写真撮影は続く
★ 撮影当日
次の休日、結局のところ櫻の家族に連れられて、結城たちは何か所かで写真を撮ることになった。櫻の両親が「車出すべや」と張り切って用意したワンボックスカーに、全員が乗り込む。運転席には櫻の親父さん、後部座席には櫻、結城、静流、酉城がぎゅうぎゅうに詰まり、助手席で櫻の母親が地図を広げている。
車が海沿いの道を走り出すと、櫻が助手席を覗き込んで言う。
「でさ、とーさん、写真撮るのはいいけど、どこで着替えるの? ボクもしずるちゃんも着替えてないけど」
櫻の親父さんがハンドルを握ったまま、のんびり答える。
「ん~? 車でいいべや。どうせ今の時期、海沿いなら観光客も居ないし」
櫻の目が一瞬細まる。
「……一端家帰って、着替えるから」
その声が、櫻にしては珍しく低いトーンで響く。結城が隣で「うわ」と小さく呟き、静流が目を丸くする。櫻の親父さんがバックミラー越しに娘を見て苦笑する。
「別にいいべや、どーせ誰も……」
「おとーさん」
櫻の声がさらに低く鋭くなる。今度こそ怒気が吹き上がりそうな気配に、助手席から櫻の母親の声が重なる。
「あらあら」
のんびりした口調なのに、どこか底冷えするような威圧感が漂う。車内の空気が一瞬凍った。
櫻の親父さんが慌ててハンドルを切る。
「わ、分かったべや! 一回家戻るから、着替えてくれ!」
櫻の母親が後ろを振り返り、柔らかく言う。
「という訳だから、ごめんね、酉城君、それと日野君。手際が悪くて申し訳ないけど、一度戻るんで着替えてね」
「あ、はい……」
結城と酉城の声が重なり、なんとも言えない気まずさが車内に広がる。
家に戻ると、櫻と静流はアイヌ衣装風のアットゥシを手に二階へ消え、結城と酉城は居間で待機させられた。櫻の親父さんが「なんぼか時間かかるべや」と呟きながらお茶を淹れ、母親が「お菓子でも食べててね」とクッキーを出す。
結城がクッキーを手にぼそっと言う。
「なぁ、酉城。お前、アイヌ衣装着るの平気なのか?」
酉城がニヤッと笑う。
「面白そうじゃねぇか。アットゥシ着て写真撮るなんて、なんぼかレアだぜ。櫻の親父さんもやる気マンマンだしな」
結城がため息をつく。
「俺はこわいわ。なんぼかゆるくないぞ、これ」
そこへ、階段を下りてきた櫻と静流が姿を現す。櫻は藍色のアットゥシ風衣装に身を包み、渦巻き模様が肩から裾まで伸びている。静流は落ち着いた茶色のアットゥシで、シンプルな幾何学模様がアクセントだ。二人とも髪を少し整え、櫻は恥ずかしそうに、静流は穏やかに立っている。
櫻の母親が目を輝かせて言う。
「おお~! めんこいべさ! さくらも静流ちゃんも似合うねぇ!」
櫻が「むぅ~!」と膨れる。
「めんこいとか言わないでよぉ! ボク、なんぼか緊張してるんだから!」
静流が苦笑する。
「私もちょっと……こんな服、初めて着るから……」
酉城が豪快に笑う。
「お前ら、めんこいしかねぇじゃん! 日野、俺らも早く着替えて並べよ!」
結城が渋い顔で言う。
「俺はパスしたいんだが……櫻の親父さんがやる気すぎて逃げられねぇな」
櫻の親父さんがニコニコしながら近づいてくる。
「日野君も酉城君も、アットゥシ用意してあるべや! 着てくれ、伝統とジャムが一緒に映える写真撮るぞ!」
結城が頭を抱える。
なんぼかこわいし、しゃっこい気分だわ……でも、櫻の家族の勢い、押しが強い。
内心では、アットゥシ姿の全員で撮る写真がどんな仕上がりになるのか、少しだけ興味が湧いていた。
車が再び海沿いへ向かう中、櫻が「みんなでやればこわくないべさ!」と気合いを入れる。結城はため息をつきつつ、この騒がしさが嫌いじゃない気がした。
★ 撮影当日:欄島海水浴場のドタバタ
櫻の親父さんの運転で車が欄島海水浴場に到着した。春の海沿いは観光客もまばらで、冷たい風が砂浜を吹き抜ける。車から降りると、櫻の母親がトランクからカメラと三脚を出し、親父さんが「ここで撮るべや!」と張り切って場所を決め始める。アットゥシ風衣装に着替えた結城、櫻、静流、酉城の四人は、砂浜に立って風に震えていた。
櫻が藍色のアットゥシの裾を押さえながら叫ぶ。
「とーさん! しばれる! 早く撮ってくれないと、ボク凍えるべさ!」
櫻の親父さんがカメラを構えて笑う。
「我慢しろ、さくら! めんこい写真撮るんだから、なんぼか頑張れ!」
酉城が隣で豪快にポーズを取る。黒いアットゥシに渦巻き模様が映え、腕を広げて仁王立ちだ。
「なぁ、見ろよ日野! 俺、アットゥシ着て海の男っぽくねぇか? これでジャム売れるぜ!」
結城が茶色のアットゥシの袖を引っ張りながら渋い顔で返す。
「海の男じゃなくて、ただの騒がしい奴だろ」
静流が落ち着いた声で言う。
「確かにしゃっこいね……でも、欄島海水浴場って夏は賑わうけど、今は静かで撮りやすいかも」
彼女の茶色のアットゥシはシンプルな幾何学模様が特徴で、風に揺れる姿が穏やかだ。
櫻の母親が「はい、並んで並んで!」と手を叩く。四人が砂浜に並ぶと、櫻がリンゴジャムとピクルスの瓶を手に持つよう指示される。櫻が瓶を掲げてポーズを取るが、風に煽られてよろける。
「うわっ! ゆるくないべさ、これ!」
酉城が即座に櫻を支え、笑いながら言う。
「お前、瓶持って転ぶとか、どんくさいな! 俺が一緒に持ってやるよ!」
酉城が櫻の隣で瓶を高く掲げ、二人で「はい、チーズ!」と叫ぶが、櫻が「チーズじゃなくてジャムだよぉ!」と突っ込む。
結城が呆れた顔で呟く。
「お前ら、ドタバタすぎだろ」
櫻の親父さんがシャッターを切りながら叫ぶ。
「いいべや、さくら! とり君もナイスだ! もっと動き出してくれ!」
櫻が「動き出すって何!?」と困惑する中、酉城が突然砂浜を走り出す。アットゥシの裾が風に翻り、瓶を手に「海の戦士!」と叫ぶ。櫻が慌てて追いかける。
「とり! 勝手に走るなよぉ! ボクも置いてかれちゃうべさ!」
二人が砂浜で追いかけっこを始めると、砂が舞い上がり、櫻の母親が「あらあら、砂かぶっちゃう!」と笑う。結城が静流にぼそっと言う。
「なぁ、あいつらなんぼかやべぇな。伝統とか進化とか関係ねぇだろ、これ」
静流がクスッと笑う。
「でも、楽しそうでいいよね。アットゥシ着て走る櫻と酉城君、なんかめんこいよ」
櫻が息を切らして戻ってくる。
「はぁ、はぁ……とり君、速すぎ! こわいしかねぇべさ!」
酉城がニヤッと笑う。
「お前が遅いだけだぜ! ほら、もう一枚撮ろう!」
櫻と酉城が再び並び、今度は瓶を手に「ジャムポーズ」を決める。櫻が「ボク、笑顔とか無理だよぉ!」とこぼすと、酉城が「俺が笑っとく!」と大口を開けて笑う。
櫻の親父さんが満足げに言う。
「よし、いい感じだべや! 次はお前ら二人も動いてくれ、日野君と静流ちゃん!」
結城が即座に拒否する。
「いや、俺は動かねぇ。櫻と酉城だけでなんぼか十分だろ。こわいわ、このドタバタ」
静流が穏やかに提案する。
「じゃあ、私たちは瓶持って立ってるだけでもいいよね? 伝統の雰囲気を出すのに」
櫻の母親が頷く。
「それでもいいべさ! さくらととり君が動いて、日野君と静流ちゃんが落ち着き担当だね」
撮影が続く中、櫻と酉城は砂浜で転びそうになったり、瓶を落としそうになったりで大騒ぎ。結城と静流は静かに瓶を持ち、海風に耐えながら見守る。
なんぼかこわいしゆるくないけど……櫻と酉城のドタバタ、なんぼかめんこいな
結城は内心で苦笑しつつ、アットゥシとジャムが映えるチラシの仕上がりを少し楽しみにしていた。
★ 大谷地貝塚の夫婦っぽいドタバタ
欄島海水浴場の撮影を終え、櫻の親父さんの運転で車は次の場所、大谷地貝塚へ向かった。余市町の山間部に位置するこの遺跡は、続縄文時代の貝塚として知られ、静かな森と春風が広がる。車が停まると、櫻の母親が「ここは落ち着いた雰囲気でいいべさ!」と三脚を立て、親父さんが「伝統感が出るぞ!」とカメラを構える。
アットゥシ風衣装の四人は、貝塚の周囲に広がる木々の間に立つ。櫻が藍色のアットゥシの裾を押さえながら言う。
「ゆーき! ここ、なんぼか落ち着くべさ! 海よりしばれてなくて良かったよぉ!」
結城が茶色のアットゥシの袖を引っ張りながら返す。
「落ち着くのはいいけど、なんか怖いぞ。こんな森で写真とか」
櫻の親父さんが「はい、並んでくれ!」と指示を出す。結城と櫻がリンゴジャムとピクルスの瓶を持ち、貝塚を背景に並ぶ。静流と酉城は少し離れて控え、母親が「伝統っぽくね!」と目を輝かせる。
撮影が始まると、しゃっこい風が木々を揺らし、櫻のアットゥシの裾がふわりとめくれる。櫻が慌てて押さえる。
「うわっ! とーさん、風強いよぉ! ボクの裾めくれるべさ!」
結城が隣で自然に手を伸ばし、櫻の裾を押さえてやる。
「お前、騒ぐ前にちゃんと持てよ。ドタバタすんな」
櫻が「むぅ~!」と膨れるけど、結城の手が裾を押さえてると気づいて顔を赤らめる。
「ゆ、ゆーき……ありがとう……」
櫻の親父さんがシャッターを切りながら笑う。
「おお~! さくらと日野君、なんぼか夫婦っぽいべや! いい写真だ!」
結城が慌てて手を引っ込める。
「夫婦とか言うな! ただ裾押さえただけだろ!」
櫻がニヤッと笑って絡んでくる。
「ゆーき、ボクの旦那様っぽかったよぉ! なんぼか嬉しいべさ!」
その時、風が再び吹き、結城のアットゥシの襟元が崩れて乱れる。静流がそっと近づき、穏やかに手を伸ばして直してやる。
「結城、襟が崩れてるよ。これでいいかな?」
結城が一瞬固まり、小さく呟く。
「……あ、ありがとな、静流」
櫻がジト目で見てくる。
「むぅ~! ゆーき、しずるちゃんとも夫婦っぽいべさ! ボクだけでいいよね!?」
酉城が遠くから笑いながら言う。
「お前ら、なんぼかドタバタ夫婦っぽいな! 日野が二人に囲まれて、俺は置いてかれちまうぜ!」
櫻の母親が「あらあら、素敵だねぇ!」と手を叩く。親父さんが「次は瓶持ってポーズだ!」と指示を出す。櫻が瓶を掲げ、結城が渋々隣で同じポーズを取る。風がまた吹き、櫻がよろけると、結城が自然に肩を支える。
櫻が目を輝かせる。
「ゆーき、また助けてくれたべさ! ほんと旦那様だよぉ!」
結城がため息をつく。
「助けただけだ。大変だわ、お前の騒ぎに巻き込まれるの」
櫻の親父さんが満足げに言う。
「いいべや! さくらと日野君の掛け合い、なんぼか自然でいい写真だ! 伝統とジャムが映えるぞ!」
静流がクスッと笑う。
「結城と櫻ちゃん、確かに夫婦っぽいね。ちょっとした仕草が仲良しで」
結城が頭を抱える。
「言うな。俺はただ巻き込まれてるだけだぞ」
櫻が瓶を手に絡みついてくる。
「ゆーき、ボクと一緒に撮ればこわくないべさ! 夫婦っぽくてもいいよね!」
撮影が続く中、風で裾がめくれたり、結城が櫻を支えたりするたび、親父さんが「夫婦だべや!」と喜び、母親が「めんこいねぇ!」と盛り上がる。結城は渋々ながら、櫻のドタバタに付き合ううちに、少しだけ楽しさが混じってくる。




