少し早めに
★ 学校祭、何やるの?
その日、担任教師の授業の進みに余裕があるということで、空いた時間を使って学校祭の企画を大雑把に考える話になった。確かに早めに何をするか決めておけば、準備に余裕を持たせられる。悪くないアイデアだ。
まだ時間はたっぷりあるので、本決まりには程遠い。出てくる意見は全体的にふわっとしたものばかりだった。内容は大きく分けて、毎年恒例の学年ごとの演劇と、クラス展示。去年はメイド喫茶をやって賛否両論だったらしい。特に酉城のメイド服姿が大爆笑を呼んだと、結城は後から聞いた。
教室の後ろで、櫻が静流に絡むように声をかけていた。
「ね~、しずるちゃん~、なんか使えそうな伝承とか、面白昔話とか無いかな?」
白に薄い桜色が混じる髪を揺らし、櫻が机に肘をついて静流に顔を近づける。
静流が白い髪に薄く水色が入った毛先を指で軽く整えながら考える。
「ん~、地域史だけど、イヨチコタンの戦いとかどうかな?」
結城が隣で聞き耳を立てながら口を挟む。
「松前藩とアイヌが戦ったやつ?」
静流が穏やかに訂正する。
「それはシャクシャインの戦いだね。イヨチコタンは、もっと古い縄文時代末期の話で、余市に近い場所での争いがあったっていう伝承だよ」
櫻が目を輝かせる。
「おぉ、なんぼかかっこいいべさ! 戦いの演劇とかどうだろ?」
酉城が教室の前から大声で割り込む。
「戦いなら俺が主役だべ! アイヌの戦士役で、でっかい槍持って暴れるぞ!」
豪快に笑う彼に、クラスメイトが「お前、また目立とうとしてるべさ!」と突っ込む。
結城が小さく笑いながら言う。
「去年のメイド服から一転して戦士かよ。振り幅すごいな」
酉城が胸を張る。
「当たり前だべ! 俺はどんな役でもこなす男だぞ!」
櫻が笑いながら提案する。
「じゃあ、ボクとしずるちゃんはアイヌの姫役だべさ! なんぼか可愛くできるよね?」
静流が苦笑する。
「なんぼか姫は無理があるよ……でも、衣装なら地域の資料館に相談すれば本物っぽいの借りられるかも」
クラス展示の話題に移ると、西川が手を挙げる。
「農業実習の成果を売る即売会は毎年やるべさ。トウモロコシとかリンゴとかさ」
櫻が勢いよく反応する。
「そだべさ! ボクたち、美少女農家で売り子やるんだよね!」
静流が頬を赤らめて返す。
「なんぼか恥ずかしいけど、学校祭なら頑張れるよ」
結城が内心でドキッとする。櫻と静流の告白後の変化が、学校祭の準備にも影響を与えている気がした。夢の中の彼女たちの姿が一瞬頭をよぎり、彼が慌てて目を逸らす。
酉城が結城に絡む。
「お前も売り子やれよ! 美少女農家の一人としてさ!」
結城が即座に返す。
「ふざけんな、俺は裏方でいいよ」
櫻がニヤッと笑う。
「ゆーき、逃げても無駄だべさ! ボクたちと一緒に売るべ!」
クラスが笑いに包まれる中、担任が「はい、適当にまとめておいて」と一度締める。
★ 若干の不安を含む立候補
静流の「イヨチコタンの戦い」という提案に、教室の空気が少し動き始めた。櫻が「なんぼかかっこいいべさ!」と盛り上がる中、担任が「まぁ、適当に案を出してまとめておいて」と言うのを聞きつけて、 一人の女子が口を開いた。
「なるほどなるほど……つまり、そのマイナー伝承をやると、確かにアレンジしたりとなると今位が一次締め切りって感じだねぇ」
結城が小さく突っ込む。
「いや締め切りって……」
声の主は大崎だった。静流と同等かそれ以上に読書量が多いクラスメイトで、適当におさげに結んだ髪を揺らし、彼女のトレードマークともいえる大きな眼鏡が何かギラリと光った気がした。大崎が机に肘をつき、興味津々に続ける。
「そうなると15分でまとめて、ちょっとアレンジ……って訳にもかなぁ。サイドストーリーみたいな感じになるけど、そのネタ、預けてくれない?」
静流が白い髪に薄く水色が入った毛先を指で軽く触りながら、少し引き気味に答える。
「あ、う、うん……お手柔らかにね? さきさん」
大崎の色々な趣味にたまに振り回される経験がある静流は、彼女の勢いに警戒心を抱いていた。大崎が眼鏡をクイッと上げ、ニヤリと笑う。
「任せてよ、静流ちゃん。イヨチコタンの戦いをベースに、恋愛要素とか裏切りとか入れて、15分でグッとくるミニドラマに仕立てるからさ!」
櫻が横から首を突っ込む。
「おぉ、なんか面白そうべさ! ボク、姫役やるべ!」
大崎が櫻を見て目を細める。
「櫻ちゃんは確かに姫っぽいねぇ。じゃあ、静流ちゃんは戦士の妹とかで、恋に悩む役はどう?」
静流が慌てて返す。
「無理があるよ……私、演技とか苦手だし」
結城が小さく笑いながら言う。
「いや、静流なら似合いそうだよ。戦士の妹って感じ」
静流が頬を赤らめて目を逸らす。
「結城まで変なこと言わないで……」
酉城が大声で割り込む。
「俺は戦士だべ! 大崎、槍持って暴れるシーン入れろよ!」
大崎が頷く。
「了解、酉城は戦士でバトルシーンね。結城は……姫を巡るライバル役とかどう?」
結城が即座に拒否する。
「ふざけんな、俺は裏方でいいって言ってるだろ」
櫻がニヤッと笑う。
「ゆーき、ライバル役ならボクと絡めるべさ! なんぼか楽しいよ!」
大崎が「決まり!」と勝手に話を進め、教室が笑いと騒ぎに包まれる。静流が「さきさん、ほんとにお手柔らかにね……」と呟くも、大崎の眼鏡が再びギラリと光り、彼女の頭の中ではすでにアレンジが膨らんでいるようだった。
担任が「はい、時間切れ。後は適当にまとめておいて」と締めると、クラスはまだふわっとした案のままだったが、大崎の手によってイヨチコタンの伝承がどうなるのか、誰も予想がつかない展開を予感させていた。結城は櫻と静流の笑顔を見ながら、夢の罪悪感と現実の彼女たちの明るさが交錯する心を、どうにか抑えようとしていた。




