測点を定めなきゃいけない。


「衝動を抑えて、両価性を整理して、パラドックスを乗り越える……それができりゃ、観測点が固定できる」


 結城がノートを閉じる。窓の外の月がリンゴ畑を照らし、彼の心に小さな決意が芽生える。


「夏休みの終わりまで……この歪みを少しでも減らして、櫻と静流にちゃんと向き合えるかな」


 天文学と心理学が交錯し、結城は櫻と静流への想いを整理する新たな軸を見つけていた。動く観測点を固定するために、彼は自分の心の歪みと向き合う一歩を踏み出していた。


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