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都市と地方の差

 ★ 写真の反響

 火曜の昼休み、櫻が教室に紙袋を抱えて入ってきた。疲れが抜けたのか、いつもの元気な足取りに戻ってる。中から取り出したのは、先日の撮影で完成したチラシの試作用写真だ。櫻が「見てみてぇ!」と叫ぶと、クラスメイトが一気に集まり、机の上に広げられた写真に歓声が上がる。

 櫻が持ってきた写真は、確かにクラスメイトを楽しませていた。透明リンゴを背景にした結城と櫻のペア写真は、二人が瓶を手に持って見つめ合ってるように見える。結城と静流の写真も、籠を二人で持つ姿が妙に絵になる仕上がりだ。そして、酉城が櫻と静流を肩に乗せて持ち上げる写真は、彼のゴリラ並みの力強さをこれ以上ないほどにアピールしていた――ただし、その分リンゴジャムやピクルスの商品インパクトは薄れてた。

 クラスメイトの一人が笑いながら言う。


「結城と櫻、なんかラブラブじゃねぇか! キス寸前みたい!」


 別の子が酉城の写真を指さす。


「酉城、マジゴリラだな! 商品よりお前が目立ってるぞ!」


 結城が写真を手に取って眉をひそめる。


「なぁ、なんで俺と櫻と静流のやつ、見つめ合ってるように見える様に加工してあるんだ?」


 櫻が慌てて手を振る。


「ボ、ボクじゃないよぉ! かーさんが勝手にやったべさ!」


 静流が写真を覗き込んで穏やかに言う。


「リンゴの赤と、赤いほっぺたをかけてるんじゃないかな。透明リンゴの色味に合わせて、ちょっと加工したみたいだね」


 櫻が顔を赤くして呟く。


「リンゴみたいに赤くなるって言うもんね……かーさんのばか……」


 机に突っ伏して恥ずかしさを隠すけど、クラスメイトの「めんこい!」という声でさらに赤くなる。

 結城が静流に目を向ける。


「俺と櫻のはまだ分かるけど、俺とお前のも見つめ合ってるっぽいぞ。これ、ちょっと怖いんだけど」


 静流がクスッと笑う。


「夕日の反射がそう見せてるのかもね。私もなんぼか恥ずかしいよ」


 酉城が豪快に笑いながら割り込む。


「俺の写真はどうだ! ゴリラの本領発揮だぜ! 商品より俺が主役だろ!」


 クラスメイトが「商品どこいったんだよ!」と突っ込むと、酉城が「力強さがジャムを売るんだぜ!」と胸を張る。櫻が顔を上げてジト目で言う。


「とり、ボクらを担ぎ上げたせいで、なんも商品見えないべさ……」


 結城がため息をつく。


「まぁ、確かに目立つけどね。あれだけゆるくない撮影だったんだから、インパクトはあるだろ」


 櫻が紙袋からもう一枚取り出す。そこには全員が貝塚で並んだ写真が写っていて、アットゥシ姿の四人が自然に笑ってる。櫻が小さく言う。


「これ、みんなで撮ったやつだよぉ。なんぼか楽しかったべさ」


 クラスメイトが「おお~、伝統っぽい!」と盛り上がり、静流が「余市のいろんな顔が詰まってるね」と頷く。結城が写真を見つめて呟く。


「あの風の中で撮ったわりには、悪くないな」


 櫻が結城に寄りかかり、「ゆーき、余市好きになってくれたべさ?」と聞くと、結城が「まぁ、少しはね」と返す。

 酉城がニヤッと笑う。


「お前ら、また夫婦っぽいぞ」


 教室が笑いに包まれ、櫻が「とり!」と絡みつく。写真の反響は、クラスを賑わせるだけでなく、結城たちの絆を少しだけ深めた気がした。

 あの撮影、ちょっと怖かったけど……チラシ、なかなか面白い出来だな

 結城は内心で苦笑しつつ、櫻の眩しい笑顔と酉城のゴリラっぷりを思い出しながら、余市の春を感じていた。


 ★ 現実とギャップ

 写真の反響で教室が盛り上がった翌日、結城は放課後に櫻の家の果樹園に呼ばれていた。透明リンゴでの撮影以来、櫻が「ゆーきも手伝えればさ!」と騒いだ結果だ。酉城は部活で来られず、静流と櫻の二人に付き合う形になった。

 結城が果樹園に着くと、目の前に広がる光景に思わず立ち止まる。

 実際、アイヌ衣装の櫻と静流は可愛らしかった。あの藍色と茶色のアットゥシに身を包み、透明リンゴを背景に笑う二人は、本気でメイクして相応の服装をすれば、札幌どころか東京でも振り返る男が間違いなく多いだろう。櫻の眩しい笑顔と静流の穏やかな美しさは、チラシでもクラスメイトを騒がせたほどだ。


「けど……現実はこれだよなぁ」


 結城が呆然と呟く。

 目の前では、白い上下の作業着に身を包んだ櫻と静流が、髪を完全に帽子に押し込み、軍手をはめて肥料と腐葉土を混ぜた土をならしていた。櫻がスコップを手に「なんぼか重いべさ!」と汗を拭い、静流が「しゃっこい風が気持ちいいね」と穏やかに土をかき混ぜる。土の匂いが漂い、二人の作業着には泥が飛び散っている。

 東京の女子なら、絶対に悲鳴を上げて逃げ回るだけでやらない作業だ。結城は思わず考え込む。

 こっちの女子が強いのか、向こうの女子が弱いのか……どっちなんだろうな

 櫻が結城の視線に気づいて振り返る。


「ゆーき! ぼーっとしないで、手伝えよぉ!」


 スコップを突き刺して土を掘りながら、作業着姿の櫻が笑う。顔に泥が少しついてるけど、その笑顔は相変わらず眩しい。

 静流が土をならしながら言う。


「結城も軍手あるよ。なんぼか汚れるけど、慣れれば楽しいから」


 帽子から少しだけ白い髪が覗き、作業着越しにも彼女の落ち着いた雰囲気が伝わる。

 結城がため息をつく。


「いや、俺は見てるだけでいいかな。東京ならこんな作業、絶対やらないだろうなって思ってさ」


 櫻が「むぅ~!」と膨れる。


「東京とか関係ないべさ! 余市じゃこれが普通だよぉ! ゆーきも旦那様なら手伝えよね!」


 静流がクスッと笑う。


「櫻ちゃんの言う通りだよ。余市じゃ春の土ならしは大事な仕事だから。なんぼか疲れるけど、作物が育つと嬉しいよ」


 結城が渋々軍手を手に取る。


「分かったよ。でも、東京の女子なら土触るだけで叫びそうだな。こっちの強さ、ちょっとすごいと思うよ」


 櫻がスコップを手に得意げに言う。


「そーだべさ! ボクら、しゃっこい風でも平気だし、土も怖くないよぉ!」


 結城が土を掘り始めると、櫻が隣で「ゆーき、上手だべさ!」と褒め、静流が「慣れてきたね」と微笑む。泥だらけの作業着姿の二人が、アイヌ衣装の華やかさとは真逆のたくましさで土と向き合う姿に、結城は内心で苦笑する。

 アイヌ衣装じゃ東京でも目立つだろうけど……この現実も、なんぼか悪くないな

 果樹園に響く櫻の笑い声と、しゃっこい風に混じる土の匂いが、余市の春を濃く感じさせていた。東京とのギャップを考えつつ、結城はスコップを握る手に少しだけ力を込めた。


 ★ 土ならしの後の休憩

 櫻の家の果樹園で土ならしを終えた頃には、結城の手も軍手越しに土で汚れていた。櫻と静流がスコップを置いて「終わったべさ!」「やっと一段落だね」と息をつき、三人は畑の脇に置かれたベンチに腰を下ろす。しゃっこい春風が汗を冷やし、土の匂いが鼻をくすぐる。櫻の母親が「お茶持ってきたよぉ!」と ポットと紙コップを手に現れ、休憩タイムが始まった。

 結城が紙コップを受け取りながら言う。


「いや、疲れたな。土ならしって結構体力使うんだな」


 櫻が作業着の袖をまくりながら笑う。


「そーだべさ! でも、これでリンゴが美味くなるんだよぉ! ゆーきも頑張ってくれてありがとね!」


 静流が穏やかに頷く。


「結城、初めてにしては上手だったよ。なんぼか慣れてたみたいだね」


 結城が苦笑する。


「まぁ、なんとかね。東京じゃこんな作業、やる機会ないから新鮮だったよ」


 櫻が ポットからお茶を注ぎながら言う。


「東京の人は土触るのこわいべさ? ボクらには普通だよぉ!」


 そこへ、櫻がベンチ脇の土を指さす。


「あ、みみず」


 結城と静流が目をやると、確かに小さなミミズが土の上でもぞもぞ動いてる。櫻が何気なく手を伸ばし、指でつまんで適当に畑の方へ放り投げる。


「ほいっ」


 ミミズが弧を描いて飛んでいき、畑の土にポトリと落ちる。

 結城が呆れた顔で言う。


「お前、素手でミミズつまむのかよ……東京の女子なら絶対叫んで逃げるぞ」


 櫻が「えっ?」と目を丸くして笑う。


「みみずくらいなんでもないべさ! 畑にいっぱいいるし、土にいいんだよぉ!」


 静流がクスッと笑う。


「櫻ちゃん、たくましいね。私も慣れてるけど、なんぼかびっくりしたよ」


 結城が首をかしげる。


「たくましいっていうか、普通にやってるのがすごいな。こっちの女子、ほんと強いよ」


 櫻が得意げに胸を張る。


「そーだべ! ゆーきも慣れればみみずくらい平気になるべさ!」


 結城が即座に返す。


「いや、それは遠慮する。土ならしはいいけど、ミミズは触りたくないな」


 櫻が「むぅ~!」と膨れて絡んでくる。


「ゆーき、ボクの旦那様ならみみずも触ってよね!」


 静流が紙コップを手に笑う。


「櫻、結城に無理強いしないでね。でも、みみずって土を柔らかくしてくれるから、大事な仲間だよ」


 櫻の母親がベンチに近づいて言う。


「そーだよぉ、さくら。みみずは畑の味方だべさ。ゆーき君もそのうち慣れるよぉ!」


 結城が苦笑する。


「慣れるって言われてもなぁ……現実ってこういう感じなんだな」


 アイヌ衣装の華やかさとは真逆の、泥とミミズに囲まれた櫻と静流の姿を見ながら、結城は少し感心していた。

 櫻が紙コップを手に結城に寄りかかり、「ゆーき、疲れたべさ? でも、なんぼか楽しかったよね?」と聞くと、結城が頷く。


「ああ、まぁ悪くなかったよ。土の匂いも、しゃっこい風も、なんか新鮮だった」


 静流が穏やかに言う。


「余市の春って、こういう日常がいいよね。なんぼか疲れるけど、作物が育つのが楽しみだよ」


 櫻がミミズを投げた畑を見ながら笑う。


「そーだべさ! リンゴジャムも美味くなるよぉ!」


 結城が内心で呟く。

 ミミズ投げる櫻と、土ならしする静流か……なんぼかすごい現実だな

 お茶の温もりとしゃっこい風を感じながら、結城は余市のたくましい春に少しだけ惹かれていた。



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