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春から夏へ

 ★ 夏の実習(トウモロコシと学校祭)

 学校の農業実習も、時期が進むにつれてやることが増えてきた。余市の農業は果樹だけじゃない。畑作も授業にしっかり組み込まれている。7月初旬のこの日、結城たちは学校の畑でトウモロコシの種植えに取り組んでいた。

 結城がスコップを手に土を掘りながら、隣の猪俣に尋ねる。


「なぁ、とうもろこしって夏野菜だよな? 今から種植えて間に合うのか?」


 スーパーにトウモロコシが出回るのは夏だったはずだと思い出しながらの質問だ。

 猪俣が大真面目に答える。


「あ~、これは秋取りの奴な、学校祭で売る奴」

「おぉ、秋どりのは味が濃いからうまいぞ~」


 怪しく「ククク……」と笑う猪俣に、結城がちょっと引く。


「お、おぅ……」


 だが、聞き捨てならない単語があったことを思い出し、結城が眉を顰める。


「ところでさ、今学校祭で売るとか言ったか?」


 猪俣がトリップしたまま答えないので、横から西川が声をかけてくる。


「あぁ、毎年学校祭で作った野菜果物の即売やるんだよ」


 酉城が大声で締める。


「札幌や小樽から買いに来る人もいたりするからな! 毎年力入れてる所だべ!」


 結城がスコップを土に刺したまま考える。都会の学校じゃ考えられない行事だ。余市に来てから、農作業が日常に溶け込んでいることに少しずつ慣れてきた。でも、学校祭で売るとなると、また櫻と静流が絡んでくる予感がする。

 畑の反対側では、女子たちが別の作業を進めていた。櫻がトウモロコシの種を手に持つ。


「これ、小さくて可愛いべさ!」


 静流が穏やかに笑う。


「うん、育つのが楽しみだよ」


 そこへ、クラスメイトの女子がニヤニヤしながら割り込んでくる。


「それに、今年は売り子も期待できるしね~」


 櫻がむっとした顔で返す。


「なんでボクとしずるちゃん見ながら言うのさ?」

「え? そりゃあのチラシ見かけたらね、やってもらわん理由がないべさ」


 櫻と静流の「美少女農家」チラシが話題になったことを思い出し、櫻が頬を膨らませる。


「ボク、売り子なんてやったことないべさ!」


 静流がフォローする。


「私も緊張するけど、一緒なら大丈夫だよ、さくらちゃん」


 女子たちの間で何かしらの押し付け合いが始まり、櫻が「なんでボクが!」と騒ぐ声が畑に響く。結城が遠くからその様子を見て、小さくため息をつく。告白を受けた日から、二人の距離感が微妙に変わった気がする。でも、こうやって騒いでいる姿はいつも通りで、少しだけ安心する。

 猪俣が再び「ククク……」と笑いながら結城に近づく。


「なぁ、結城、学校祭楽しみだろ? お前も売り子やれよ、チラシの三人目としてさ」


 結城が即座に返す。


「ふざけんな、俺はやらねぇよ」


 酉城が大声で絡む。


「何!? 結城、お前も美少女農家の一員だろ! 逃げんなよ!」

「誰が美少女だよ!」


 結城が突っ込むと、畑に笑い声が響き渡る。トウモロコシの種が土に埋まり、夏の実習が賑やかに進んでいた。


 ★ 少し変わった静流

 ある日の昼休み、静流はいつも通り教室の机で本を読んでいた。窓から差し込む夏の日差しが、白く薄い水色が入った彼女の髪に柔らかな光を反射させる。白髪に淡い水色のニュアンスは、まるで星空に浮かぶ雲のようで、静流の穏やかな雰囲気を一層引き立てていた。そこへ、クラスメイトの女子・佐藤が近づいてきて、唐突に声をかける。


「あれ? 静流、なんか雰囲気変えた?」


 静流が本から目を上げ、少し首をかしげる。


「ん? ……いえ、特には」


 穏やかな声で返すが、内心では少しドキッとしていた。

 佐藤がジロジロと静流を観察しながら続ける。


「いや~、なんか違うよ~……あんたあんまり化粧っ気なかったっしょ」


 静流が一瞬目を丸くする。白い髪に薄く水色が混じる毛先が、彼女の動きに合わせて軽く揺れる。


「化粧……? なんぼかケアを意識しただけだよ」


 告白後、風呂上がりに「少し意識してみようかな」と考えたことが頭をよぎる。最近、スキンケアに時間をかけたり、白髪に薄い水色が映えるようヘアオイルを試してみたりしていた。普段は素朴なままの静流にとって、それは小さな変化だった。でも、佐藤の鋭い目に気づかれるとは思っていなかった。

 佐藤がニヤニヤしながら追及する。


「ケアって何!? なんか恋でもしたんじゃないの~?」


 静流の頬がほんのり赤くなる。


「そ、そんなんじゃないよ……ただ、なんぼか綺麗になりたいなって」


 本を閉じ、誤魔化すように笑う。白い髪に水色の光沢が、教室の光の中でほのかに輝く。

 そこへ、もう一人のクラスメイト・田中が加わる。


「へぇ~、静流が綺麗になりたいって珍しいね! いつもナチュラルでいいじゃんって言ってたのにさ」


 静流が少し照れながら返す。


「うん、でも、少し変わってみるのもいいかなって……」


 佐藤が目を輝かせて畳み掛ける。


「絶対何かあるよ! ねぇ、誰か好きな人でもできた? 結城とか?」


 静流が慌てて否定する。


「ち、違うよ! 急に勝手なこと言わないで」


 声が少し上ずり、頬がさらに赤くなる。白い髪に薄い水色が混じる毛先が、彼女の慌てた動きで揺れ、まるで星が瞬くようだった。内心では、結城に「綺麗」と思われたい気持ちが確かにあった。でも、それをクラスメイトに悟られるのは恥ずかしすぎる。

 田中が笑いながら言う。


「まぁ、静流がちょっと変わったのは確かだね。なんか大人っぽくなったっていうかさ。髪もなんか綺麗になったし」


 佐藤が頷く。


「うんうん、チラシの美少女農家がさらにパワーアップした感じ! 白い髪に水色って、ほんと星みたいだよ~」


 静流が苦笑する。


「大げさだよ……」


 本を手に持ったまま、目を伏せる。告白した日から、結城に自分の想いを届けるために、少しでも自分を磨きたいと思うようになった。その小さな努力が、白い髪に薄い水色が入った特徴的な姿に表れ始めているのかもしれない。

 教室の反対側で、櫻が友達と騒いでいる声が聞こえる。「ボク、売り子なんてやだべさ!」と笑う声に、静流が小さく微笑む。櫻は変わらず太陽のままで、自分は星として輝こうとしている。その違いが、二人の競争をさらに際立たせていた。


 ★ 静流のケア方法

 その日の放課後、静流は自室に戻り、机の上に小さな鏡とケア用品を並べていた。窓の外ではリンゴ畑が夕暮れに染まり、白い髪に薄く水色が入った毛先が、部屋の柔らかな光に映えている。告白してから数日、彼女は「なんぼか綺麗になりたい」という気持ちを少しずつ形にし始めていた。

 静流が手に取ったのは、母が使っていたスキンケア用の化粧水だ。普段は水で顔を洗うだけで済ませていたが、最近は風呂上がりにこれを軽く叩き込むようになった。


「なんぼか肌が柔らかくなるかな……」


 鏡を見ながら、小さく呟く。クラスメイトの佐藤に「雰囲気変わった」と言われたことが頭に残っていて、静流自身も自分の変化を実感したいと思っていた。

 次に、彼女が手に取ったのはヘアオイル。白い髪に薄い水色が入った特徴的な髪色は、静流の「星のような」イメージそのものだ。でも、夏の乾燥で毛先が少しパサつきがちだった。オイルを数滴掌に取り、髪に馴染ませる。指先で丁寧に梳くと、水色の光沢がほのかに際立つ。


「結城に、綺麗って思われたいな……」


 心の中で呟きながら、鏡に映る自分を見つめる。頬が少し赤くなるのは、ケアのせいだけじゃない。

 静流のケア方法は、シンプルで素朴だ。化粧品店で派手なものを買う勇気はないし、そもそも余市でそんな店は遠い。母の化粧水と、ネットで調べて買ったヘアオイルが彼女の武器だった。それでも、毎晩少しずつ続けることで、白い髪に水色のニュアンスがより美しく見えるようになっていた。

 彼女がもう一つ意識し始めたのは、姿勢だ。ノートに夢を書く癖がある静流は、つい猫背になりがちだった。でも、最近は背筋を伸ばし、歩く時に肩を軽く開くようにしている。


「少し……大人っぽくなりたいよ……櫻ちゃんみたいに、勢いは出せないけど」


 櫻の太陽のような明るさに憧れつつ、自分は星として輝く方法を選んだのだ。

 ケアを終え、静流が鏡を片付ける。机の上には、天体望遠鏡と並んで小さなハンドクリームが置かれている。これも最近使い始めたものだ。摘果作業で少し荒れた手を労わりながら、結城に触れられた時を想像してドキドキする。


「プロキシマに、結城と一緒に行けたら……その時、もっと綺麗でいたいな」


 窓を開けると、夏の夜風が部屋に入り、白い髪に薄い水色が混じる毛先をそっと揺らす。静流のケアは、彼女の夢と結城への想いを、少しずつ形にする小さな一歩だった。



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